ショートショート「王子と玉子」

玉子かと思ったら王子だった。器のふちにぶつけたら痛いと叫び声を上げたものだから気が付いた。
「コブができたじゃないか」と王子は言った。「そんなに力を入れて叩くんじゃない。もし僕が王子でなく玉子であったとしても、そんなんじゃ潰れてうまく殻が割れなかったに違いない」
「ごめんなさい」
そうして王子による玉子の割り方教室が始まった。わたしと王子は幾つも玉子を割った。王子は実に手際が良かった。片手でも軽々と割っていく。わたしはといえば、ぐちゃりと潰してしまい、殻が混じってしまった。
「こうやるんだ」
「王子って玉子を割ったりするの?料理人たちがやるから、玉子に触れたりしないんじゃない?」
「ただ玉子を割るのが好きなだけさ。料理のために割るわけじゃない」
「変なの」
「まあ大抵の趣味なんてのは変なものさ」
わたしたちはとてもたくさんの玉子を割ったので、それでとても大きなオムレツを作って二人で食べた。
「オムレツかと思ったらオムレシだったりはしないのかい?」
「オムレシってなに?そんなもの無いでしょう?無いものと間違ったりしないわ。馬鹿にしないで」
「これは失礼」

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