「君になれ」が、奏でるもの。
双葉社「月刊漫画アクション」で連載されている高野苺先生の漫画。
単行本は第1巻が発刊されています。
「高野苺」×「コブクロ」
「orange」や、「夢見る太陽」、「いちご同盟」などで、登場人物の繊細な心情描写や、懐かしく感傷的な気分になるような風景作りなど、多彩な才能で多くの読者を魅了してきた高野苺先生。
今作は、コブクロの楽曲『君になれ』から産声をあげました。
物語を飾る主人公は、明るい笑顔を輝かせる高校3年生の少年「太陽」。
対照的なミステリアスな雰囲気を持つ少年「光(ひかり)」。
そして太陽の幼馴染の「桜」が、中心として物語が進んでいきます。
今作の魅力
1、「ただのバンド漫画ではない」
バンド結成や劇中での舞台、コンテストを目標にしている漫画は、正直に言ってしまうと『人物』、(バンドや吹奏楽などの場合は『楽器』)、『目標』(全国大会に出たい・ワンマンライブをやりたい)という要素があれば、出来上がるものです。
(私の好みの問題ですが)楽器はスブの素人もいいところで、音楽に関する知識は記事として書くために勉強をしなければすっからかん、楽器に触った記憶はリコーダーが最後である私は、基本的にそういった漫画にすぐ「飽きてしまう」傾向があります。
ところが、この漫画の主人公たちは高校三年生という進路や恋愛で悩むような複雑な年代で、”バンド活動”だけではなく、それぞれの人生観や目標の追求などに苦悩や葛藤を抱えながら物語が紡がれていきます。
ただ、『目標を叶える=最終回』という仕組みではなく、日々悩みや目標を抱える読者の心に寄り添い、登場人物のさまざまな感情が交錯しながら進行していく物語です。
2、「1巻における多くの謎」
・”太陽の目の前に現れる青年”
高校三年生に進級し部活生活に心残りのある太陽は、もう一度文化祭のライブを行うためにギターと歌唱の練習を続けているところから第一話がはじまります。
そんな日々の中、深くパーカーのフードを被った青年に「このギターならお前の才能を引き出すことができる」と伝え、一本のギターを手渡され、その後も作中では、太陽が思い悩むときに度々彼が突然目の前に現れるようになります。
人を寄せ付けないような影を纏った彼の正体は、一体何物なんでしょう?
・"光が楽器を弾けなくなった理由"
光の表情を見ていると、彼が”楽器を弾けなくなってしまった”ことには何か深い理由があることが伺えます。
我々の生きる現実世界で置き換えてみると、「機能性ジストニア」や、なにか過度なストレスによって引き起こされたものだと考えられます。
彼のいきいきとした瑞々しい思いを奪ったものは、作品が進むによって明らかになってくるでしょう。
・"桜のせつなげな表情"
太陽の幼馴染である桜は、日々夢を追って歌唱やギターの練習に励む太陽と、ぶっきらぼうながらも応援する光に、いつもさわやかな笑顔で応援の気持ちを伝えています。
そんな今作における「癒し」のような存在である桜は、太陽とふたりっきりになる場面では、悲しげな表情を浮かべます。
その感情の正体が知りたい太陽は、何度も桜を気にかけて話しかけますが、その真相は彼女の口から語られないまま。
彼女は、太陽達にどんな感情を隠しているのでしょうか。
・希望と闇 動機と躊躇いが交わる
きっと彼らが紡ぐ旋律は、ただの音色ではない。
前向きな感情の中では、躊躇いが。
後ろ向きな感情の中では、期待が。
今作の登場人物は、現実に生きる人間のように”裏”や、”表”に似たふたつの側面を持った感情を抱きながら、目標に向かって進んでいきます。
物語はまだまだ序盤の段階ですが、彼らが魅せてくれる旋律は一体どんなものなのでしょうか。
彼らが、「目標」に対して悩み、考え、苦しんでからこそ。その旋律はより色濃く、輪郭がはっきりしたものを描いていけるのだと思います。
コブクロの楽曲と合わせて
「漫画は”視覚”だけを頼ったもので、肝心の彼らの音楽は聞こえてこないじゃないか」「漫画はどうせ漫画だ」
真の音楽好きの方の中にはそういった声もあると思います。
そんなあなたに朗報です。
こちらのPVは、この作品の原作となったコブクロの楽曲「君になれ」と、
今作がタイアップしたものです。
澄み渡ったバラードで世間から知られているコブクロが創り出した、ある意味新鮮と言える疾走感の溢れるナンバーに合わせて、太陽、光、桜が様々な感情がこもった表情を見せてくれます。
そして、夢や目標を追う多くの方の心を打つ歌詞。
そんな君が素敵かどうか?を 決めるのは君じゃない
君を愛する人が見てるのは 今よりもずっと遠くの君
駄目な時も 輝く時も 同じ様に君を信じてる
その愛は本物だから いつの日か 本物の君になれ
今はまだ 勝てなくて良い 分からなくて良い 出来なくて良い
迷えば良い 会えなくて良い 言えなくて良い 孤独で良い
今はまだ そこにいれば良い 何も無くて良い そのままで良い
いつの日か 本物の君になれ
君になれ 君になれ
コブクロ 「君になれ」より
高野苺先生の新作の単行本が出る、ということを知っていても、正直に申し上げてしまうとあらすじだけではあまり興味を持てなかった私に、音楽と絵柄がつくことによって心の奥深くに入り込んできました。
最初に再生し終わった次の瞬間、小銭入れを持ってサンダルで最寄りの本屋まで全力で走っていった記憶があります。
それほど、読者の背中を押すような要素が今作で描かれているのだと考えられます。
太陽、光、桜は。
希望と葛藤の中でどんな旋律を奏でていくのでしょうか。
次の巻を、「君になれ」を聴きながら。
心待ちにしています。
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