結婚生活に求めるもの

食べるものが思いつかない。

いつもは14時くらいまでお腹が空かないのに、今日は1ヶ月ぶりに同居人が会社へ行くので7時に起きて朝ごはんを一緒に食べたから、12時きっかりに我慢できなくなって台所へ降りた。この1ヶ月、3食同居人が拵えてくれていたから、冷蔵庫を開けるのも久しぶり。
2月まではそういえば、私がお弁当とお味噌汁を朝に作っていたので、お味噌汁を多めに作っておいて、そこに朝おにぎりに使ったご飯をぶちこんだだけの雑なご飯を食べていることが多かった。今日はお味噌汁の残りもない。前日の晩ごはんが余れば、「明日のご飯にしていいよ」と施しがあることもあって、そういう日はそれをなるべく多く引き伸ばして食べていたけれど、今日はそれもない。冷凍庫になにかある気がするけど、聞かないと思い出せない。すっかり昭和のダメな夫と化している気分。

だいたいそういう時は卵ご飯にするのだが、卵ご飯は今朝食べてしまった。おまけに卵が最近高いらしく、「軽率な卵ご飯は禁止例」が出されている。困った。
「材料はあるんだから適当に作りなよ」と言われるけれど、自分ひとりのために野菜を切るなんて、食べないほうがマシなくらいやりたくない。出来ないわけではないけれど、絶対にやりたくない…。どうしてもやりたくないのだ。
キムチと天かすでお茶漬け的なものを作るか…でも、キムチと天かすは味噌汁ご飯に入れたほうが美味しい。卵ご飯…ダメ。塩昆布と天かすでお茶漬け…お湯を沸かすのが面倒くさい。麦茶ご飯…麦茶、ない。と、考えれば考えるほど自分のクズさに辟易する。


ご飯を食べる時間が嫌いだ。

できれば3食食べないで生きたいし、ただ食べる(食べ物を咀嚼する)時間が苦痛で、今もこれを書きながら昼ごはんを食べている。一人のときは基本的に「ながら食べ」でないとご飯を食べる行為が耐えられない。
ご飯を食べるのが嫌いな理由はことあるごとに考えるのだが、幼少期の家庭環境と、自己肯定感からきているのではないかと思う。
そこを考えても「食べずに生きていける」仕様に人間が様変わりすることは一生ないので、家族が欲しいと思った。結婚した理由の90%はそれだ。
一人暮らしを3年くらい続けた頃からご飯を「食べる・用意する・お腹が空く・片付ける」時間が苦痛に感じることが増えて、それが好きな友達や好きな人と食事をすることで改善されることに気づいた。気づいたというより、知ってはいたんだけど、一生一人で毎日ご飯を食べて生存していかないといけないことに思ったより耐えられないことがわかった、ていう感じ。
だから、1年半前に結婚してから、食事の苦痛がずいぶん減った。

同居人のご飯を美味しそうに食べる姿が大好きだ。

同居人が私とご飯を食べるときのニコニコした笑顔は、他の誰かと私と…みたいな感じで食べるときにはあまり見られない(酔っ払うとニコニコしていたときもあったような気がする)。
時々喧嘩してご飯を食べるときや同居人自身が具合が悪いとき、作ったご飯が満足いかない出来だったときなど、ニコニコしないときがあって、それだけでご飯の美味しさが100と0くらいに変わる。味はするけど、味がしないのと同じくらい美味しさを感じられない。味覚はちゃんとあるのだが、感覚として美味しくない。1人3万円のお寿司よりも、同居人と食べる素うどんのほうが美味しく感じるのだ。
同居人は料理が上手なので、作った料理の出来で美味しかったり不味かったりするみたいだけど、私はどんなに失敗作でも同居人が隣でニコニコ楽しくご飯を食べてくれさえすれば美味しく感じられるので、「今日のこれ美味しくない、ごめんね」と言われるたび、何を謝られているのかよくわからない。どちらかというと、同居人がふくれて箸が進まず、食べながら何がいけなかったのか反省していることに少ししょんぼりしてしまうのだが、「美味しいよ」と言って全部食べると「愛ちゃんが美味しいならいいや…」と少し機嫌が直る。無理して笑ってほしいわけでもないので、その様子を見て、自分の存在意義を感じることにしている。

結婚してから、当たり前に揉めることもうまくいかないことも合わないこともあるけど、ご飯を食べるたびに結婚して良かったなと思える。

元々結婚願望もなかったし、生活スタイルも家具も家も全部自分の思い通りにできる一人暮らしが気に入っていたし、恋愛感情も熱しやすく冷めやすいほうだし、他人と暮らすこともうまくいかなかった経験があるし、子どもは要らないし、仕事も一人のほうが都合が良いような職業で一生続けたいし、多趣味だし、365日24時間全部を自分の好きに使いたいから、私は結婚に向いていないと思っていた。
でも、私は自分ひとりではどんなに美味しいものを用意しても100の美味しさを感じられない。しかも、人のためになら料理もお菓子も作れる(腕は微妙だが何でも厳密にレシピ通りに作るタイプ)のに、自分のためには全くやる気にならない。食べているものの美味しさや好みは多少あるが、一緒に食べる人の様子によって大きく味を感じられるかどうかが左右される。
それを自覚して、ある意味私ほど人と暮らすことを必要としている人間は居ないのかも、と思うようになった。

そんなことを考えながら、白米に梅干しを乗せて持ってきた。
ひとりで食べるご飯は、お腹が満たされれば何でも同じ。でも一応、身体が弱いので、なるべく栄養をとるよう心がけようと思っている。
梅干しは…最強だよね。

一口目を含んで、おっ、梅干しご飯、酸っぱさが疲れに染みる。いいぞ、美味しい気がする、優勝!と思った束の間、1週間前から出来ている口角炎にめちゃくちゃ染みた。後悔しかない。
ひとりで食べるご飯はやっぱり苦痛だ。



■■■ infomation ■■■


マシュマロ↓よかったら…なんでもお待ちしてます

「愛しかない」連載中↓

↓9話目がコミックシーモアさんで先読み配信中です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?