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Green Card 狂想曲(4-Final)

グリーンカード、在米永住権を獲得した時の最終話。
その1)(その2)(その3

私が人生においてもう二度とやりたくない手続きランク。それは、このグリーンカード申請住居の購入である。すったもんだの後、我々夫婦は、グリーンカードの最終関門、面接へと行くことになった。

弁護士さんとはHomeland security office(国土安全保障省)にて待ち合わせ。スーツを着込む我々に、弁護士さんは「ほえ~!二人ともスーツ何か来てるとこう、見違えるもんだね!!」と感心された。いつも汚くてすまんな!とアルゴは笑った。それまで彼に会う時は、普段着だったから、ぼろの。

今でこそ教職なんてやっているアルゴなのでスーツとネクタイは仕事着のようなものだけど、当時は、学生だったのでスーツとネクタイをこのために購入したのである。ちなみに、犯罪裁判所での入籍儀式も我々はぼろの普段着のままという有様であった。入籍に関しては、あんまり「特別な日」とか「特別なこと」みたいな認識がなかったけれど、流石に政府職員からの面接となると、そりゃ特別なのでいくら我々でもきちっとせざるを得ない。

待合室でドキドキしながら待つことになった。Homeland security officeのロビーには、国旗と大統領の写真が掲げてあり、セキュリティーの職員と警察官も常駐している。金属探知機を通る折「あ!また来たの、お!今日は面接か、がんばれよ!あぁ、あぁ、わかってる。股関節が人工関節だからセンサーがなるんだろ」とセキュリティーの人に言われた。そんなお馴染み風に言われるほどには通っていないが?

セキュリティー曰く、アルゴは初めてだったが、私はこの日までに4回この場所に来ている上に、いつもの「人工関節だから~」のやり取り(私は両方の股関節が金属なので探知機には必ず引っかかるのだ。詳しくはこちら)からの、前回の面接における鼻血事件により、顔を覚えられていたらしい。

セキュリティー「沢山の人がくるからね、ここ。普通はあんまり顔とか覚えないけど、君、なんか強烈だったからね。特に前回(笑)長く働いてるけど鼻血出して叫んでたのは君が初めて(笑)」と言われ赤面するのだが、この(笑)も日本人のように控えめなうふふ、とかでなく、豪快なAHAHAHAだったので、すでにロビーで待っている人たちにまでジロジロ見られさらに赤面する私。ちなみにオットは「さすが俺のベイビーだぜ」と言っていたが何がさすがなのか。

待っている間に弁護士さんは「俺の知る限りここには面接する4人の職員がいて、どの人にあたるかわからないけど、一人、すんごく面倒で厄介な人がいるけど、あとは大体みんな大丈夫だから、安心して」などと、その面倒な人に当たったらどうするのか?としか思えない励まし的な言葉を言っていた。待たされること30分で私たちは面接する職員のオフィスへと通された。

「あ、鼻血の人!」とその職員さんは言った後に、弁護士さんに向かって、よぅ、ひさしぶり!と声をかけた。

前回は最悪の最悪だったが、今回は最高の最高である。

なんと。面接官もミュージシャン。趣味でバンドをやっており、仕事だけでなくプライベートでも弁護士さんの顔見知り。まぁ顔見知りだからって面接のさじ加減が変わるわけではないけれども。少なくともロビーで弁護士さんの言っていた『面倒な人』ではないようなので安心した。

そして、面接官はブラックの人であった。これは当時の私にとって、最高のラッキーであった。アルゴはそれまで警察や判事と色々もめたことがあり(くわしくはこちら、とこちら)当時のアルゴは「権力に仕える白人なんて絶対に信じない。偽善者オブ偽善者、キングオブ偽善者である」というような感じでもあった。弁護士さんとの初ミーティングでもご本人に会うまで「けっ!どうせリッチな鼻もちならん白人なんだろ!」とプリプリしていたのだ。

日本人の感覚でいう『同郷意識』的な出身地が近い/同じだから親近感を持つというようなものと同じで、やはり自分と同じカラーの人だと安心感が違う感じがした。もっとも、これは私の考えだから当のアルゴがどう思っていたかはわからないけれど、少しばかりリラックスできる要因ではあったようだ。

私たちはまず虚偽の報告はしない、というようなことを宣誓させられた後に、椅子に座り、デスクを挟んで面談が始まった。

面接員「まぁこれだけ資料があれば(ファイル2冊分)大体のことはわかったけれどまずは出会いから聞かせてくれる?」と言われ、私たちは出会った時の話から付き合いだす経緯まで聞かれた。

そして12年間も一緒にいて、なぜ今、結婚なのか、と聞かれた。そらそうだ。この質問は絶対に聞かれると弁護士さんに言われており、答え方の練習を一緒にしていたのである。練習はしたが、すべてが真実。

「日本にいる親に人種を理由に絶縁されており、日本の家族を説得し続けたが、態度が変わらないようなので、あきらめたというのがまず第一。そして、今はようやく経済的にも自立でき、夫ももうすぐ大学を卒業するので先の計画も立てやすい。それから去年、義母を亡くし、その折に彼は兄、弟とも絶縁しており…あ、詳細は知ってますよね?鼻血フイて説明したアレです。聞いてますよね?てか、聞こえてたでしょ?隣のオフィスだったし……なら、新しい家族になろうってそう思ったからです」

鼻血~のくだりは、練習にはなく、面接官はぷぷぷと笑ったが、すぐにまじめな顔に戻って、「それはもっともな理由だね。君(アルゴ)もそうなの?」と聞かれ、アルゴは頷いた。そこにすかさず弁護士。

「そうなんだ!すごいだろ?この2人は12年も一緒にいるんだ。何がすごいって、2人で彼の詩をタトゥーにしているんだよ。詩だよ?ロマンティックだよね!すごいよね!詩作のタトゥーとか、偽装結婚とかではそこまでしないし、できないでしょ!」

なんでこうもこの弁護士はノリが軽いのだ。こうして人様に改めて、揃いのタトゥーが彼の詩作であるなどと言われると、かなり恥ずかしく私は赤面したが、アルゴは、ふん!ふん!といった感じで鼻高々だった。漫画スラムダンクにおける、桜木花道くんのフン!フン!と同じニュアンスである。

「彼はポエトリー(詩人)なの?」と尋ねる面接官に、またも弁護士が、すかさずそうなんだよ!14歳の頃からスラムポエトリーやってて、大都会の有名カフェで有名な人と一緒にやったりしてて。本も出してる。ここ数年はラップとかDJもやってるんだよ!」

弁護士は、ノリノリであった。合いの手のいれっぷりがすごかった。

見せてくれる?」とは面接官の言葉。

え、見せるって何を?」と問えば「その詩のタトゥー。提出されたファイルには写真ないからさ、ちょっと見たいんだけど。いや、強制じゃないけど興味出るじゃない?」

えええええ。じゃない?なんて言われましても……一瞬、冗談かを思ったが、面接官はまじめな顔である。

「Sure!」もちろん!とアルゴは即答してジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくりあげた。夫が迅速に見せるもので、私も見せる他なくなってしまった。

「はぁ、まぁいいですけれども、ちょっくら失礼しますよ」と私は立ち上がった。見せてと乞われ、公共の場で自分のタトゥーを見せたのは後にも先にもこれが最初で最後の経験であった(タトゥーを入れた経緯はこちら)。

私は、シャツを引っ張り出し、背中を向けて、はいよ!と見せた。私のは腰にあるのである。ドン!

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◇弁護士◇「んねぇぇぇ~~ロマンティックでしょ?(ドヤ)」

◆面接官◆「ほほぅ…if I could give the world my love, I would swallow all they hate(もし私が世界に愛を与えることができれば、私は世間にあふれるあらゆる憎悪を飲み込むことでしょう)君は深い詩を書くね。良かったら他の詩を聞かせてくれないかい?」

そこからは、アルゴの独壇場であり、面接官と弁護士もまたノリノリでアルゴの詩にリクエストをいれ続けた。

◆面接官◆「なんならその出会った時に君が彼女に読んだ詩はどんなん?」
◇弁護士◇「お~!俺もそれは気になる!ぜひ!」
●アルゴ●「いや、ゆーて、恋愛とかの詩じゃなくて、Paddle of Ritalinって言って、俺が精神病棟にぶち込まれて、薬漬けにされて(Ritalinというのは精神症状を改善する薬。「注意欠陥/多動性障害」の治療に用いられる)その時の詩だけど」

◆面接官◆「えっ!そんな詩で?!なんでそんなハッピーでも、ラブでもない詩で付き合うことにしたの?!意味わかんないね、HAHAHA」
□私□「え……いや、その……あのぅ、彼がなんかすごく苦しくて、どうしようもなく世界に1人きりなんだなぁって思えて、その……あの……(もじもじ)」
◇弁護士◇「すっごいね!やっぱりロマンティック!だって当時、君、あんまり英語、聞き取れなかったんでしょ?すごい、愛だよね!愛!」
●アルゴ●「ですよね~。俺もほんとあの詩のどの辺に彼女が惹かれたのかわからないんだけど。うふふふ」
◆面接官◆「ほほぅ、そりゃますます聞いてみたいな」

もう面接なんだか、久々にあった友人たちに飲み屋でこれまでのお話を語る的なノリなのか、恋する女子同士の女子トークなのか、もう意味がわからない。このやり取りが45分ほど続いた。

あれほど懸念し、頭痛の種であった我々の逮捕歴、およびアルゴの若い頃のジェイル生活については何も聞かれなかった。この件に関しては、12年の付き合いと同じように必ず聞いてくるはずだから、とやはり返答の練習をしたのに!なんなんだ。アルゴは延々と詩を読み、歌い、そして面接官と弁護士はノリノリで合いの手をいれているうちに面談は終了した。

◆面接官◆「は~おもしろかった。今度、詩とか音楽の方でライブある時はぜひ行かせてもらうよ。ってことで面接は終了!」
□私□ 「(おもしろかった…とは?)はっ!?え、それはどういうこなの?合格ってこと?」
◆面接官◆「うんうん、合格、合格。数週間から数か月のうちにグリーンカードが郵送されてくるよ!おめでとう!」
□私□ 「え?!は?これで?」

念願のグリーンカード取得の瞬間だったが、ジャイアン☆リサイタルならぬ、アルゴ☆リサイタルのような体になってしまい、実際、我々の関係性などを聞かれたのは最初の5分にも満たない。あとはもうただ、ただアルゴ☆リサイタル。

そりゃ「一緒にいた証明」として年代ごとに手紙や写真などをファイルし、それはファイル2冊分もの量であったため、十分すぎる証拠はあったし、タトゥーまで晒した。だがもっとこう……The面接!というか、厳正な感じというか、なんというか……

◆面接官◆「いやほら、タトゥーの件といい、提出されたファイルといい、そもそも二人がそろってこうしてオフィスにいる姿を見るだけで、君たちがずっと幸せな夫婦でいられることに疑問はないから、合格だよ」
◇弁護士&アルゴ◇「やったー!!」

茫然というか、放心する私を横に相変わらずノリの軽い弁護士と能天気なアルゴ。

と、いうわけでお揃いのタトゥーを見せたらグリーンカードが取れたでござる。これが私のグリーンカード取得の一部始終である。

数週間後、グリーンカードは郵送されてきた。クレジットカードほどの大きさの緑のカードには、ホログラムのような感じで私の写真、署名が印字(?)されており、裏にはなにやら銀色のピカピカのストリップ。小さな紙の封筒が同封されており、普段はこの封筒にいれて保管しろとの注意書きがあった。多分、銀色のピカピカ部分に私の指紋であるとか、そのほかの情報が保存されているのであろう。

身体的にも、精神的にも色々、私を疲弊させたこのグリーンカード手続き。ちなみに弁護士さんからの請求書は結構な額だったが、彼への報酬は全体の25%ほどで後は、すべて手数料として政府にとられた。

その1のNoteにいただいたコメントに

実力あれば楽に米国民になれるってのも、ある意味アメリカンドリームなんですかね

というものがあったのだけど、まさしくその通りであると言わざるを得ない。そもそも、くじ引きで永住権獲得ってのがすごい。くじ引きに関しては、代行業者がまんまAmerican Dreamなんて謳い文句でサイトをやっている。そして、その1に挙げている企業の人や特別な能力を持ってる人に問われるのは財力だし。私のように結婚による取得ですらまず問われたのは財力。つまりは、お金があればなんとかなるということ?その辺については複雑な気持ちになってしまう。

ちなみにこんなにも苦労してようやく手にしたグリーンカードだけれども、最初のものは、いわば仮免のようなもので2年後には更新せねばならない。その更新によって10年もののカードが普及されるのだ。

この2年目の更新は、最初の更新よりもかなり楽な条件。いくつかの指定書類、手数料、そしてこの2年間、パートナーと生活を共にしていた証拠品(手紙や写真)、それにサポートレターと言って友人・知人による「この2人は仲良し夫婦だよ!」みたいなお手紙を提出した。

その頃には我が家には愛犬リンゴが来ていたため、お手紙を書いてと頼んだ友人は「最近、2人は住宅を購入した上に、犬を飼い始めた。家を持つ、犬を飼うというのは大変なコミットメントであるので、2人の夫婦関係を疑うすべはないし、今後、10年、いや数十年にわたり、良き夫婦でいるに違いない」というような感動的なお手紙を書いてくれ、その時の面接官はその美文にほろり、と涙したほどである。友人にとても感謝した。

現在はまだ次の10年の更新までしばらく間があるので安心であるが、またもこの面倒なプロセスかと思うと、とっとと市民権を取った方がいいのかもしれないと思うこともある。市民権は、社会科のようなテストと面接をパスすればもらえるが、日本は多重国籍を認めていないため、市民権を取った場合は、日本国籍を捨てることになる。

正直なところ、国籍を変えるというのには何の考えも、ためらいもないのだが、将来、もしかしたら日本に帰って暮らすかもしれないという可能性が捨てきれないので、私はおそらく、また数年後には、更新手続きをすることになるのだけど、その時はタトゥーを晒すことはないことを祈るばかりである。

(終)








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