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【NZワーホリ恋愛体験談】②愛していると言ってくれ フランスの男(前編)

☆これまでのあらすじ☆
29歳でオーストラリアへ1年間のワーホリに出かけ、日本に戻ったのも束の間、30で今度はニュージーランドへのワーホリに出かけたのだった。

☆用語解説☆
・ワーホリ: ワーキングホリデービザ(若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはその保持者。
・バッパー: バックパッカーズホステルの略。安宿。

※この記事はほぼノンフィクションです。誰かに迷惑が掛からないようちょっとだけフィクションを混ぜてます。

***
(本編ここから)

ニュージーランドはオーストラリアの南東に浮かぶ、南北の島に別れた小さな国である。

人口よりも牛や羊の数の方が多く、事件らしい事件は滅多に起こらない。

そのせいなのか、存在感が薄いようで世界地図から消えていることが度々ある。
キウイ(ニュージーランド人)の自虐ジョークにもなっているくらいだ。

世界地図からNZが消えている!各国の陰謀だ!というNZツーリズムの広告。
前首相のジャシンダ・アーダーンも出演しちゃうのが凄いところ。


私はニュージーランドの最大都市オークランドに到着後、銀行口座を開設、IRD(納税者番号)ナンバー取得、携帯電話用のSIMカードをゲットなど諸々の必要なことを終え、稼げるファームジョブ探しの旅に出た頃には夏の終わり、2月に入っていた(南半球は季節が日本と真逆となる)。

農業大国のニュージーランドは時期によってファームジョブの忙しい地域が異なる。
この時期はちょうどニュージー北島のホークスベイの繁忙期でリンゴの収穫期だった。

あちこちで情報を収集し、ホークスベイのヘイスティングスという町に移動した。
もう繁忙期は始まっていたので多くのワーカーがこの町に集まっていて、私も周囲に倣っていくつかのパックハウス(箱詰め工場)に仕事を申し込みに出掛けた。

そのバッパーに滞在する者たちの多くがなんらかのファームジョブを探しているか、働いていた。
フランス出身のアーノルドともそこで出会った。

肩より長いブロンドの髪に華奢なアーノルドは、とあるマッチョな有名人を想像させる名前とのチグハグさから、一発で名前を憶えられた。

「分かるよ。
僕の名前と僕自身が合ってない感じでしょ?」

ニヤッと笑うアーノルド。
それでも自身の名前を気に入っていると続けた。

「僕には父親が5人居てね。
僕の名前は本当のお父さんが付けてくれたんだ。」

どこでどう反応をしたら良いのか分からず、ohと相槌を打つ私。
下手なことを聞けないなと思いつつ、言葉を選びながら尋ねた。

「本当のお父さんのことが好きなんだね。
良く会うの?」

「ずっと会ってなくて、顔もよく知らないままだったんだ。
だけど父がこの町に居るって聞いて、ワーホリ利用して来てみたんだ。」

なんと!
良い話っぽい!

「会えたの?」
興奮気味に尋ねる私。

「うん。
このバッパーに滞在してたんだ。」

なんてこった!
誰?!
自分の息子にアーノルドと名付けた『ターミネーター』が好きかもしれないお父さんってどんなマッチョ?

「あの人だよ。」

視線の先にはアロハシャツを身に纏ったひょろっとした体型の、ウクレレを弾く初老の男性が居た。
マッチョじゃなかった。
なんでアーノルドにしたんだろう。謎は更に深まった。

アーノルドのお父さんは体型こそ息子同様に華奢だけど、性格はアーノルドと真逆の印象を受けた。
お父さんは愛と自由を胸に生きるような人で、アーノルドはもっとこう、なんていうか、面倒くさい気難しい感じだ。

お父さんのウクレレはお世辞にも上手とは言えず、周囲からはコソコソと騒音だと言われていたのだけれど、本人は知ってか知らずか毎日楽しそうに練習していた。

お父さんが滞在している間、アーノルドはお父さんと一緒に行動することは多かったけど、お互いにまだ少しどう接して良いか分からないような距離感があった。

そこに私の登場だ。

英語もまともに喋れない、無害そうで仕事もしてない暇な私が、彼らの間のクッション材として選ばれたようだった。
普段の会話で、どこかへ行く時、二人から声を掛けられることは多かった。

しばらくして私もアーノルドもナイトシフトの同じパックハウスの仕事を見つけ、毎日忙しくしている間にお父さんはいつの間にかバッパーを出て行った。
アーノルドは特に寂しそうな様子でもなかった。


アーノルドは普段からちょっと変わっていた。

物静かだけど話しかけられればきちんと答えるし、お喋りは好きなんだと思う。
だけどだいたいその返答はこちらが予想しないもので、彼なりの哲学があるようだった。
なるほど、と思うこともあるし、なんだそりゃ、と思うことも多々。
彼を苦手として近づかないようにしている人も多かったが、私は英語をしっかり聞き取ることに集中していたのもあって、否定も肯定もせずに、うんうんと聞いていた。
それがアーノルドには良かったのかもしれない。


ある仕事終わりの深夜未明。
私達はみんなと一緒にバッパーに帰りグッタリしていると、アーノルドがマッサージをしてくれると言う。
アホな私は喜んで彼のマッサージをリビングのソファで受けたのだけれど、周囲はこれにギョッとしたらしい。

翌日、仕事中にマレーシア人のEがコソッと尋ねてきた。
「アーノルドとどうなってるの?」

え?

驚いていると、周りで聞き耳を立てていた韓国とオランダの友人達に囲まれた。
「どうなの?」
「付き合うの?!」
160cmある私が一番背が低かったので、彼女らに囲まれるとかなりの迫力だ。

「付き合わないよ!何でそう思うの?」
彼女たちの勢いに押されながら答えた。
私達4人はシフトもバッパーも一緒なので、この頃よく一緒に行動していた。

「だってマッサージしてもらってたじゃない!
ビックリしたんだから!」
ボスの目を気にしながら180を超えるオランダ人Aは興奮した調子で言う。

ん?

「マッサージって、恋人同士の行為なの…?」
恐る恐るみんなに聞いてみた。

「そうだよ!」
「何言ってんの、当たり前じゃない!」
「もーカナコー!気を付けてよー!」
口々に注意を受けた。

「だってさ、疲れてたし!
それにアジアではマッサージって違うじゃん?
もっと、疲れをとるためのものじゃん!」
慌てて弁解する私。

「まぁ確かにそうなんだけどねー。」
韓国人Sは苦笑いで理解を示してくれた。

マレーシア人Eはニヤニヤして更に尋ねてきた。
「で、どうだった?アーノルドのマッサージは?」
なんでニヤニヤしてるの。笑

「いや、私アジア人だからさ、もっと力込めたマッサージを期待してたんだよね。」
私は正直に答えた。

韓国人S、マレーシア人Eの二人は声を抑えながらも爆笑。

「わかる!
マレーシアのマッサージしてあげる。
こういうのでしょ?」

マレーシア人Eがボスの目を盗み、良い力加減の肩揉みをしてくれた。
それそれ。

「で、ヨーロピアンスタイルがこれ。
撫でるだけ!」
続けて韓国人Sが私の背中を撫でてオランダ人Aにその違いを見せた。
流石にここでボスに睨まれた。

バッパーに帰ってもマッサージ話が続いた。
ガールズ達が他の仲の良い友人達に対し「カナコが世間知らずなだけだった!」と笑いながら説明していたので、ここで男女間のマッサージの意味の大きさについて改めて思い知った。
恥ずかしい…。

前夜のマッサージは笑い話となり、私達は多国籍なマッサージを披露し合った。
アーノルドはそんな私達を横目に、ダイニングテーブルで静かにホットミルクを飲んでいた。

誤解、してないよね?
てことで、一件落着???

(続く)

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