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わたしの鏡【ショートショート】

あれから仕事も家事も上の空で何も手につかなくなってしまった。
こんなことが20年前にもあったことを、思い出したくないのに思い出してしまう。


「滋賀ナンバーのベンツ、この間乗り込むとこ見たで。
 あれは誰なん?」

ママ友に聞かれ、一瞬耳を疑った。
だって私はもうあの車には随分乗っていない。
「世の中には自分に似た人が3人いるって言うやん、私なわけないよ。」
そう言いつつまさか、と視界がぐらりと揺れた。


悶々と悩み続けた末にスマホのアドレス帳を見るが、もちろんそのアドレスは消去済み。ダメ元でインスタの検索に名前を打ち込む。
何人か目であっさりと、“彼”が見つかった。

『優子です。ご無沙汰しております。お元気でしょうか。私は元気にしています。聞きたいことがあるので会いたいのですが、近々ご都合いかがでしょうか。』
とダイレクトメッセージを送る。

するとすぐに返信があり、明後日会えることになった。
もう二度と会わないと思っていたのに、こんなにあっさりと会えることに驚く。


好きなものは、キウイフルーツの真ん中、目玉焼きは半熟、サンドイッチは卵サンド、ジュースは絶対アップル。靴は左から履く、笑う時に笑窪が出来る、まあるい目も、背丈も、髪をかき上げるしぐさも何もかも瓜二つ。

「昨日見かけたで。そっくりやったわぁ。噂には聞いててんけど。」高校生の時にはよく言われた。友人が見かけたのは私ではなく”妹”。
私は妹と一緒にいると時々自分を鏡に映していると錯覚してしまう。それぐらい私と妹は似ていた。見た目だけじゃなく性格や中身まで。

一人っ子やねん、新しく出来た友人や知り合いに聞かれた時は面倒なのでずっとそう答えていた。でも私には妹がいる。もう、生きているか死んでいるかもわからない、20年前に突然姿を消した双子の妹。


彼には話していたはずだ。私にはそっくりな双子の妹がいたことを。
私は彼とは別れてしまったけれど、妹も彼を好きになっても不思議ではない。そして、彼も妹と出会ったら好きになるだろう。
きっと、きっと神様が妹を彼に出会わせて見つけて下さったのだ。そうに違いない。いきなり姿を消したのにはよっぽどの事情があったのか、精神を病んで記憶喪失とかになっていたのかもしれない。
よく、テレビの捜査番組でそういうのを見るたびに、胸が締め付けられた。チャンネルを変えたいのに変えられない。妹もどこかでこうやって違う名前で生きているかもしれない。いつか会えるかもしれない、でも二度と会えないかもしれない。
忘れたことなどなかった。私と鏡のようだった妹を。

もしかしたら彼も私に連絡するかどうか迷っていたのかもしれない。返事が何の躊躇もなくすぐ来たのでどうやってもそう思ってしまう。

道端にシロツメクサを見つけた。冠を作りながら結婚式まで一緒だったら面白いね、と笑い合った日を思い出す。
散歩中の犬がワンと私に吠えた。
明日の12時。それまであと24時間だ。


【本文1200文字】

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ピリカグランプリ、「夏ピリカ」の応募作品です。
読んで下さりありがとう!!

私も前回、前々回と審査員をしており、審査する側で関わらせて頂いたのが、今回はバナー作成のみ!

じゃあ応募できるやん?と応募したわけです。

めちゃくちゃ久しぶりの半年以上ぶりに書いたショートショートです。


こちらは皆さんの作品が集められた応募作品のマガジン。

私も早速フォローしたよ。読むと書けないので^^;これから読んでいこうと思います!
皆さんもマガジンフォローで色んな魅惑の鏡の世界を楽しみましょう♪

応募ですが、6月30日(木)24時までなのでまだまだ時間あるので皆さん応募してね!
詳しくはこちらの応募要項をしっかり読んでね

【ヘッダー画像】
バルセロナのグエル邸より



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