見出し画像

喫煙席での喫煙絶対ダメ‼︎缶バッジ

鬱陶しい上司との飲みの帰り道、終電にギリギリ間に合わずイライラしながら歩いて帰っていると、シャッター商店街の路肩にヨボヨボの婆さんが風呂敷を広げて何かを売っていた。

「喫煙席での喫煙絶対ダメ缶バッジ…?なぁ婆さん、これ間違ってるよ」

「…」

「『禁煙席での喫煙』でしょ?喫煙席では喫煙していいもんだって」

「…喫煙席での喫煙絶対ダメ缶バッジでございます」

「いやだからぁ、喫煙席は喫煙していい、タバコ吸っていいとこでしょ?それがダメって意味わかんないよ」

「…1つ500円にございます」

「値段はわかってるよ、書いてるんだから」

「…1つ500円にございます」

「わかったわかったわかったよ!婆さんも寒い中大変だな!はい500円!1つもらってくよ!」

「…お買い上げありがとうございます」

夜道を歩きながら、この絵はあの婆さんが描いたのだろうか、イラストにも『喫煙席での喫煙』って書いてるしそう声に出しても言ってたから、書き間違いではないのだろう、まぁどうでもいいか、と思い、通勤リュックの前ポケットに缶バッジをつけてみた。

翌日、2時間半だけしか寝れない眠い目で仕事をこなし、また昨日の鬱陶しい上司に誘われた。同期の奴と上司、新入りの奴の4人でいつもの居酒屋に入った。そこでいつも通り入店時のタバコニオイストレスを感じいつも通り帰りたくなり、席について乾杯して眠い眠い眠いと適当な相槌を打っていると、何か乾杯くらい以降にほんのりあった違和感の正体に気付いた。喫煙者の同期と上司が、一切タバコを吸わないのである。昨日はこの上司にカウンターの真横でタバコを何本も吸われた。

「タバコやめたんですか?」

「え、いいや、なんで?」

「いや、吸ってないんで」

「あー、そういえば吸ってないな、なんか吸いたいみたいな気持ちもないな」

「わかりますわかります!僕もいつもめっちゃ吸うんですけど、全く吸う気がないんですよね!」

同期もテンション上がって共感しており、まさかと思って周りを見渡すと、他のテーブルもカウンターも誰一人としてタバコを吸っていなかった。店の扉を開けた瞬間にはタバコのニオイがあったから、ということは、まさか、この缶バッジのおかげか…?

「明日もここで飲みませんか?」

「え、いいけど、3日連続になるけど」

みんなが店を出ていったのを尻目に、リュックの缶バッジを外して、座っていた席の座布団の裏側に缶バッジをつけて退店した。


翌日、やはり、入店時から全くタバコのニオイがしなかった。条件は缶バッジを「見る」ことではなく、その空間に缶バッジが「在る」ことなのだ。

「先輩、あの店も時代なんですかね、誰もタバコ吸わなくなって、ストレスが減りました」

「そうだなぁ」

「でもなぜか灰皿はどの席にも置いてあるんですよね」

「…その理由を教えてやろうか?」

同じ嫌煙家のよしみで、婆さんのこと、缶バッジのこと、全て新入りに話した。


数日後、同僚の送別会があり、職員20人ほぼ全員が参加した。もつ鍋屋の座敷でグラス片手に退社する同僚が軽く挨拶をし乾杯した後、全員が口をつけずにグラスを置き、目の前に置かれているお通しに誰一人として手をつけない。店員がちょくちょく座敷の様子を見にきては退散を繰り返している。正面向かいの新入りが立ち上がりスーツを脱いでハンガーにかける。ワイシャツの胸元に缶バッジがつけてある。

「飲食店での飲食絶対ダメ缶バッジ…?」

「僕、人が目の前で食ってると吐きそうになるんですよ」

コース料理の渋滞が起きている。




——————————————-

小説の全内容はここまでです!
以下はお知らせです!


なんか記事を買って最大20%ポイントで戻ってくるキャンペーンをやっているので、普通に1000円サポートするのと同じですが、「有料記事として購入」することでお得になるかと思います。

※有料記事を購入しても、続きの文があるわけではないです!ご了承ください!そういう意味でサポートと同じという意味です!

※サポートも有料記事購入も、アプリからはできなくて、Web版からのみ可能だと思います!


↓詳しくはこちら↓
https://note.com/info/n/n06808e5e8cff

ちなみにサポートでも有料記事でも還元率は変わらず、「クレジットカード決済」の場合は最大還元率となり、僕に85.5%くらい入ります。

1000円の有料記事購入で、855円くらいが僕に入ります。

ご検討よろしくお願いします。


ここから先は

46字

¥ 1,000

サポートはクレジットカード支払いだと最高還元率85%くらいになります!1000円サポートで850円とかです!これはでかいのでよろしくお願いします!