見出し画像

ギミル街の悪夢 —僕のつくりかた—

 やさしさ、というものは時に履き違えることがある。父はすごく僕にやさしくて、僕のすることならなんでも褒めてやさしく抱きしめてくれた。厳しい小言を言う母よりも父の方がずっとやさしかったから、試験で良くない点をとってしまったら僕は父の書斎へ行って、それでも頑張ってえらいじゃないかと褒めてくれる父に甘えるのがいつものことだった。母に知れたら大目玉なのはわかりきっていたから、なるべく母には試験の結果がバレないように父の協力を仰いで大量の蔵書の中に僕の答案用紙を隠してもらって、僕と父は二人で悪戯っぽく笑い合った。

 父はUFOが好きで、宇宙の小説を書いていて、母には「あまりパパの部屋に入っちゃいけないわよ。よくない影響を受けるに違いないわ」とよく言われていたけれど、それでも僕は独特のインクの香りが漂う父の書斎がとても好きだった。

 ある日、父の部屋から母の怒号が響いた。父の部屋を掃除していたらしい母が、何年も隠していた僕の答案用紙を見つけてしまったのだ。母の声で書斎に呼ばれた僕は、父と一緒に、永遠に続くのではないかとも思われる小言を聞き続けた。「おかしいと思ったのよ! 試験の答案用紙をさっぱり渡さないんだもの!」
 母は、今後は試験の答案用紙を隠すような卑怯な真似はしないこと、そして、誰のためでもなく僕自身のために、授業や試験から逃げずに自分と戦うことの大切さを説いた。
 母は最後に、あなたを作れるのはあなただけなのよ、と言って、残念そうにため息をついてキッチンへ戻っていった。

ここから先は

1,894字 / 1画像

¥ 150

お布施歓迎。そのお金はこのコラムを書いている電子機器や和風曲芸の制作費に遣わせていただきます!