死にたがりのクライマー

過去数人会ってるのでどうやら「別にクライミングの最中なら死んでもいいんで。むしろクライミング中に死にたいです」みたいなクライマーが一定数存在するらしいです。いや普通に迷惑っす。

僕が出会った人物はストイックなタイプで、浮世離れって言ったらいいんですかね、ある種の鋭さが感じられるクライマーでした。なんでか細く研ぎ澄まされた鉛筆を思い浮かべたんで、無意識のうちに彼の脆さも感じ取ったのかもしれないです。

当然思考もクラシカルなので「最近のジムは派手な課題ばかりでつまらない」とか「登りたいとも思わない」みたいなことを人目も憚らずに口にしていて、そこら辺は個人の嗜好なんで別に構わないんですけど「ジムはうるさいバカばっかり」とか、それを咎めても「別に聞こえてもいいんですよ」ってさ、よくねぇよ。巻き込むなよ。

ちゃうやろ。直接的に相手を揶揄して喧嘩をふっかけるような真似はただのヤンキーやろ。

言ってることもわかるんすけどね。むしろ僕も数々の強い憤りを感じている側の人間なんすけどね。でもさ、僕は現実でもSNSでも「正論なら何を言ってもいい」とは思ってないんよ。君の持論は僕が聞いても時代に取り残された人間の戯言としか思えないことも多々あるで。

そこへ来て「クライミングで死にたい」ってさ。

いやなんか偉大な先人の本か何かを読んで、その思想の一部を間違ったままトレースしているのかな?謂わば厨二病みたいなものを患っているのかな?って言う感想にしかならないんだけれども。

そもそもね、歴史に名を残しているクライマーに死んでもいいなんて思いながら登っていた人間はいないんじゃないの?自分の夢に向かって力を出し切って、それでも死と言う現実に抗えず、最後の最後まで生きたいと思いながら死んでいったんじゃないですかね。

彼の思想は一見崇高であるように振る舞ってはいるんですけど、自暴自棄以外の何者でもないし、クライミングに対する侮辱としか思えないんですよ。

話をしていても論理的でしかないと言うか、感情の入る余地がないと言うか、間違ってはいないんだろうけど、間違ってないと言うだけで正しくはない感じがするんですよね。

なんだろう。明確に理想とする自分があって、それに寄せようとしているような印象を受けると言うか、自己陶酔に近しい何かを感じる。例えば彼がその特殊な思想から仕事場で孤立していたとしても、本人は一人であることをステータスであると思っていそうな雰囲気。

んで終着地点がクライミングでの死だって?

普段からめちゃくちゃ外リードをしているようではあるんですけどね。パートナーの気持ちも考えずに「死」を口にするって失礼やなー。と言うかそういう話もしていたりするんかな。自分だったら嫌だなー。

なんか事故があって、でも頑張れば助けられるかもしれないって言うシーンで「でもアイツ死にたいって言ってたしなー」みたいな葛藤になるの最悪なんですけど。

あー、いけるいける助けられるわーコレェって言う状況でも「さよなら、天さん・・・」みたいな表情で早々にエンディングロールを流すんだろうか。

遠い外国の地で命をかけたクライミングをしているならまだしも、日本の岩場でただ自暴自棄な人間がクライミングをしてるって本当に怖いんですけど。実際に何かあったとしてどれだけの人に迷惑がかかるのかわからないのかな。

それこそ口で言ってるだけで本人にそんなつもりはないのかね。それならそれでいいけど、気軽に「死」と言う言葉を使う人間と一緒には登りたくないな。自己責任の精神を最初からぶん投げてるもんなぁ。

孤独を拗らせてるだけな可能性もあるけど、そんなこと言ってても「生きろ、そなたは美しい」つってアシタカ彦みたいなんは現れないよ。

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