ホームページ問題その②:要するに、人生をどうしたいのか問題であった。
前回に引き続き、ホームページどうするか問題。初めて人にホームページ制作をお願いすることになったので、いろいろ考えているのだけど、やっぱり一人で考えるよりも気づくことがたくさんありすぎる。
わたしは理系ライターも小説も講師も舞台もあれこれやりすぎて、しかも小説もジャンルがいろいろすぎて、どうやってわかりやすく見せたらいいんだろうと悩んでいた。まるでモノが多すぎて片付かない部屋の真ん中で途方に暮れているみたいだった。
でも、HP制作をお願いするツムさんと話しているうちに、理系ライターとしての窓口はチーム・パスカルのHPがあればいいし、遊びの交流はツイッター、日常の日記はインスタ、ライター実績は今のサイトに残して、こんなふうにうだうだ悩むのはnoteに書けばいいし……と次々仕分けられることに気がついた。
ネットの世界にわたしはたくさんの場所を持っている。そうして、さらに新たにホームページを作ろうとしている。家が1つしかなくて狭いのなら断捨離をするしかないけど、そうじゃない。新たにピカピカの家を建てるんだよね。そう思ったら発想が変わった。新しい家では、これまでの場所ではできなかったことをすればいいんだよ。
何がしたいかって考えたら「小説家になりたい」という言葉が出てきた。13歳くらいから思い続けてきた夢だけど、もうかなえたと思っていた。デビューしたし、本も出したし、小説家って名乗っても誰も文句を言ってきたりはしない。それなのに、わたしは今も「小説家になりたい」と思い続けている。
小説家の定義は人によっていろいろだけど、小説家って「小説に打ち込んでいる人」のことじゃないだろうか。だから、わたしは、自分で自分を小説家だと認められていない。わたしは今、小説に割いている時間がとても少ない。読むことも、書くことも。しかもその状況に、それほどフラストレーションがたまっているわけでもない。ライターとして仕事できて、何者かになれて、満足しているのだと思う。
このままでも、社会的には小説家と名乗っても怒られない。自分の心に嘘をついてごまかしたまま「小説家」と名乗り続けるのか。それとも、すっぱりと小説家であることをやめて、「小説も書けるライター」になるのか。
ツムさんにホームページの制作のお見積りの概算を出してもらったとき、とても失礼なことに、絶句してフリーズしてしまった。わたしもフリーランスで仕事をしているし、プロに仕事をしてもらうことがどのくらいの大変でどのくらいの期間がかかってどのくらいの費用がかかるのか、大体わかっているつもりだった。妥当どころか、良心的すぎる費用で、わたしが自力でやったら、ものすごい時間がかかったうえに、不便なものしかできないだろうから、その分、ライター原稿を書いて働けば全然元を取れる。そんな額だった。
それなのに、フリーズしてしまった。フリーズしてしまった理由が自分でもわからなくて、ツムさんを戸惑わせてしまった。わたしも、業界外の知人に原稿を依頼されてお見積りをして「げ、そんなに?」みたいな反応をされて傷つくことがよくあるのだけど、それと同じことをしてしまった。全然払うつもりでいたのに。直前まで楽しく構想を相談していたのに。
ずっとなぜフリーズしたのか考えていた。家に帰って、このnoteを書き始めてようやくわかった。わたしは、「小説を書くわたし」にどれだけ投資できるのか、と問われたのだ。
たとえばライター仕事で手が回らないから外注するとか、税理士を頼むとか、秘書を雇うとか、そういうことはたぶん必要とあらば、ためらわずできると思う。でも、小説を書くわたしに、お金を出して、新しい家を建ててあげることを、真面目に考えたことがなかった。
小説を書くことは元手がかからない。HPも無料のものを使っていたし、更新も頻繁にしていない。小説を書けば、その分、時間はとられて、収入が減る。でも、小説はわたしにとって大切なコアの部分だから、ライター仕事の邪魔にならない程度になら、やればいいよと思っていた。無意識に。
だから、具体的な金額を聞いて、ぎょっとした。具体的な現実を突きつけられて、それを小説家としてのわたしに使うことが高いと思ってしまった。何度も言うけど、ぎょっとするような金額ではないのに、それすらためらうくらいに、わたしが一番わたしを信じていなかったことに、動揺した。
ブランディングとかそういう問題じゃなかった。わたしは、まず自分に、わたしは小説家だと認めさせる必要があった。それができなければ、いつまでも、小説を書くこと・読むことは、余裕のあるときにだけ許される余暇活動のままだし、一応デビューしているという言い訳が立つから必死にもなれない。
打ち合わせが終わって、年内には一度ページ構成のラフを作りますねとツムさんは言った。わたしは、ゆっくりでいいですよと必死に答えた。その家ができあがってしまうのが、ちょっと恐ろしい。わたしはこんな小説家です、と自分で言うことになるから。でも、恐ろしいことには経験上、さっさと飛び込んだ方がいい。腰が重いことがわたしの欠点だから。飛び込めば何とか必死でやり抜く力はあるのはわたしの長所だから。
ホームページを初めて作ったのは、1998年。24年前だ。ホームページ名は「作家のたまご」。自分が将来、作家になるということを1ミリも疑っていない天真爛漫さが笑える。ちょっと拍手したくなる。なんというか、まあ、イタイ人が勝ちなのだと思う。この頃の方がちゃんと「小説家」だったなと思う。
トップ画像はこんなだった。卵に絵を書いてる。ちなみに背中に書き損じの顔がある。雑だな。
2009年にデビューしてからもしばらくは「作家のたまご」だった。もう孵化したのに。イラストレーターの木村友昭さん(パンダせんぱい)に、孵化したヒヨコを描いてもらった。
めっちゃ可愛いな、このヒヨコ。でもね。当時のわたしはヒヨコでいるのが物足りなくなったんだよね。カッコつけたくなったんだよね。で、人間に化けちゃったんだよね。
ようし、新しい家に何を置くか、考えるぞ。一番やりたいことは、何かと考えたら、カフェみたいな家が思い浮かんだ。小説を好きだと言ってくれた人たちや、わたしが小説家でいることを応援してくれている人たち、わたしの小説に出会ってくれた人たちに、ありがとうってちゃんと言いたい。
新しい家には、自分の好きなインテリアだけ並べて、自分の呼びたい人だけ呼べばいい。自分がどんな小説家になりたいのか、どういう小説を書きたいのか、それをちゃんと言葉にして。わたしの小説を好きだと思ってくれた人たちを招待して、おもてなしして、くつろいでもらうような家。
そこではわたしは、小説を書く話や読んだ小説の話をする。作り上げた作品の話もする。わたしがちゃんと小説家でいられる、そんな家。
できあがったら、ぜひ、遊びに来てください。
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