【第26章・鶴来る】狩野岑信 元禄二刀流絵巻(歴史小説)
第二十六章 鶴来る
津山藩の改易騒ぎから半月ほど経った。十月中旬、もはや秋と言っていい。余所行きの紋付を着た狩野吉之助が浜屋敷の通用門をくぐる。そして、真っ直ぐ間部の御用部屋へ。
「ただいま戻りました」
「ご苦労様でした。それで、水戸藩は何と?」
「はい。あちらの用人・水沼様と面会し、お話を伺ってきました。やはり、内藤家のご隠居様が御老公に書状を送って下さったようです」
「では、御老公が出府を?」
「いえ。御老公には八月下旬に夏風邪をお召しになり、以来、ご体調が優れ