見出し画像

カニを求めて徳之島 #3

松原から母間に向かう道中。

ムシロ瀬という居心地のいい岩がたくさんある場所へ
あちぃあちぃと言いながら立ち寄る。

農作業用の帽子必須の強烈な日差し

駐車場で
数字がカニを思わせる番号の車から
降りてくる人を見かけた。

カニナンバーを好んで選ぶとは
もしかしたらあの方は実はカニかもしれない!
そう思い始めると
四角めの顔といい
筋肉質な体型といい
サングラスといい
カニに思えて仕方がなくなる。

カニは時折穴からでて
カニ男やカニ女になって
人間の世界をうろつくのかもしれない。

いろいろ思い巡らせながら
次の目的地へと向かう。

午後はまず母間集落へ。
母間には、薫ちゃんがみたいという線刻画がある。
魔除けのカニの歌が採取された集落である。
そしてとても大きな集落である。


海沿いのお墓に立ち寄ってから
線刻画の方にあがってゆく。

わたしは以前何度か
一つめの線刻画の石には行ったことがあったのだが
その他の石を見たことがなかった。

今回は
地元の人に教えてもらいながら
藪の中のほかの石にも
たどり着くことができた。

そのあたりはかつてノロの祭祀場だったと言われている。
それがわかる濃厚な自然の雰囲気だ。

後付けで鳥居が作られたり
コンクリで固められて看板が設置されたり
砂利が敷き詰められたりといった
人工的なものがない。

かつて人々が自然を敬い手を合わせていた時代
本来はそんな自然のままのものであったのだと思う。
そのもの(例えば石)さえ残していればいいわけではない。
この目にははっきりとは見えない
自然のこの全体の感じや
人々が真摯に手を合わせることによってできる場が
大切なものなのだとわたしは思う。

目に見えぬものをこわすカタチでの
人の手が入っていないことがよかった。

4つめの小さな線刻画の✳︎のようなマーク、
三京の線刻画の四角の中に組み合わされた✳︎マークを
彷彿とさせ興味深かった。

戸森の線刻画調査報告書

カニの歌のことも調べてみたかったが
きょうは伊仙町の資料館まで行く予定だ。
ひとまず母間を後にして車を走らせる。

資料館で
薫ちゃんがみたいと言っていた船は
大きな太い木の中をくり抜いた船だった。
木肌や丸みがそのままで
立派な木だったということがよくわかった。

ああ、
森に育ち森に立っていた木が
人間によって手を加えられ
海で人の命を運ぶものになるのか

そう思いを馳せた。
なんと美しいプロセスなのだろう。

資料館を出るとどっと疲れを感じた。
朝からよく運転してよく歩いた。
もう今日は宿に帰って休もう。

夜になって
Tさんより連絡があった。
長老はやはり入院中でしばらくは戻ってこないらしい。
そして、あれから他に心あたりのMさんに連絡をとって
カニの石のことを調べてくれていたという。
手応えとしてはなかなか難しそうだと。
だけど、こうして調べてくれていることが
なんともありがたいカニガタイ。

ひとまず、
明日の朝、心当たりのMさんのお宅に
連れて行ってもらうお約束をした。

帰り道のスーパーで
焼酎のふるげんごーいじゅんを見つけたので、
今朝汲んできたふるげんごーいじゅんのお水で
割って飲んだ。

やっぱりわたしの好きな味の焼酎だ。
その夜にふさわしいスペシャルな味で
身体の中から徳之島になっていくような
感じがした。

ふるげんごーいじゅんに思いを馳せながら
気絶するように眠りについた。

(カニを求めて徳之島#4に続く)

この記事が参加している募集

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?