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全卓樹ワールド全開!―銀河の片隅で科学夜話・渡り鳥たちが語る科学夜話

 小型でおしゃれな装丁の2冊の本に出会った。著者は理論物理学者。2020年発表の『銀河の片隅で科学夜話』、続編にあたる23年発表の『渡り鳥たちが語る科学夜話』に合計44のエッセイが納められている。  本書は、その姿かたち―装丁、文体、文章と挿絵の響きあい、といった内容以前の魅力にあふれている。読み始めてみると、文体は内容によって微妙に変わっているような気がする。しみじみとした懐かしさを感じさせたり、科学者らしい簡潔な語り口だったり、時には宮沢賢治を彷彿させる口調があったりする

    • 日本語の発音はどう変わってきたかー「てふてふ」から「ちょうちょう」へ

      この本を手に取った多くの人たちと(多分)同様、私も、帯の 「羽柴秀吉はファシバ フィデヨシだった!」、 また、表紙袖にある室町時代のなぞなぞ、 問題「母とは二度会ったが父とは一度も会わないもの、なーんだ?」(答・くちびる) に好奇心をそそられて読み始めた。日本語文法なんて、高校時代にうんんざりしながら学んで以来のことである。ところが、まさに“巻を措く能わざる“本だった。 専門家から見れば常識なのかもしれないが、素人には目からウロコの連続で、“え~っ、そうだったの⁉”と何度

      • 辞書をめぐるシスターフッドの物語―『小さなことばたちの辞書』

        <辞書にも性別がある?>  著者あとがきにはこうある。 【この作品は二つの素朴な疑問をきっかけに生まれた。男性と女性では、言葉の意味に違いはあるのだろうか? もしあるとしたら言葉を定義する過程で、何かが失われることはないのだろうか?】  本書を読むとこの問いの答えはふたつともyesであると著者が考えていることがわかる。ことばや辞書にも性別があるのだ。  本書はオックスフォード英語大辞典(通称OED)の持つ男性優位的な性格に対する女性のオルタナティブの物語であり、それは同じ時代

        • 辞書作りにとりつかれた人々ー博士と狂人 ~世界最高の辞書OEDの誕生秘話~

          <『小さなことばたちの辞書』の予習として読んだ>  『小さな言葉たちの辞書』(ピップ・ウィリアムズ著:2021年)を読み始めて、オックスフォード英語辞典(OED)のことをもっと知らなければこの本のことはわからないな、と思ったのが本書を読んだきっかけだ。ウィリアムズは、この本を、「大変面白く読んだものの、<辞典>(OED:筆者補足)はじつに男性中心の事業だったという印象が残った」(『小さなことばたちの辞書』あとがきp.505)と述べて、『博士と狂人』が同書を執筆する一つのきっか

        全卓樹ワールド全開!―銀河の片隅で科学夜話・渡り鳥たちが語る科学夜話

        • 日本語の発音はどう変わってきたかー「てふてふ」から「ちょうちょう」へ

        • 辞書をめぐるシスターフッドの物語―『小さなことばたちの辞書』

        • 辞書作りにとりつかれた人々ー博士と狂人 ~世界最高の辞書OEDの誕生秘話~

          ロバート キャンベルさんの目と手、そして対話―『よむうつわ 下;茶の湯の名品から手ほどく日本の文化』―

           ロバート キャンベルさんが茶の湯の名品を訪ねるー、茶道雑誌に掲載していたものをまとめた一冊である。図書館で偶然見つけて手に取った。この本の2か月前には上巻が上梓されたようなのだが、先に下巻を読んでしまった。久しぶりにとてもすがすがしい、穏やかな気分で本が読めた気がする。 お茶のうつわーたかがお茶を飲むための道具だけれど一つ一つに物語がある  お茶席での「お道具拝見」という作法で、お道具を手に取って拝見し、亭主の思い入れや器の由来などを伺うのは大きな楽しみの一つである。も

          ロバート キャンベルさんの目と手、そして対話―『よむうつわ 下;茶の湯の名品から手ほどく日本の文化』―

          ジャーナリスト与謝野晶子

          松村由利子 短歌研究社 2022年9月  与謝野晶子がジャーナリスト⁉ このタイトルにまず驚いた。  著者がこの本を書くことになったきっかけは、フランスの新聞『ル・タン』のインタビューに、最上の職業は「新聞記者」と答えたと書いているのを読み、不思議に思ったことだったという。著者自身、長年記者生活を送ってきたことからこの発言に鋭く反応したのであろう。著者の松村由利子氏は歌人であり、長年、朝日新聞、毎日新聞の記者を務めておられたとのことである。このような著者だからこその切り口

          ジャーナリスト与謝野晶子

          ダーク・ヒロイン : ジョージ・エリオットと新しい女性像

          黒髪v.s.金髪 本書でいう「ダーク・ヒロイン」とは、黒や褐色の髪、黒い目を持つヒロインのことである。英米文学に登場するヒロインには、黒髪(ブルネット)、黒い目、浅黒い肌の「ダーク・ヒロイン」と金髪(ブロンド)、青い目、白い肌の「フェア・ヒロイン」の2種類ある。これは1960年に、レスリー・フィードラーが『アメリカ小説のおける愛と死』で指摘して以来、常識的な見方になっているのだという。前者は一般的には情熱的で高慢なタイプ、後者は家庭的で優しいタイプとされ、多くの場合幸福になる

          ダーク・ヒロイン : ジョージ・エリオットと新しい女性像

          マリメッコの救世主 キルスティ・パーッカネンの物語

          ウッラーマイヤ・パーヴィライネン著 セルボ貴子訳 祥伝社 2021.3 <マリネッコ誕生> マリメッコは、1951年にアルミ・ラティアとその夫によって「斬新で飽きのこない美しい商品を」というコンセプトのもとに設立されたフィンランドのアパレル企業である。デザイナーにマイヤ・イソラ(ポピーの花をモチーフとした「ウニッコ柄」で有名)を起用したことが成功の大きな要因になった。1960年のアメリカ大統領選挙の際ジャクリーン・ケネディがマリメッコのドレスを愛用したことから一躍注目され

          マリメッコの救世主 キルスティ・パーッカネンの物語

          【感想】キツネ潰しー誰も覚えていない、奇妙で残酷でマヌケなスポーツ

          エドワード・ブルック=ヒッチング、片山美佳子訳                日経ナショナル ジオグラフィック  2022.8.8 朝日新聞の読書欄(2022.10.8)で紹介されていたので読んでみた。 まず驚くのは、残虐で野蛮なスポーツ(これ、スポーツ?と疑問がわく!)が何と多いかということ。 その名も、キツネ潰し、リス落とし、クマいじめ、猫焼き。ほかにも、イノシシ、鶏、鴨、ブタ、ヤマアラシからライオンにいたるまでさまざまな動物がいじめられている。  本のタイトルになって

          【感想】キツネ潰しー誰も覚えていない、奇妙で残酷でマヌケなスポーツ