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漢方の世界で考える人生の節目

今回は中医学(漢方)における生命と死について。

言うまでもなく人は生まれて死にます。そのプロセスについて中医学はどのうように考えているでしょうか。

人は生まれて、そして死んでいきます。まず小さな弱々しい命として産まれた私達は徐々に命のみなぎり、成長を経てピークに達し、その後徐々に衰えていきます。

“腎の役割”でお話ししたように、腎は先祖代々受け継いだ生命力を格納しています。

腎精は全ての生命力の根本です。全ての陰と陽の根源が濃縮されています。腎精は全ての生命活動の上源です。

この腎精は2つの要素から出来ています。まず1つ目は父親から受け継いだ生命力、母親から受け継いだ生命力を融合して授かる「先天の精」です。親から受け継いだ命の遺産です。 

2つ目は飲食物のエネルギーから抽出して得られる「後天の精」です。先天の精が親から受け継ぐ遺産であれば、後天の精は自分自身で得ることができた収入みたいなものです。腎精はこの先天の精後天の精の2つが融合してできています。

この腎精の盛衰に関して、中医学のバイブルである「黄帝内軽」にとても有名な記述があります。これは健康相談を受ける時とてもさんこうになるのでここでお話しておきますね。


人の盛衰は女性なら7年、男性なら8年のインターバルで変化する、ということです。 

まず女性の一生のプロセスを見てみましょう。女性の体は7年毎に節目を迎えます。

 7歳:葉が生え変わる、髪の毛が伸び始める
14歳:初潮を迎える
21歳:親知らずが生える、生命の充実期を迎える
28歳:筋肉や骨が発達する、髪も豊かに生える、生命の最盛期を迎える
35歳:顔から、いきいきとした輝きが消えていく、髪が抜け始める
42歳:顔の輝きがなくなる、髪が薄くなる
49歳:閉経する、体が衰える

今の時代の女性は昔に比べて栄養豊富なので、見た目が若い方はいつまでも若いですが…現代でも女性であればこの7の倍数の年齢で何らかの体調の変化を感じることは多いようです。特に35歳から妊娠出産率が下がること、42歳を過ぎるとほぼ妊娠は難しくなること、49前後で 閉経などと言った点は現代の生殖医療の分野での統計と大きく違いはないのではないでしょうか。


次に男性の体の変化について。男性の体の変化は女性より長い8年が目安となります。たった一年ですが、なんかズルイ…と感じます。

 8歳:髪の毛が伸び始める、葉が生え変わる
16歳:射精できるようになる
24歳;親知らずが生える、生命の充実期を迎える
32歳:筋肉や骨が発達する、生命の最盛期を迎える
40歳:髪が抜け始める、歯に艶がなくなる
48歳:顔の輝きがなくなる、髪が白くなる
56歳:キビキビと動けなくなる、体が目に見えて衰える
64歳:髪も歯も抜け落ちる

こちらもさほど現代人と大きな変わりはないのではないでしょうか。


治療をする側としては、この年齢による体質の変化に注意を払うことはとても大切です。例えば、節目の年になる一年以上前から体質的な弱点を補強しておくと次のタームはトラブルなく乗り越えることができると言われています。例えば更年期の前。40代後半からしっかり補血をしておくと、肝気の乱れが起きにくくなり、おだやかに過ごせるようになるようです。


私たちは一定の期間子供を授かる能力をもちます。この生殖能力をもつことを中医学では「天癸(てんき)が生まれる」と言います。この天癸は腎精から生まれます。その人の腎精の強さによって多少前後しますが、この天癸が生まれている期間というのは女性では14歳から49歳まで、男性では16歳から56歳です。また天癸の生まれている期間であっても生殖能力の強さは個人差があります。これも腎精の強さの違いです。


生殖能力の強さは言い換えれば若さでもあります。若さを保つためには腎精が重要です。先ほど腎精は2種類のものからできるとお話ししました。「先天の精」と「後天の精」です。先天の精は補充することができませんので、なるべく無駄に消耗しないことは大切です。そのためにも、胃腸を整えてできるだけ後天の精からの補充を多くすることも大きな対策になります。


では、中医学でいう「死」とはどういうことでしょうか。


中医学では私たちの命は「精」が束ねられたもの。この束ねられた精がなんらかのきっかけでバラバラにほつれたときが「死」となります。


また、陰陽学説でお話ししましたが陰と陽はお互いがなければ機能しない存在です。その陰陽のどちらかが消え失せる、もしくは分かれたときが「死」であると考えます。


死の直前の正気が抜けた状態を「亡陽」といいます。陽気が陰から離解した状態です。


人の一生は「生(生まれる)→長(成長する)→壮(盛りを迎える)→老(老いる)→已(死ぬ)」という変化を遂げます。これは自然界の「生(芽がでる)→長(成長する)→化(花を咲かせる)→収(実がなる)→蔵(種となる)」という自然の流れと同じです。また、これは春→夏→秋→冬という季節の中にも同じ変化を見つけることができます。これが中医学が大切にしている自然界の縮図として生体をみる生体観です。 


「天人合一・天人相応」という言葉があります。人間は自然界の一部、という意味です。これは私たちが自然の中の一つの一員、という意味ではありません。私たち人間が自然と同じ機能を持つ一つの完成されたシステムということです。私たち一人一人が宇宙の一部、ではなく宇宙そのものということです。

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