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ひとりにしないで。

3月9日
駅で待ち合わせをした。自分が先に着くの分かってたから、わざと少しホームで時間を潰してから改札前の花屋さんに行った。わたしがいなくて慌てて探していた彼を見つける。
黄色い花がたくさんあった。

魚貝類系のパスタが食べたいとのリクエストに、線路沿いのスペイン料理のお店に案内してくれた。昔、付き合い始めの時に一度だけ来たよね。本日のおすすめランチをふたつ頼んで、ふたりで分けて食べる。添えてあったパンが美味しかった。
外に出るとすかさず彼は手を繋いでくれる。まだまだ日中でも寒かった。どこに行きたい?と訊かれて、服屋さんを見に行く。どれが似合う?こういうのを探してる、そんなことに付き合ってくれた。

日が暮れてきている。クレープが食べたいと言ったがクレープ屋さんは定休日で、たい焼きを買って食べた。彼は食べないと言ったので、何口か口に押し込んであげると「思っていたより美味しい。懐かしい味だね」と言う。
小学生のとき、放課後よく友達とゲームセンターに来た場所は、古着屋になっていたが街並みは店がこれだけ変化しても変わらない。彼が育った街。そして今住んでる街。

「家はどこにあるの?」
はじめて彼の一人暮らしの家に行く。部屋は片付いていて、棚の上に、わたしが捨てたはずの子どもたちの写真や絵が飾ってある。セックスをしたあと彼が言う。
「好きな人が出来た。」
帰る支度をしていると、カレンダーが目に入る。彼女に会う日が印をしてある。まだ何週間も先なのに。

彼が運転する車に乗る。わたしたちは恋人でもなんでもないが、十数年ぶりに恋人のようなデートをした。残酷だね、わたしへの腹いせ?
思いつく限りの罵詈雑言をぶつける。責任だけ押し付けて、自分は他の女に逃げるの?
今まで、どんなに酷いことをしてきても謝らなかった彼が「ごめん。」と頭を下げる。
これ以上の悲しみはなかった。
ひとりにしないでよ、ずっと一緒にいてって言ってたじゃない。それに答えてよ、てあなたは言ってたじゃない。今答えるよ、ひとりにしないでよ。お願いだから。

花が確かに咲いていた。
眩いばかりの梅の花。そんなものはもう過去で、冷蔵庫の中にはお土産に買った蜜柑が腐っている。わたしは急に目指す道が分からなくなった。今まで、あなたと良い関係を築くために努力し続けてきたから。ひとりになったバランスを保とうとしている。それはまだうまく出来ていない。

あなたはまたきっとわたしに寄りかかりに来るだろう。わたしはそれを振り払えるように強くならねばならない。
もうすぐ辛かった三月が終わる。


大好きなピカソの絵。
Rolleiflex 3.5F Xenotar 75mm f/3.5



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