君にとっては人の夢の話
僕はよく夢を見る方だ。と勝手ながら思っている。僕以外の人が夢を見る頻度なんてものは知らないし、なんなら自分自身のことすら正確には分からない。
とにかく、昨夜から今朝にかけて夢を見たことは間違いない。
僕は実家の近くで車を走らせている。なにか、大きな机のようなものを運んでいるらしい。そして助手席には高校時代の同級生がいた。
彼のことをT君と呼ぶことにする。T君とは、2年間同じクラスになったのだけれど、特段仲が良いい訳ではなかった。
寧ろ彼は、僕とは正反対の性格で、闊達でひょうきん者で、いつだってクラスの中心にいた、と記憶している。どちらかと言うと、苦手な存在だった。
ただ、記憶しているだけだ。彼のことを思い出すことなんて、おそらく年に1度、あるかないかといったところで、夢に出てくる所以はどこにもないように感じられる。
それなのに、どうしてなのだろう。彼がそこにいたのは。
二人で荷物を僕の実家に運び入れて、僕はなんだかとても穏やかな気持ちになっていた。そしてT君に告げようとしていた。
「学生の頃から考えると、二人でこんなことをしているのは不思議だね。」と。
そんな恥ずかしいことを言っても構わないような空気だった。確かに空は晴れていて、冬の風に筋肉は少し固くなり、唇を動かすことが少し難しかったけれど。
そう告げようとした時に目は覚めた。僕は寒空から布団の中にいつのまにか移動しており、T君はそこにはいなかった。
先程まで親密感を抱いていた自分に驚く。そして、言葉を伝えられなかったことに少しだけ後悔した。
夢に意味はあるのだろうか。勿論、現実にとって何かしらの効果や作用はあるのだろうが、今回の夢は一体何だったのだろう。
恐らく、明日にはこの夢のことはきれいさっぱり忘れてしまっていると思う、そう確信している。けれど、この夢を見たことでT君への苦手意識は大分克服されたように思える。一晩にして記憶が改ざんされてしまったわけだ。
この改ざんは一体誰が主導して行われたのか。僕の無意識か記憶中にある彼か、それとも誰でもないのか。
まるで映画のインセプションみたいだとか思っているとだんだん具合が悪くなって来たので、もうこれ以上は考えないようにしよう。
ともかく、彼が元気で過ごしているともいいなと。今の僕は思う。
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