20211118

2021年10月。色々あったけれど彼とは平和に関係を続けていた。
コロナの波が落ち着いて、久しぶりに彼と外食。

待ち合わせに早く着きそうだった私は、時間潰しに熱帯魚販売店に立ち寄った。
マスクをして熱帯魚の水槽の間を歩くと、暖かさと湿度で少し息苦しかった。その息苦しさは2018年のサムイ島で初めてスキューバダイビングをした時を思い出させる。あのスキューバダイビングの翌日から私の人生が少しだけ狂ってしまった苦い思い出があるけれど、それは過去のこと。

時間近くになって、待ち合わせのレストランに向かって歩き出した。時間ちょうどに店先で彼に出会う。彼はいつも時間通りなのだ。
彼が選んだのは、中崎町にあるこじんまりしたフレンチレストラン。飲食店の通常営業が再開して間もない頃で、4人掛けのテーブルは真ん中がアクリル板で仕切られていた。入店した私たちはアクリル板を挟んで対角線状に座るよう促される。

「まだオフィシャルじゃないけれど、本部から指示が出たんだ。」

食事とワインがある程度進んだ頃に彼が話し始めた。
アクリル板が高すぎて、彼の品の良い声が聞こえづらい。
彼としては場所とタイミングを事前に考えた上で重大告白をしているのだろう。
どうやら彼の新しい着任地は西アフリカで、2022年6月末〜7月頭には一旦帰国して本部でフランス語等の研修を受けたのち、2022年9月頃には新しい場所に行かなくてはならないらしい。

「ああ、そう。前にモーリタニアにも赴任していたからアフリカは初めてじゃないし、新しい場所に行くのはワクワクするでしょうね。」

強がってそれくらいしかコメントできなかった。離れる実感が怖くて、西アフリカのどの国なのかも聞けなかった。でも彼にはバレていなかったと思う。
だって、出会った時から彼の仕事は説明されていたし。長くても3年の任期だっていうのも聞いていたし。出会った時点で彼は既に日本に1年いたし。しょうがないじゃない。動揺したせいで、その日の事はそれ位しか覚えていない。

その後11月に入ってすぐ、彼はアメリカの実家に一時帰国する予定になっていた。コロナ禍に入ってから一度も帰国できていなかったから、高齢の母親に顔を見せにいくと。帰国前に会った時、僕がいない間植物に水やりをお願いしたいと彼のマンションの鍵を渡された。渡米してからは、2−3日に一度彼からビデオレターが届いた。会えないことと時差を考えて、電話ではなく動画を送ってくれたのだと思う。水やりに行くと、彼の部屋には手造りのりんごチップスが置いてあった。シナモンの良い香りだった。彼が帰国する直前に行った串カツ屋で食べたりんごとマスカルポーネの串が美味しかったと私が言い続けたのを覚えていたのだろう。串カツの夜、彼は初めて私の首にヒッキーを残した。私は愛を感じていた。


11月18日、彼はまだ実家のフロリダにいる。何故だか私は彼のLINEを開いてしまった。
今はvoomとかって機能が少し変わったけれど、その頃はプロフィール画像がアップデートされた時などのお知らせが出るページがあって、削除しない限りは歴代のプロフィール画像などが見れた。彼のプロフィール画像がアップデートされましたという自動投稿に、返信が付いているのが目に入る。その返信は画像が貼り付けてあるだけで、文字はなかった。

それはLINEのトーク画面のスクリーンショットだった。
貼り付けたのは「退会したユーザー」だった。スクショのトーク画面では、自分のメッセージを全て取り消していて、彼が送ったメッセージだけが残っている。

「Hi there. tinderでいいねしてくれたよね。君はすごく可愛い笑顔で、身体のラインもゴージャスだよ。どんな関係を希望しているの?

それは面白い。僕は20cmだけど大丈夫かな?

それと、3人で一緒に楽しめるようなセクシーなお友達はいる?
僕の〇〇○が20cmだよ。君は耐えられるかな。」

血の気が引いた。


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