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【掌編小説】戦場

まだ爆撃の音が響いている街で、腕から血が出ていた少女に僕は話しかけていた。
「ほかに行くところは?」
少女は首を横に振った。
「ほら」と隣にいた坂倉は自分の思った通りだと言いたげな目をして言った。
「それなら、俺たちのシェルターにいればいい。地下にあるから、殆ど無事でさ、市のシェルターより広くてテレビも食料もある。ドアを閉めてもネットが繋がるんだ、外国の放送だって見れる」
「でも……まだお母さんの電話の電池が残ってるかもしれないから……」
 瓦礫の粉塵を浴びた長い髪が場所によって濡れていたり砂埃を被ったりして黒から灰色へグラデーションしていた。
「俺んちのネットからかければいいじゃん」と坂倉は言ったが僕が
「いや、そういうことじゃないよね。お母さんと連絡がつく可能性があるうちは、外にいたいってことだよね?」
「うん……」
「なんだよお前、折角のチャンスだってのに……」と僕の髪を引っ張りながら耳元に言った。
「僕はごめんだね、こんな怯えている子に……。あのさ、提案があるんだけど」
と僕が途中から少女に向かって言うと、目を丸くしてこちらを見た。
「6時間に一回、この瓦礫の下に食料を置く。君はそれを取りに来る。悪くないだろ?」
と言った僕を坂倉も少女も不思議そうな目で見た。

これは少女の母親がもう亡くなっていた場合の、僕と坂倉にできる最大の支援だった。
「こいつの家は散らかってて、足の踏み場もない。さっきこいつは良い部分しか話さなかったけど、トイレは臭いし、ぼろの冷蔵庫に野菜なんて一つもない。あるのは四角いパンとコーラだけ。うん、だから俺はおすすめしないかな」坂倉が舌打ちをしているのは分かり切っていた。
「6時間おきに、取りに来ればそれでいい。お母さんと連絡がつくまで食料を渡す。つかなければ✖をがれきの石に刻んでおいてくれれば6時間後に置いておく。君は食料が手に入るし、お母さんと合流できる可能性もある」
「うん。でも……いや、ありがとう」
「うん。時計はある?」
「ある」
「じゃあ、また6時間後」
と言い、僕と坂倉は自分のシェルターに戻った。
戻るなり呆れた声で坂倉は言った。
「お前、いい人ぶってる余裕があるのかよ」
「ないよ。でも俺は地獄にまでは落ちたくないんだ。この部屋に入れたらどうなるか、分かり切ってる」
「そりゃあ、破れるまでやっちまうだろうな」
「それじゃあ爆弾落としてる奴と変わらないよ」

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