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面会時間は家族と話すか、推し活か / 父との記録日記DAY3

近所で仲良しなおじちゃんがいる。


夫の営む本屋『カクカクブックス』の1番の常連さんでもある。

ふらふらとお店まで歩いてきては、ブドウがなったから取りにこいとか、紫陽花を切って店に飾れとか、ちょっと変わったトマトあるからやるわとか、声をかけてくれる。

今日も、「千両がたくさんあるから取りに来いって言ってたよ」と夫から聞いて、庭に侵入して勝手に切らせてもらった。
好きな時に勝手に切ればいいといつも言われているけれど、侵入時は少しドキドキする。

悪いことはしてませんよ〜!
家主に許可を得てますよ〜!
と、顔で語りながら侵入することにしている。

ツヤツヤで美しい緑の葉に、小さくて鮮やかな赤い実。
ふと、クリスマスカラーなのになぜ千両や万両は和風に思えるんだろうと思うなどしながら、活けてお店に飾った。
先入観がなければ、クリスマスリースのように飾れるのだろうか。

このおじちゃんとは、会うとよく、適当でいい加減な冗談を言い合ったりして楽しんでいる。
夫はボケたり突っ込んだりする会話が苦手なようで、おじちゃんの対応にはたまに困惑するようだけれど(笑)、私は何も気を使わず、雑な話をしても受け止めてくれるので面白いと思っている。
なぜか近所のおじちゃんに、心理的安全性を感じているのが自分でも可笑しい。

なぜかというとこのおじちゃん、どうにもうちの父に似ているのだ。
顔や見た目ではなく、雰囲気とか、思考とかも多分。

歳も父と同じくらい。
免許は返納しているけれど、仕事はまだ続けているようだ。
歴史の話が好きなことや、アジア諸国への感情、政治思想も、父と似ている。
もしかしたら世代とは、そういうことなのかもしれない。

そして同じように肺気腫を患っており、最近は酸素吸引を始めたと言っていた。

「ちょっと動くと息がしんどいであかんわ〜」
笑いながら言うけれど、本当にしんどいんだろうなあ。

「肺気腫、うちの父と同じだね、タバコも吸ってた?」
「あの頃は飯食うよりもタバコの方が安かったからね」
「タバコで腹は膨れんけどね」
「そしたら飯食った方がいいなあ〜」

そんな感じの適当さで、お互い気楽でいい距離感。

おじちゃんを見ると、おじちゃんの未来と今の父が重なる。
私は今から少し、すでに心を痛めている。


一昨日のことが嘘のように、普通の入院患者になった父。

面会した。
本当にめっちゃ普通だった。

背中を起こして座って、ペラペラと話している。
酸素マスクではなく、鼻からの吸引に切り替わっていた。

差し入れはヨーグルトとトマトジュースとバナナ。
どうやら食べたくなったら食べていいらしい。

ICU(集中治療室)は、もっと緊迫している場所かと思っていたけど、とても穏やかな部屋。
ベッドが何個も並んでいるけれど入室者は父以外誰もおらず、がらんと広い。
(年末年始だからかな?と思ったけど、緊急事態の人はそれどころじゃないはずですよね。)
そこに看護師さんたちも常時いるからか、個室よりも安心感があるし便利と、父は言っていた。

「一昨日はなんやったんやろうね?復活すごいね!」と話すと、父も不思議な顔をしていた。
必死に酸素を吸って、もうダメかも、としか思えないような雰囲気の中での面会のことは、霞がかったようにほとんど何も覚えていないらしい。

「あ〜あ」と弱い筆圧で紙に書いたことも、
この前の旅は楽しかったねと話したことも、
母と2人で冷えた細い手を握っていたことも。

ケロッとした顔でそこに座る父からは、顔色は良くてもやはり病気の進行を感じる。
ほとんど歩くことがない数ヶ月を経て、足はカリカリに痩せて血管も透けていた。
身体中のシミや傷跡も、もう治ることはない。

喋れて、座れて、物も食べられるのに、動けない。
いろんな管に繋がれている父を見て、ここにいるのはつまらないだろうな〜と思った。

「テレビもないし、本もスマホも見るのはしんどいし、何にもやることがない」という父は、これから面会だけが楽しみになるのだろうか?


何を話そう。

こういう時、どうしても病気の症状とか、家族親族の状況の話とか、そういったもので時間が過ぎてしまいがちだな、と、思った。
つまらん。
それはつまらん気がするなぁ。

少しの面会時間、何を話すのが楽しいんだろうか?
入院中は何をするのが面白いんだろうか?

このたった15分の面会は、しばらく何日も、何ヶ月もずっと続くかもしれないし、明日にでも終わりを迎えるかもしれない。
もっとこう、昔の家族のエピソードとか、思い出話がいいんだろうか?
父との共通の興味のある話題ってあんまりないな、ということに気づいた。

なんて考えていると、父が。
「〇〇さんと、邪馬台国の話がしたくてしょうがない!カナちゃん探してくれた、あの絶版やった高い本の話!」
と、力強く言ってきた。

そうだった。
数ヶ月前、父ご所望の本は絶版で通常ルートで仕入れることはできず、高騰した金額で取り寄せたな、と思い出した。
好きなものにはお金を払う、大事なことです。
そしてまたここでも生きる欲。いいね。

ちなみに〇〇さんは親戚なんだけど、もう90歳で本人も来るのが大変なんだけどね。笑
令和の今、邪馬台国の話でそんなに盛り上がれる仲間がいるのは貴重だよね。

父と同じく、自分が入院して退屈していた時には、家族に神妙にされるより、共通の趣味がある人と思いっきりおしゃべりしたい!と思った。
推し活は生きる力をみなぎらせる。


邪馬台国かぁ…(興味ないなぁ…)
やはり卑弥呼が推しなんだろうか?
(登場人物1人しか知らない)

もうちょっと私も、勉強してから面会に挑むか。
(いや、それはめんどい)

今日の父の手はあたたかくてふっくらしていた。

2023年12月30日



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