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ライターの視点:第一回意識研究会を終えて

東大名誉教授の哲学者がたちあげた「意識研究会」

意識研noteから訪れた人は、初めまして。ライターとして、この意識研究会に参加している寒竹泉美(かんちくいずみ)といいます。わたしの任務は、この難しい、怪しげな、研究会の内容を、一般の人にわかりやすく、うさんくさくないし怖くないし、何ならとても面白いと伝えること、そして、意識についていろんな人が議論できるような土壌を作るお手伝いをすることです。

意識研は「意識とは何か」という究極の問題を問い、広く語り合う文化を日本に巻き起こすために必要な諸活動を行う非営利団体です。東大名誉教授・信原幸弘先生を中心に、2023年度は3人の研究テーマ提供者と一緒に議論します。

渡辺正峰 東京大学准教授
マインドアップローディング

渡邊淳司 NTTコミュニケーション科学基礎研究所上席特別研究員
ウェルビーイング

藤野正寛 NTTコミュニケーション科学基礎研究所リサーチスペシャリスト
マインドフルネス

詳しくはこちら

と、いうわけにはいかず、やっぱり概要を説明してくれと信原先生に言われたので、がんばってみます。

意識を機械にアップロードする研究者×哲学者

この会で考える意識は、救急車で運ばれるときに意識があるかないか確かめるあれではなく、自分の内に湧く素朴な主観のようなもの。わたしたちはモノを見ると、「見ている」という感覚をもつ。単に網膜に光が入って脳細胞が反応しているというだけでなく、赤いリンゴを見ているときは「赤い」という感覚が湧く。自我とか意思とかそういう高次な機能のもとになる、ただ勝手にどうしようもなく内に湧く、この素朴な感覚は、いったい何が作っているのだろうか。

主観でしかとらえることのできない意識は、長らく科学の対象にはできなかった。そのため、哲学や心理学の分野で議論されてきた。しかし、最近は科学や工学やコンピューティングの分野から意識を考えるアプローチも進んでいる。

渡辺先生は、ヒトの意識を機械にアップロードする方法を考え、それを実行することで、意識とは何かを明らかにしようとしている。その方法論は著書『脳の意識・機械の意識』に詳しく書いてあるので、興味がある人は、ぜひどうぞ。七沢さんがまとめている、こちらのnoteもわかりやすいです。

そんな渡辺先生を呼んで、意識とは何かを考えようというのが、2023年の4~6月の会。4月の第1回目のアジェンダはこんな感じでした。

第1回 マインドアップローディングの基本構想
・マインドアップローディングとは何か
   - 意識と心はどう区別するか
   - 機械に意識は宿るのか(自然則問題):一人称的確認
   - 身体もアップロードするのか
・いかにしてマインドアップローディングは可能か
   - フェーディング・クオリア
   - 機械脳半球の方法
     分離脳(自己は一つだが、意識は二つ)
   - この方法は意識の一人称的保証のために必要

内容を説明すると長文になってしまうので、また今度、ちゃんと書くのでそのときに読んでください。七沢さんのレポートの方もぜひ。

意識についてみんなで話して見えた景色

本気で意識をアップロードしようとしている人を前にして、意識とは何かを話し合うのは、かなり面白い体験だと思った。答えはないし、分からないからこそ、アップロードしようとしているわけで。

哲学者と科学者という、知識背景の違って共通言語があまりない人たちが、1つのことに関して話すのは、とても忍耐のいる仕事だ。前提を確かめ合うだけで時間が過ぎていく。心配でハラハラしていたが、会の中で信原先生が、「意識研は意識とは何かという究極の問いを解く会ではない、究極の問いを問う会だ」と言われたときに、ああそうか、と安堵した。完全には分かりあえなくてもいいんだ、と思った。

この会は、意識とは何かを考えるために何を考えていけばいいのかを考えていく会なのだ。3時間もかけてワイワイ話して、分からないことは山ほど残ったけれど、意識について、みんなで話をした経験は、いままでにない高揚感を残した。考えるためのいろいろな材料を出して、眺めあった。知っていることを確認するだけでない、これから新しい何かを見つけにいくのだと思った。

意識研がやりたいことは、こういうことなんだなと思った。これを日本中に広げていくと、一体どんな世界になるんだろう。

意識とは何かを考えていると、自分とは何か、死とは何か、生とは何か、と自然に哲学の森の中に入っていく。哲学ってとっつきにくいと思っていたけれど、自分で考えて、知っているはずの景色が違って見えてくる体験はとても面白い。哲学は知るものではなく、するものだと思った。それがどんなにヨチヨチ歩きでも。自分の足で歩いていくことが大事なのだと思った。

機械の中のマインドフルネスとウェルビーイングとは

信原先生も渡辺先生も唯一無二の奇妙なキレキレの研究者だけども、他の主要メンバーも面白いです。
 
2023年度の意識研究会には、渡辺先生の他に2名の話題提供者がいて、第1回のこの日も対面で参加していた。マインドフルネス研究者の藤野正寛さんと、ウェルビーイング研究者の渡邊淳司さんだ。

藤野さんは瞑想の実践者でもあるので、会が始まる前に、「瞑想を極めたら死をどんなふうに感じるんですか?」と質問をしてみた。そもそも渡辺先生のマインドアップローディングは、肉体の死が自分の死となるのを回避することが、ひとつのテーマだからだ。

「僕が瞑想を極めているかどうかはわからないけど(笑)、瞑想を始める前と今で何が変わったかというと、死がちょっと楽しみになったかもしれない。死の瞬間に自分がどういう状態になって何が起こるのか、それが知りたいと考えるようになったかな」

なるほど……とても気になる。これは10月からの藤野さんの回で語られるのかもしれない。

もうひとりの話題提供者、渡邊淳司さんは、ふとした雑談の中で「虫が嫌い」と言うので、よくよく話を聞いてみると、虫だけでなく「生き物が全部苦手」なのだそうで、驚いた。触覚やウェルビーイングの研究をしているのに、生き物が苦手だなんて、一体どういうことなのだろうと、謎が深まる。これも8月からの渡邊淳司さんの回で解き明かされるのかもしれない。

そして、事務局役として、ひらひらと飛び回っている七沢智樹さんは、経歴も活動もいろいろありすぎて得体が知れない。最先端の技術の哲学を考えている一方で、無人島でキャンプする。怪しげなのに、会うととても感じがよくてシャキシャキ仕事ができる。怪しい、と、感じがいいが同居している人は初めて見たので、興味が尽きない。

第2回も実はもう終わっていて、第3回は6月に控えているのです。がんばってレポート(?)を書きます。そして完走したら、ここでの話(渡辺先生のゲストパート)を本にする役目をおおせつかっております。まだ出版社は決まっていません。気になってくれた編集者の方がいらっしゃったら、ぜひ、お声かけください。わたしに直接でいいですよ。

そして意識研究会に興味をもった研究者や研究者以外の人も、いらっしゃいましたら、ぜひ、事務局役の七沢さんをつっついてください。

(寒竹泉美)

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