超神戦妖暦 DAWN BRINGER

我は死神なり、世界の破壊者なり。――『バガヴァッド・ギーター』

 令和XX年、日本は神の再来を見た。

 神無月の早朝、諏訪湖から突如出現した巨大半人型土偶生命体(後に超越神体壱號と認定)は「建御名方」を僭称。精神感応を用いて「天津神とその裔に占有された豊葦原中国の奪還」を宣言し、同時期に青森県から出現した超越神体弐號「荒吐」、島根県に出現した超越神体参號「八岐大蛇」と接触した。続いて信仰を失い、妖怪に身を窶した零落神を従えて三神百鬼夜行となり日本全土を蹂躙。自衛隊や在日米軍の抵抗も虚しく、日本人に残された安息の地は東京都千代田区、三重県伊勢市、そして京都府京都市上京区の三カ所のみとなった。

 建御名方の出現から約半年。京都御所は往時の静謐さを失い、戦火に終われた人々の避難場所となった。京都の街を焼く炎は天をも焦がさんと勢いを増し、神とも魔とも知れぬ巨影が徘徊する。時折聞こえる絶叫は、鵺の声か逃げ遅れた者の断末魔か。しかし明日をも知れぬ人々は、襤褸を纏い身を寄せ合うのが精一杯だった。

 煤けた板張りの床を、白い狩衣姿の少女が進む。疲労の色を濃く滲ませながらも凛とした顔を保ち続けるその姿に、人々は自然と道を開けた。その足が、他の避難民と同じく蹲った男の前で立ち止まる。傍らには、襤褸に包まれた身の丈ほどの長い何かが置かれていた。

「ここに御座しましたか」

「陰陽師風情が、何用か」

 男は顔も上げずに応じる。

「悪神どもを御国から掃討します。どうか助力を」

 男は、引き攣るような笑い声を立てた。

「我らを化生と罵り穢れと笑い、都から排斥した貴様らなど知ったことか。諸共に滅びればいい」

「そう思うなら、なぜ百鬼夜行に加わりませなんだか。方相氏よ」

 ふわり、と御所に一陣の風が吹く。諸人の頬を撫でた風は、方相氏と呼ばれた男が少女に鉾を突き付けて起こしたものだった。男には金色に輝く四つの眼が備わっていた。(続く/797文字)

編集後記:「第2回逆噴射小説大賞」にアイデアが沸いたものの、既に五発の弾丸を打ち尽くした後だった。来年に開催されるまでこのネタを保ち続ける自信がないので公開し、ここに供養する。

甲冑積立金にします。