【ワーホリ国際恋愛体験談】 ⑨ まだ恋は始まらない 台湾の男inパース (前編)
☆前回までのあらすじ☆
29歳、初ワーホリでオーストラリアにやって来た!
いろんな出会いと別れを経験しながら、ケアンズ、東海岸と旅をして、西オーストラリア州のパースに辿り着き…
☆用語解説☆
・ワーホリ: ワーキングホリデービザ(若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはその保持者。
・バックパック: リュック。
・バッパー: バックパッカーズホステルの略。安宿。
・パース: 西オーストラリア州の州都である美しい町。
※この記事はほぼノンフィクションです。誰かに迷惑が掛からないようちょっとだけフィクションを混ぜてます。
***
(本編ここから)
ケアンズから始まった私の旅もオーストラリアの外周を既に半分周り、私は西オーストラリア州の州都パースのお気に入りのバッパーにステイしていた。
この頃になるともうだいぶワーホリとしても慣れてきていて、一番安いミックスドーム(男女一緒の部屋)の12人部屋に居た。
男女一緒の部屋で寝泊まりというと、
「え、それはちょっと…」
という方も多いと思う。
私も初めはガールズドーム(女子部屋)に宿泊していた。
だけどどうしても、ガールズドームには耐えられなくなったのだ。
多くの女子、特に若者は、モノが多い。
メイク用品があればそれを落とすためのクレンジングが必要だし、髪を美しくキープするためヘアドライヤーやヘアアイロン、そしてヘアスプレーなんかも必要だ。
ネイルは気分や季節、服装や行く場所によって変えたい。
服だって旅行用、町歩き用、パーティー用と必要だし、それに合わせた靴も必須となる。
もちろんバッグやアクセサリーだって。
どうやってそれらをバックパックに詰めるかは彼女等のみぞ知るところで、兎にも角にも女子は荷物が多い。
ガールズドームは年頃のお洒落女子が揃うと、物が多すぎて部屋全体が無法地帯となる。
言葉の通りに本当に足の踏み場も無くなる。
ミックスの方がお互いに気を使って、意外にみんなキチンと部屋を使っていることに気がついたのだ。
そしてどうにも悩ましいのが匂いだ。
部屋の住人が体力のいる場所で働いていたりすると、体臭が凄まじいことになったりする。
これは寝るときにどちらに枕を置くかで微調整が可能だ。
女ばかりだとその辺は大丈夫かと思えば、実はそうでもない。
今度は香水やらヘアスプレーの匂いが部屋を満たすのだ。
強烈なのは変わらない。
どちらの匂いもキツイけれど、その強烈な人工的刺激臭が入り混じった空間に、私は耐えられなくなったのだった。
ミックスドームでは、アラサーとはいえ一応女子の端くれなので、上の段のベッドが空いていれば念のためそちらを選ぶ。
このバッパーでも上の段のベッドを確保していた。
ある日の昼下がり。
トイレに行く間だけ普段持ち歩く小さなバッグをベッドの上に置いたままにした。
言うまでもないことだが、毎日多くの人が出入りするバッパーではロッカーがあれば荷物は全てロッカーに入れておく方が良い。
財布やパソコン、スマホといった貴重品などは特に管理を徹底しておかなければいけない。
私も何度か盗難騒ぎを目の当たりにしたものだ。
だがその時は、バッグには水やガイドブックなどしかなかったし、ベッドも上段で見えないだろうと思ったのだ。
無人の部屋に帰ってくるとバッグの上にタオルが掛けられ、神経質そうな細い字体のメモがちょこんと添えられていた。
”気をつけて。 アレックス”
ヤバッと思って、バッグの中を見てみた。
何も無くなってないことを確認。
私の無用心をたしなめ、他の人に見つからないようタオルで隠してくれたということを理解した。
「でも、アレックスって誰だ…?」
お礼を言ってタオルを返そうにも、誰だか分からない。
一応、部屋に新しく入った人たちとは最初に簡単に挨拶と自己紹介をする。
だけど私は自慢じゃないが物覚えが悪い。
大部屋だし初めましての人は全く覚えてなかった。
しばらくして冷静になり、二段ベッドの上段の見えにくいところに置いた私のバッグを確認できるのは、背の高い男の人か二段ベッドの上段の住人たちしかいないと気づいた。
アレックスは最近私のベッドの隣の上段にやってきた、台湾出身の男の子である線が濃厚だった。
「このタオルはあなたの?」
台湾の男の子に一か八かで聞いてみた。
「そう、僕がアレックス。」
ちょっと笑って、
「君はもうちょっと注意深くなくちゃダメだよ。」
叱られてしまった。
顎くらいまでのロン毛で、メモの字体の印象通りにとてつもなく細い身体の彼は、紳士的でその一件以来何かと私を気に掛けてくれた。
「夜に女の子一人で歩くのはよした方が良い。」
「君は女の子なんだから知らない通行人とは距離をもっと取った方が良いんじゃないか。」
小うるさく注意をくれるアレックスは心配性、というか、過保護。
彼は私をまるで良いとこのレディのように扱ってくれる。
そんな紳士には初めてお目に掛かったので、ウルサイなぁと笑いながら照れくさかった。
ちょっと嬉しくもあった。言わなかったけど。
(続く)
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