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江戸の川柳 形見分け以後は音信不通なり 柄井川柳の誹風柳多留六篇②

 表題の川柳は人と人とのつきあいを句にした作品。このような句を紹介する2回目。
 江戸時代の川柳を読みやすい表記にし、次に、記載番号と原本の表記、そして七七のお題(前句まえく)をつける。調子に乗ったら、自己流の意訳と、七七のコメントをつけているものもある。

 


形見分け以後は音信不通なり


53 かたみわけ已後いごはいんしん不通なり  きのどくな事きのどくな事

 「きのどくなこと」は何だろうと五七五を考える。良い作品ができたら賞金がもらえる。何かないかなあ。うん。形見分けだ。
 葬儀後の形見分けで「あれが欲しい」「いや、こっちだ」とトラブルがあり、以後親戚付き合いが途絶えてしまう。江戸の昔も現代も同じ。人と人とのつきあいってものは大変。
 五七五で人生の真実を詠う。

形見分け親戚集まり奪い合い
その後どんな顔して付き合う


 

嫁の留守るす孫も味方におびきこみ


72 よめの留守るす孫も味方におびきこみ  きのどくな事きのどくな事

 こっちは誰が「きのどく」(きのどくな事)なのだろう。嫁がいないうちにしゅうとめが孫を味方にしようとしている。嫁と姑の争いに巻き込まれる孫が一番「きのどく」かな。

嫁の留守孫を味方につけるため
あれ買いこれ買い婆ちゃんがんばる

 


小言こごとかと思ば女勢揃へせいぞろえ


87 小言こごとかと思ば女せいぞろ  きのどくな事きのどくな事

 女房が小言を言っているかと思えば、女たちが集まって亭主の悪口大会になっていた。そりゃ「きのどく」(きのどくな事)なのは亭主だろうな。

にぎやかな声の向こうに女たち
かしましいとは女が三人

 おっと。「かしましい」の語は男女差別でチェックされそうだ。
 でも、女の人が三人集まればにぎやかになる。
 「ウチら陽気なかしまし娘♪ 誰が言ったか知らないが女三人寄ったらかしましいとは愉快だね♪」と歌った正司歌江、照枝、花江の「かしまし娘」なんていたけど、知ってるかな。なつかしのテレビ番組にも「かしまし」という言葉が使えず、コンビ名なしでしか出られないのだろうか。

 


あくる日は夜討ようちと知らずすすを取り


64 あくる日は夜討ようちとしらずすゝをとり  きのどくな事きのどくな事

 年末になると「忠臣蔵」が話題となった。江戸の人々はみんな話を知っている。
 赤穂浪士が吉良邸に討ち入りをしたのが十二月十四日。
 その前日、十二月十三日は「すす払い」として大掃除をする日になっている。
 せっかく掃除しても、翌日はぐちゃぐちゃになってしまったのだろう。きのどくなことだ(きのどくな事)と歴史を詠む。

十二月十三日はすす払い
翌日赤穂の浪士の討ち入り

 


 古い人間は「かしまし娘」を知っているように、江戸の人々はみんな「忠臣蔵」の話を知っていた。「すす払い」の行事もみんながやっていた。季節ごとの行事は、みんなやっていた。それが常識だった。
 共通事項があり、知っているから川柳を見て笑える。今の世の中はどうだろう。
 江戸時代には、なつかしい生活がある。
 さて、今回はここまで。
 

 タイトル画像は江戸時代中期の画家、伊藤若冲じゃくちゅう(1716~1800)の模写。若冲は京都で青物問屋をしていたが、独学で学んだ絵を40歳から描き出した。
 新しいスタートは、いつからでもできる。



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