見出し画像

野見宿禰伝説

チェロ奏者の水谷川優子さんから委嘱を受け、チェロと打楽器の新作を書くことになりました。タイトルは
「天と雲と土と ~相撲の祖・野見宿禰伝説」
2023年6月3日東京文化会館小ホールにて初演予定です。
作品について、少しばかりですがメモを残しておきます。

■野見宿禰を音楽にしようとしたきっかけ

相撲好きが高じて、これまでに相撲をテーマにした作品を数多く作曲してきました。その作品の中には、呼出が打つ相撲太鼓のリズムをテーマにした 作品から、稀勢の里をテーマにした「相撲組曲XE」、さらには、「浪曲地歌~初 代高砂浦五郎」「雷電為右衛門」などもあります。 水谷川優子さんもまた、お相撲好きであることや、今回のリサイタルのテーマが「起源」とい うこともあり、ついに、相撲の祖である「野見宿禰」をテーマにした作品を書くことに決めました。

野見宿禰は、「日本書紀」に登場する人物で、垂仁天皇が怪力で知られていた大和 の當麻蹶速と戦わせるため、出雲の野見宿禰を召し出して取り組ませた力比べが、 相撲の最初の記録として残っています。また、この取り組みは最初の天覧相撲でもありました。

■野見宿禰が祀られている神社、場所

野見宿禰のお墓や碑など祀られているところは全国各地にあり、東京、愛知、群馬、奈良、高槻、たつの、鳥取、出雲など。両国には、明治の中頃、初代高砂浦五郎らにより、当時の高砂部屋のとなり(津軽藩の上屋敷跡地)に建てられた野見宿禰神社もあります。 この度の野見宿禰の研究のために、祀られている場所は殆ど足を運びましたが、相撲の祖ということもあり、歴代の名力士たちも訪れている形跡が随所にありました。野見宿禰と當麻蹶速の力比べを行った桜井市穴師カタヤケシにある「相撲神社」には、35代横綱双葉山が時津風理事長時代に幕内力士全員を引き連れて参拝したといわれ、比較的最近建てられた碑や、徳勝龍の優勝した記念碑もありました。

たつの市は、野見宿禰が亡くなったと言われた場所ですが、高台に祀られている「野見宿禰神社」の玉垣には、「若嶋、常陸山、梅ヶ谷、大砲」の四横綱をはじめ、明治期の東西の力士らの名が連なっていました。


また、鳥取県の「大野見宿禰命神社」は、双葉山と53代琴櫻の参拝記念樹の赤い椿がちょうど咲いている時期でした。

実は野見宿禰は大和出雲が出身地という説もあり、奈良県桜井市出雲には、畑のド真ん中にお墓があったり、ほとんどひと気がない場所にある「十二柱神社」「野見宿禰五輪塔」は、桜が満開にもかかわらず独り占め状態でした。


また高槻市の上宮天満宮の境内社の「 野身神社」は「式内野身神社并野見宿禰墳」という石柱が建てられてありました。また、「生捕りの狩は角力の原義」と書かれている興味深い文章もありました。

野見宿禰は、菅原道真の先祖としても知られていますが、島根の菅原天満宮にも野見宿禰の墓と祀られていました。

出雲大社「野見宿禰神社」は、廻し姿の可愛いウサギの石像がお出迎え。「因幡の白兎」がモチーフになっているようで、社内ウサギだらけでした。

他にも様々な野見宿禰ゆかりの場所を訪れましたが、また別の機会にお話しいたします!

■作品の構成

野見宿禰から膨らむ壮大なイメージをまとめ、3部に分けました。
実際の演奏は繋がっておりますが、各楽章にはこのような特徴があります。

1部 出雲に勇士あり
出雲の勇士である野見宿禰が、大和の怪力と名を馳せた當麻蹶速と戦うために、向かうは11代垂仁天皇の御前。
2部 力くらべ
相撲の取組。相撲は武器を持たずに、身体一つで力を比べる真剣勝負。しかし、勝ち負けだけではなく、勝者は、より強く美しい者となり、敗者もまた尊く美しい者となる。そこに勝負の美学があり、浪漫がある。
3部 祀り上げられしもの
全国各地に祀り上げられている野見宿禰に畏敬の念を抱きつつ、大地の霊を鎮めるという相撲の原点を追い求め、天と雲と土と、遠き古代の様子に想いを馳せる。

■これまで、どのように相撲と音楽に関わってきたか

相撲好きは、本格的な域まで達してきました!?
朝乃山の幟を出させていただいたり、幕内格に昇進された行司の木村朝之助さんの新装束のプロデュース的なことも関わらさせていただきましたが、稀勢の里の応援が大きなきっかけになりますね。いつか優勝する日が来るのだろうか?と準優勝12回を見守りながら、何年間も一喜一憂していました。そういう思いを音にしてみたいと思ったものでした。 他にも、相撲の関係者と同じ音楽イベントに参加させていただいた時の元高砂部屋力士&元マネージャーの一ノ矢さんとの出会いも大きいです。 同じくその時に共演させていただきました呼出の邦夫さんからは、呼出さんが打つリズムを習い、マイ相撲太鼓を取り入れ活動も行っています。現代音楽に取り入れたり、CM「日清お好み焼粉」の音楽やネットフリックス「サンクチュアリ -聖域-」でもレコーディングに参加しております。現在配信中ですので、ぜひお聴きいただきたいです。
今回の作品にも、今までの相撲との関わりや研究が生きていると思います。

■初演にむけて、ひとこと

相撲は、武器を持たず、身体一つで力を比べる競技。力の限り正々堂々取り組んだ先に、勝者は、より強く美しい者となり、敗者もまた尊く美しい者となる。そこに勝負の美学があり、浪漫がある。野見宿禰から始まったとされる長い歴史も相撲の魅力を引き立たせる。 今では全国各地に祀り上げられている野見宿禰に畏敬の念を抱きつつ、大地の霊を鎮めるという相撲の原点を追い求め、遠き古代の様子に想いを馳せた、チェロと打楽器の渾身の取組をお楽しみ下さい。

■公演情報

水谷川優子 チェロ・リサイタルシリーズVol. XV 
「Der Ursprung ~そしてそれは始まった~」

2023年 6月 3日(土)14:00開演(開場:13:30) 東京文化会館小ホール

【出演】
水谷川優子(チェロ)、鈴木大介(ギター)、神田佳子(パーカッション)
 
【プログラム】
J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第5番 ハ短調 BWV 1011
マラン・マレ:ラ・フォリア
アストル・ピアソラ:タンゴの歴史よりHistoire du Tango
「カフェ 1930 Café 1930」
「ナイトクラブ 1960 Nightclub 1960」
神田佳子:天と雲と土と~相撲の祖・野見宿禰伝説(委嘱作品 世界初演)
1部 出雲に勇士あり
2部 力くらべ
3部 祀り上げられしもの


よろしければサポートをお願いいたします!