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バランスバランス♪五味調和

五行学説は中医学の基本です。五行学説とは木火土金水という5つの要素に当てはめ、それぞれが協調し合い、場合によっては牽制し合って自然の仕組みが成り立っていると捉える考え方です。

そして中医学ではこの五行学説を人の体にも当てはめ、5つの要素、木火土金水を肝心脾肺腎と捉えて同様にそれぞれが影響しあいながら成り立つとして様々な病気の治療を展開します。

中医学では味も同様に5つに分類し、それぞれの味が肝心脾肺腎の臓腑に与える影響をとても大切にしています。これが薬膳のベースの考え方となります。

“医食同源”との言葉があります。これは食は治療の基本であり、食を切り離した治療などありえないという考えです。だからこそ本場中国では食べることを大切にし、薬膳の考えは生活に密着しているため、日頃の食事でもたくさんの生薬を用います。

今日はこの薬膳の基本となる考え“五味調和”についてお話しします。

五味調和は五行学説を元に、味を5つに分類し、同じような味を持つ食品は同じような効能をもち、それぞれの味がバランスを保つことで人の健康を作り上げると考えたものです。その5つの味とは酸味、苦味、甘味、辛味、鹹味(塩味)です。

この五味はそれぞれ食することで守る臓器があります。その対応がこのようになります。

酸味→肝
苦味→心
甘味→脾
辛味→肺
鹹味→腎

酸味のあるものを食べると肝が元気になる、苦味のあるものを食べると心が元気になる、ということです。

例えば苦味のある食べ物ゴーヤは夏が旬ですね。このゴーヤのような食べ物は余分な熱をとるため、熱しやすく、また暑さに弱い心を元気にしてくれます。また、秋に旬のさつまいもや栗など、自然の甘みは脾を労わり、消化の力を助けてくれます。まさに食欲の秋ですね。

一つ一つの味を少し詳しく見ていきましょう。

まず肝を保護する“酸味”。酸味の特徴は主に3つ;収斂固渋、生津と安蛔です。

収斂固渋は体から漏れ出るものを押さえる、引き締める効果です。発汗や下痢、出血などの病的な浸出液の流出を止める作用です。そして生津は津液を生み出すこと。津液不足の陰虚証に用いられます。最後に、安蛔は蛔虫の動きを止める作用です。酸味は駆虫薬として用いられることがあります。”能く収め、能く生じる”という酸味の作用は津液などの体に必要なものだけではなく、邪気に対しても働きます(恋邪)。そのため実邪の証には注意が必要です。

次は心を保護する“苦み”について。苦みは燥湿、泄降と開胃です。

燥湿作用は湿をよく乾燥させる作用です。泄降は下に下ろして排泄するという意味。上昇に上った熱を引き下ろす、上逆した気を引き下ろす、停滞した大便を排泄する作用などです。また少量の苦みは胃の働きを高めます。苦みの特性は”能く燥し、能く降ろす”と言われます。燥性が強いので陰虚証など乾いた状態には注意して用いなくてはいけません。

続いて、脾を保護する”甘味”です。甘味は滋補、緩和と潤燥作用を持ちます。

甘味は気を補い、血を滋養します。そのため補気補血薬は大抵甘い飲みやすい味となります。甘味はゆるめる作用があります。安心作用のように気持ちを緩めたり、緩気止痛作用のように痛みを緩めたり。また甘草に代表されるように諸薬の調和を務めます。また、苦みと逆で乾燥を潤す作用があります。甘味は”能く補い、能く緩め、能く潤す”と言われています。この潤す作用は膩性といわれ、湿気を助長し脾胃の機能を損害しやすいため、湿証には注意が必要です。

次いで、肺を保護する”辛味”。辛味は発散作用と行気作用を持ちます。

発散作用は風邪薬によく用いられる肌表にとりついた外邪を発汗などで取り除くことです。行気作用は気を巡らせる、そして間接的に血も巡らせる効果があります。一部の薬剤(麝香など)は芳香性が強く、邪を除き心神を安定させる開竅作があります。辛味は”能く散じ、能く巡らす”と言われますが、行気、活血は気血を消耗しやすいので注意が必要です。

そして最後に、腎を保護する”鹹味”。聞き慣れない言葉ですが鹹味とは塩味。といっても塩辛ければいいわけではなく、ミネラル豊富な天然塩のことです。鹹味の作用は軟堅、導下、補腎です。

軟堅作用は堅くなったものを柔らかくする作用です。例えばしつこい便秘や堅い瘀血を柔らかくして流し出します。導下作用は下に降ろす作用で、大便の瀉下作用や平肝熄風薬(肝陽を下に降ろす)ことができます。補腎作用は腎陽腎精を補う作用です。鹹味は”能く軟らかくし、能く下ろす”と言われます。

またこの五味は引経の役割も果たすことがあります。例えば六味丸のように腎に働かせたい薬を飲むときは塩水で鹹味を聞かせて飲んでいたとか。

この飲み方も現代ではあまり勧められないようです。それもそのはず、塩水で薬を服用などしたら塩分のとりすぎで血圧が心配ですよね。一般に塩、というと精製された塩分、いわゆるNaClのみの物質のことですが、ミネラルとはその吸収、体内での働きに関して他のミネラルとの関わりをとても大切にします。例えば一方のミネラルが多すぎると他のミネラルが吸収されない、もしくは排泄が多くなってしまうとか。中医学で言う鹹味はにがりなど、いろいろなミネラル分が多く含まれた自然塩です。小さなことですが、塩分もおざなりに選ばずやはり天然由来のものが体に優しいようです。

このように、五味にはそれぞれ特徴があり、そしてそれぞれ対応する臓腑を初めとする体の働きに寄与すると中医学では考えています。

では、どこかが悪ければ、その場所を守るある特定の味ばかり食べていればいいか?というともちろんそんなわけではありません。

五行の表を見ていただくとわかるように、とりすぎると悪い影響を与えてしまう味と臓腑もあります。

酸味⇨脾
苦味⇨肺
甘味⇨腎
辛味⇨肝
鹹味⇨心

これは例えば酸味のあるものをとりすぎると脾を痛める、苦味のあるものをとりすぎると肺を痛める、という関係です。具体的には鹹味である塩分をとりすぎると高血圧となり心に負担をかけますし、辛味であるアルコールをとりすぎると、肝の働きを押さえ込んでしまいます。

五行学説の相克の関係と同じですね。

バランスのよい食事、というと野菜や肉の量や、油や糖の量の話だと思いますよね。単一の味で調理する、ということはないにしてもやはり自分の好みの味に偏りがちです。なるべく意識して、5つの味が食卓にのぼるようにしたいもの。特に小さいお子さんは甘味ばかりが好きだったり、男性は酸味と苦みがあまり箸にとらなかったり、偏りはどでがちですよね。一緒に暮らすご家族の体調管理のためにも、食材の味も少し考慮に入れてみてください。

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