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【物語の現場016】狂言回しを演じてもらった狩野素川章信筆「梅雀図」(絵画紹介)

 学生時代からの趣味のひとつに観劇があります。ハチャメチャな小劇場系の現代劇も見ますが、一番好きなのは、基本中の基本、シェークスピアです。
 そして、シェークスピア劇には大抵、「狂言回し」という存在が登場します。物語の進行を助ける、どちらかと言うと、ユーモラスな存在。

「融女寛好」では、狩野素川章信に演じてもらいました。

 史実として、素川と融川の交友記録はありません。しかし、この二人、きっと気が合ったと思います。

 素川は、その後も吉原の妓楼や柳橋の料亭に入り浸って画を描き続け、六十二歳で死にました。彼は死ぬ前、「画道伝授口訣」という奇妙な書物を残しています。

 わざわざサブタイトルを付けて、狩野探幽の画について考察すると言っておきながら、そこにはほとんど触れず、独自の技術論を述べていたかと思うと、急に変な精神論や処世訓に跳び、果ては陰陽五行がどうたら・・・。

 とにかく、何が言いたいのか、さっぱり分からない。それが却って彼らしく、可笑しい。

「馬鹿野郎! 絵画について知りたけりゃ、本なんぞ読んでねぇで、画を見ろ、画を」ってことなのかもしれません。

 今回紹介する絵画は、狩野章信筆「梅雀図」

 私を狩野派の世界にいざなってくれた記念の一幅でもあります。余白をたっぷり取った縦長の画面に、スッキリと白梅と二羽の雀が描かれています。

 構図としてはありがちですが、やはりバランスがよい。何より、雀たちが、落語の「抜け雀」で語られるが如く、今にも飛び出してきそう。二羽のアイコンタクトも可愛らしい。それを最小限の手数で的確に表現しています。

 素川章信は、本編でも述べましたが、後期狩野派を代表する名手です。一方、トレードマークの頭巾をかぶり始めた理由など、いまだ謎も多い。一度しっかり考えるためにも、いずれは彼を主役にした短編でも書いてみたいと思っています。

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