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教科書の俳句② 万緑の中や吾子の歯生え初むる 中村草田男

 中学校の教科書(光村図書版)に載っている俳句の紹介、2回目。

 公立の小中学校の教科書は、それぞれの自治体が選ぶ。数種類の教科書の中から選ぶのだが、短歌や俳句の場合は、どの教科書でも、だいたい同じ作品が並んでいる。これはいい作品だと評価が定まっている作品が選ばれる。そんな作品だからこそ暗記して覚えてほしい。美しい日本語を学ぶことにもなる。いやらしい話をすると、こういう有名な作品は高校入試にもよく出題される。入試の作品には、ほとんど知られていない作品も出るが、逆に有名な作品も出る。日本の中学生なら、この程度の作品は知っておけとばかりに、ここで紹介する俳句などはよく出題される。だから句を暗記したい。せめて、意味と技法、作者名、季語は覚えておきたい

 入試にも出題されるくらい現代日本に生きている俳句だが、それは明治期の正岡子規の力と、その弟子たちの努力で広がっていった。


赤い椿白い椿と落ちにけり  川東碧梧桐

 椿の花は、ポトッと花の姿のまま落ちる。首が落ちてしまうというので、病院には持って行ってはいけない花だといわれる。けれど、木にある姿のまま地面に落ちている花はきれいだ。赤い花の木と白い花の木が並んで植えてあるのだろう。紅白の色が鮮やかに対比される。季語は椿で、春の木と書くとおり、季節は春。
 俳句を学んだら、色つきの絵を描いてみよう。鉛筆だけで描いた絵だと、赤い椿は黒く塗り、白い椿は線だけで描かれる。色をつけると、赤と白だけでなく、常緑樹である椿の葉の緑もある。赤と白だけでなく、緑もあるのだ。そして背景は暗い庭だろうか。想像がどんどん膨らむ。
 川東碧梧桐(かわひがしへきごとう1873~1937)は、高浜虚子とともに正岡子規に師事していたが、虚子に対抗するように俳句革新運動に走った。この句も季語が2回使われている(赤い椿、白い椿)。


バスを待ち大路おおじの春をうたがはず  石田波郷

 バスを待つバス通りには、「もう春だ!」と思える情景がたくさんある。句に表現されてはいないが、読者のイメージの中にはいろんな春が浮かぶ。花も咲いているだろう、まだつぼみができたばかりかも知れない。草も生えてきた。虫もいるかもわからない。人々の服装も替わってきただろう。想像を膨らませることができる石田波郷(いしだはきょう1913~1969)の句。季語は春。
 俳句は、五七五の十七音しかないので、イメージを膨らますために季語がある。読者がその言葉からイメージを広げる。バス停の絵を描いてみよう。いろんな春を見つけたら、それを絵の中に描いてみよう。


萬緑ばんりょくの中や吾子あこの歯生えむる  中村草田男

 「萬緑」は「万緑」。「万の緑」とは、全てが緑の新緑に覆われる季節のこと。草木が緑になる新緑の季節は初夏。季語は萬緑(万緑)で、季節は夏。緑の季節に我が子(吾子)の歯が真っ白に生えてきた。緑と白の色の対比。自然の緑のエネルギーと子どもの命のエネルギーが表現されている。中村草田男(なかむら くさたお1901~1983)の有名な句。


くろがねの秋の風鈴鳴りにけり  飯田蛇笏

 黒い色をした鉄、黒鉄でできた風鈴が鳴っている。
 風鈴は夏の季語だが、ここでは秋の風鈴となっているので、季語は秋の風鈴で、季節は秋。少し淋しい季節に黒い風鈴がある。いろんな色のついた風鈴ではない。地味な黒い風鈴だからこそのイメージが広がる。飯田蛇笏(いいだだこつ1885~1962)は自然を詠った句が多い。息子の飯田龍太(いいだりゅうた、1920~ 2007)も俳人。


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