『僕と彼女は猫と眠る』
僕が彼女より先にダブルベッドに入ろうとしたら、先客がいた。
猫である。僕と彼女と一緒に暮らしている、愛すべき猫である。猫が先客としてベッドで寝ているのはよくある事だが、問題は猫が寝ている場所だ。
朝方、僕らの脱けがらのまま位置していたダブルベッドのかけ布団は、ちょうど中央の部分が凹んでいたのだ。
いつもなら枕の横の辺りか、布団の角を好んで寝ている猫ではあったが、寝心地のよい場所は見逃さない。キレイに丸まって、布団の中央の凹みに収まっている。
つまり、こういう事だ。
ベッドと猫を前に、僕は僕の寝る場所について考える。恒例として彼女を左側にして寝ればよいと考えるが、それはまずい。
なぜならば猫が邪魔になるからだ。このままだと僕は彼女に触れることができない。
しかし、まあ、気持ち良く寝ている猫を起こし、場所を移動させるのは忍びない。
ならば、寝る方向を変えてはどうか。
いや、だめだ。
枕は彼女に譲ろう。
違う。これでは本来の目的であった、彼女に触れることができない問題を解決できない。それに、僕が先に布団に入っていたら、彼女はどうするだろう?
もしかすると、こんなことになるかもしれない。
眠るときになってまで、果たして僕らは何をしているんだろう。
いや、妙案がある。
彼女に選ぶ隙を与えなければよいのだ。猫が僕にとっての先客なら、僕は彼女にとっての先客なのだから。僕には寝る場所を選ぶ権利があるはずだ。
僕は決意して、布団に足を入れる。
ちょっと窮屈だが仕方ない。
体勢に無理があり、眠れるはずもなかった僕はしばらくの間、そのままの格好で時間を過ごした。
頭の中で、彼女が入室してきた場面を想像しながら。
「なにしてんの? 私が寝る場所が無いじゃない」
「え?」
「邪魔なんだけど」
「そう?」
「うん、邪魔だよ」
「僕がどけないと言ったら?」
「私はリビングで寝る」
「はい、どけます。はい」
僕は彼女の寝顔と猫の寝顔、どちらも見たかったので素直に従った。
翌朝、ベッドの中央を踏んで形が残らないように気をつけながら、僕は彼女の後からベッドを出た。
愛すべき猫はリビングの猫用こたつで、まだ寝息をたてている。
(おしまい)
僕の書いた文章を少しでも追っていただけたのなら、僕は嬉しいです。