ショートショート「不良品」

青年は思った。
「この世界は矛盾と理不尽に満ちている。こんな世界はおかしい」
ということで、こんな不良品の世界をそのまま放置している責任者に抗議をしにいくことにした。さて、責任者といったところで、誰がこの世界全体を管理しているのかが青年にはわからない。とりあえず、役所に行ってみた。
「そんなこと言われましても」
役所が管理しているのはこの世界のほんの一部、それも些細な一部でしかないという。対応した役所の職員は返答に難儀したが、そこはお役所、たらい回しは十八番なわけで、別の部署、別の部署と右往左往させられた挙げ句、「大統領にお尋ねになったらいかがでしょう?」ということになった。なるほど、大統領なら最高責任者であるに違いない。青年は思った。
斯くして大統領との面談に臨んだ青年だったが、その結果も芳しいものではなかった。
「私の管轄しているものだって、この世界のほんの一握りに過ぎないのだよ」
「そうですか」肩を落とす青年。「じゃあ、王様や皇帝ならどうでしょう?」
大統領は首を横に振った。「それも大差ないだろうね」
「じゃあ、どうしたらいいんでしょう?」
「神様はどうだろう?」
というわけで、大統領に紹介状を書いてもらって青年は神様に会いに行くことになった。
「うーむ」神様は青年の抗議に腕組みして唸った。「それはわしの力の及ぶ範囲外のことだね」
「神様ともあろうお方でも?」
「わしはこの世界全てに関してなら力が及ぶが、それはこの世界を越えた話なのだよ」
「じゃあ、どうしたら?」
「作者に尋ねてみるてよかろう」
と言うと、神様は天を見上げて叫んだ。
「おーい、作者さんよ!この青年が文句があるそうなんじゃが」
知ってますよ。
「じゃろうね」
それは世界が不完全だから起こる矛盾や理不尽ではありません。その青年の感覚が不完全だから起こる矛盾や理不尽です。
「だそうだ」神様は青年に言った。
「じゃあ、ぼくは不良品ですか?」青年は尋ねた。
それは黒であり、同時に白でもある。そういったものも存在しうる。君が完全であり、かつ不完全なのだ。
「よくわかりません」
それでよろしい。

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