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柳原孝敦「亜熱帯から来た男」

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第5回 ラテンアメリカ文学概説——カルペンティエール『失われた足跡』を読みながら③(柳原孝敦)

第5回 ラテンアメリカ文学概説——カルペンティエール『失われた足跡』を読みながら③(柳原孝敦)

※「ラテンアメリカ文学概説——カルペンティエール『失われた足跡』を読みながら②」(第4回)はこちら

テクストの縦の連関1:クロニカ 前回述べたように、アレホ・カルペンティエール『失われた足跡』は人類学・民俗学の調査旅行に同行した経験を発想源のひとつとしている。友人にして国立民俗学研究所所長フアン・リスカーノやカメラマンのフランシスコ・ペレスらとともに企てたバルロベント地方への調査旅行をヒントにし

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第4回 ラテンアメリカ文学概説——カルペンティエール『失われた足跡』を読みながら②(柳原孝敦)

第4回 ラテンアメリカ文学概説——カルペンティエール『失われた足跡』を読みながら②(柳原孝敦)

※「ラテンアメリカ文学概説——カルペンティエール『失われた足跡』を読みながら①」(第3回)はこちら

ニューヨークを描く(承前)
 前回、カルペンティエールの『失われた足跡』(岩波文庫)はニューヨークとの対比で南米のジャングルを描く態度においてモデルニスモの詩人たちに通じるものだと断じた。そしてモデルニスモという潮流がラテンアメリカの文化的統一を訴え、「ラテンアメリカ主義」とでも呼ぶべき思考を産み

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第3回 ラテンアメリカ文学概説——カルペンティエール『失われた足跡』を読みながら①(柳原孝敦)

第3回 ラテンアメリカ文学概説——カルペンティエール『失われた足跡』を読みながら①(柳原孝敦)

 前回予告したように、ここではアレホ・カルペンティエールの長篇小説『失われた足跡』(1953)に解説を加えながら、それへの注釈の形でラテンアメリカ文学を概観することにする。読者は当該作品を並行して読みながら本論を読んでもかまわない。もちろん、あらすじなども紹介するので、実際の小説は読まず、ただ本論だけを読み、ラテンアメリカ文学の見取り図を理解すると同時に『失われた足跡』を読んだ気になるだけでもかま

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第2回 古本屋のオヤジにも喫茶店のマスターにもなれなかった(柳原孝敦)

第2回 古本屋のオヤジにも喫茶店のマスターにもなれなかった(柳原孝敦)

Ⅲ 大学進学、出会い 島田雅彦と伊井直行の間で 私の大学進学を語るのに欠かせない名は、ラテンアメリカの作家のそれではない。島田雅彦と伊井直行、ふたりの日本人作家である。だが、ここでも一旦、少し遠い起源に遡ろう。

 読書によって3年間をやり過ごした私は、既に述べたように、さらにリハビリと呼ぶしかない2年間を過ごすことになる。その間はアルバイトに励んだ。上京前には実家近くでサトウキビ刈りの手伝い、上

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第1回 ラテンアメリカ文学との出会い(柳原孝敦)

第1回 ラテンアメリカ文学との出会い(柳原孝敦)

総論 ガルシア=マルケスに託して
 私がラテンアメリカ文学を専攻するようになったのは、高校の理数科という学科に入ったからである。

 これは、マコンドができたのは海賊フランシス・ドレイクがリオアチャを攻撃したからだとするガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』の論法である。いや、『百年の孤独』に限らず、小説とは始まりを書き記すためにその始まりの遠い起源に遡って説明することの多い物語形式だ。した

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