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【和歌山ファイティングバーズ】真のエースへ・西垣彰太

ある日の西垣

9月28日、試合前のアップを見つめている西垣に話を聞いた。心なしか元気がない。それもそうだ。前の日に先発。5回で10安打を浴び8失点。打線の援護もあり勝ち投手になったものの散々な出来だった。

その隣を「よっ、エース!」「エース、おはようございます!」と選手が通り過ぎていく。
「こういう(打たれた)時に『エース、エース』って言ってくるんですよ」

苦笑いしながら西垣が言う。そしてグラウンドを見つめながら話してくれたのは「エース」についてだった。

理想のエース像

「エースってチームを勝たせることができるピッチャーだと思うんです」
だから自分はまだまだなんだ、としきりに話していた。

理想は高かった。最速143キロの速球と最大50キロ差もある変化球で勝負していくピッチャー。三振をバッタバッタと取っていき、あっという間に完投してしまう投手の言葉ではないように思えた。

5月9日、試合前に一人離れたところで集中力を高める西垣

「三振取るのは最初から自信があったんです。でも長い間勝てなかったり、打たれたりしているうちはまだまだだなって。昨日も打線の援護で勝たせてもらったようなもんです」

4月3日の開幕戦で5イニングをリリーフし勝利投手になったのを皮切りに、チームに勝ち星が付くように投げ続けた。

どんな時でもチームを勝たせる存在でありたい。以前も「交代するときはランナーを残さない状態で交代したい」と語っていた。その思いが強い一方こんなこともふと漏らしていた。

「審判の判定が、味方のエラーが……って父親にLINEを送ったら、『人のせいにしているうちはまだまだやぞ』って返されました」

今季、NPBとの交流戦で4イニングを無失点に抑えていた。そんな西垣もマウンドでそんな態度を出してしまうこともあった。

6月24日、連打を浴び呆然とする西垣

「でももっと球速ほしいですね。オフの間に鍛えて150キロ投げられるようにしたいです」

そうしてウォーミングアップの輪の中に入っていった。そしてその試合、9回に登板し、何のこともなく3人で抑えてみせた。繰り返すが前日先発していて5イニング90球を投げている。このタフネスぶりには驚かされる。

「あんまり登板間隔が空くとやりづらいんですよ」

投げすぎではないか、とも思ったが、本人は意に介さない。
「NPBで一年ローテーションに入って投げるならこれぐらい投げられないといけないじゃないですか」

このリーグだけで終わらない。そのあとも見据えて投げる。その言葉と姿には納得させられた。

圧巻の成績と涙

10月26日、変則ダブルヘッダーの1試合目で勝利すれば和歌山は優勝する可能性があった。そのマウンドに当然ながら西垣が上がっていた。

イニング前のルーティーン

初回に味方が先制。西垣もそれに応えるように好投。

得点にグラブを叩いて喜ぶ西垣

しかし5回、味方のエラーなどもあり一挙6失点。6回は無失点で抑えたが、7回に四球とヒット2本で満塁となったところで降板となった。

マウンドから降りた西垣は人目もはばからず泣いた。

そのまま試合は堺が勝利。目の前で胴上げを見ることとなった。

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2021年の西垣はチーム試合数の約半分となる23試合に登板。うち19試合に先発。
11勝6敗1S、防御率3.16。155イニングを投げ、完投すること8回。奪った三振は136。

投球イニングは2位の06ブルズ・中村雅友に51イニングという大差をつけ、奪三振は2位に2倍以上の差をつけた。(2位は堺シュライクス・西澤宙良の67個)

まさにリーグNO.1といって差し支えのない右腕だが、最後の最後、涙をのむこととなった。

最後の悔しさを晴らすために、エースとしてもう一歩進化するために。真価を見せる2022年はもう間もなくやってくる。

(文・写真 SAZZY)

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