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きっと、だれもが、しあわせになるフォント 【文字をめぐる日常 vol.02】

平成が始まった1989年、マツダからオープンタイプのスポーツカーが誕生した。世界中の自動車メーカーからフォロワーを生み出し、ついにはギネスブックに載るほど売れたそのクルマの名は、ユーノス・ロードスター。最初の広告コピーにはこう書いてある―「きっと、だれもが、しあわせになる。」そして10年後、MB101で組まれたその箱組のコピーを模写している自分がいた。

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2019年2月でちょうどマツダ・ロードスターが30周年で盛り上がっている中、自分が思い出したのは最初の広告コピー。むかし文字組の練習としてモチーフに選んだコピーのひとつ。(今回の画像はその模写のもの)モリサワMB101とヘルベチカで組んだストレートな箱組。朝焼けの様なじんわりとした暖かさと希望が伝わる、本当に良いコピーだと思う。

自分のキャリアが自動車雑誌編集部付きのデザイナーからのスタートだったので、この種のクルマでライフスタイルを訴求する広告というのは(主に雑誌広告という形で)沢山見てきた。

皆一様にMB101の様な太く強いゴシック…と思って昔の自動車広告を探してみると案外明朝だったり細いゴシックのコピーが小さく入っていたりして自分の記憶の適当さに笑ってしまう。むしろMB101でどうにかしなければいけなかったのは雑誌のデザインそのものだった。

当時在籍していた自動車雑誌の誌面レイアウトはMB101とヘルベチカ、本文は中ゴBBBでほとんどのページを組んでいたので、レイアウトの制約となる情報量を上げるとどのページも同じに見えてくる様になってしまう。しかも画像はずっとクルマクルマクルマ……それをいかにページネーションとレイアウトで面白くしていくか。オーソドックスな組み合わせのフォントという制約で格闘し続けたのが自分のキャリアの出発点だ。

今では相当量のフォントを選べる様になり、MB101とヘルベチカの組み合わせを使うこともほとんど無くなった。今でもたまに街中で見かけるこの組み合わせを見て、文字の扱いに迷いレイアウトに苦心した思い出が蘇る。そんなフォントがあるのは幸せな事なのかもしれない。


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