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冬の色

ステーションワゴンは高原を縦断する自動車専用道を走る。
アップテンポのダンスミュージックとは裏腹に、
助手席の女は無言。
女と男の手は重なり合い、触れ合う。

これが最後の旅行。
半年前に決めていたこと。
結婚することを許されない立場の男は、
まだ若い女の人生を棒に振る罪をこれ以上負うことが辛かったのだ。
女もそれに同意した。

半年間の砂時計はみるみる残りわずかとなった。

パーキングにクルマを停める。
ふと振り返ると、
フロントグリルに薄茶色の陰が目に入った。
近寄ってみると、
それは一羽の鶯であった。
飛翔中にクルマに突っ込んだのであろうか?
手に取っても鶯は眼を開けることはなかった。

男はパーキング脇の樹の下に穴を掘り、
動くことのない鶯を葬った。

冬の鉛色の雲。
砂時計の終わりを確かに実感した。


海辺の宿に入る。
静かに抱き合う。

部屋に食事が運ばれる。
一品、そして一品、皿が空になっていく。
やがて片付けられ、
テーブルには何もなくなる。

砂時計は進む。

慈しむような長い夜。
髪、肌、唇、、、記憶に刻みながら。

男は不確かな意識のなかで、
カーテンの隙間からもれる光に気付いた。
立ち上がり、
カーテンを少し開けて外を見る。

燃える朝日が水平線を黄金に染めていた。
波もなく鏡のような水面に輝きが拡がり、
あらゆる存在は光の中に消失した。

砂時計は尽きた。


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