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殺し屋の松田

「はぁ、また松田にやられたか」

 「先輩、松田って誰すか?」

「あぁ、新入りじゃ知らねぇか、殺し屋の松田、警察の世界では有名だよ」

 「え、松田って名前もう分かってるんですか?」

「そうだよ、ご丁寧にほら、見てみろ」

先輩が指差す先を見ると、政治家のおでこに『松田』というハンコが押されていた。

 「えっ、ハンコ?」

「松田はターゲットの血でハンコを押すんだよ、完全にナメてやがる」

 「え、リスク高くないですか?苗字って」

「まぁでも、本当に松田かどうかわかんないしな」

 「あぁそうか」

「一応、松田の線でも洗ってるんだが、全く手掛かりがねぇんだよな」

 「愉快犯の犯行ですね」

「愉快犯のハンコ?」

 「あぁ、犯行です(笑)、はんこう(笑)」

「あぁ(笑)え、もしかして松田自身も、犯行とハンコを掛けてるのか…?」

 「なるほど!そうだとすると、…えっと、そうだとしても」

「別にどうでもないな」

 「そうすね(笑)」

「んー、松田の手のひらの上というわけか」

 「…!先輩!いまなんて言いました?」

「ん、松田の手のひらの上…?」

 「それですよ!手のひらの上!松田は松田というハンコをターゲットの血でおでこに押すことで、ターゲット自身を松田にするんです!そして松田の手のひらの上…、先輩、ターゲットの手のひらを開いてみてください」

「俺がか?」

 「はい」

「え、俺が死体の手のひらを開くの?」

 「はい、お願いします」

「自分でやれよ」

 「いえ、お願いします」

「やだよ」

 「先輩が、お願いします」

「死体に触んの無理だって」

 「僕も無理なんで」

「お前がやれよ」

 「なんででしょうか」

「なんででしょうかってお前がなんか閃いたんだろ?なんで先輩の俺がお前の推理のために死体の手のひらを開かないといけないんだよ」

 「近いんで、先輩の方が」

「お前の方が近いだろ、足元にあるだろ」

 「いえ」

「なんの嘘なん?足元にあるだろほら、右、右か、右手が足元に、ちょっと重心を右に移動させたら靴の横が触れるぞ?」

 「重心とかないんで」

「重心とかないんでってなんだよ」

 「お願いします」

「やだよ」

 「らちあかないんで」

「らちあかないのは俺のせいじゃねえよ」

 「じゃあ2人で開けましょう」

「なんでだよ」

 「僕が右手を開くんで、先輩は左手を開いてください」

「えー、もー、まじで?てかなにがわかんのそれで?てか触っていいのか死体に」

 「まぁ、警察ですし、いいんじゃないですか」

「けっこうダメだって聞くけど現場保存とか」 

 「いま誰も見てないんで」

「そういうことじゃなくてさ、なんかチャンスみたいに言ってるけど」

 「じゃあいきますよいきますよ位置について!」

「えーえーマジで?」

 「いいですか?せーので開きますよ?」

「うん、はい」

 「せーっの!」

「…」

 「…」

「…」

 「なんもないですね」

「こっちもなんもないけど」

 「迷宮入りですね…」

「なにが?え、なにがあったらどうやったん?いっこもわからんのやけど」

 「松田の手のひらの上…これは松田が捜査を撹乱させるために用意したものだったんですね」

「それ俺が言ったやつやし」

 「え?」

「松田の手のひらの上は、俺が言ったやつ」

 「そうでしたっけ?」

「なんか喋ってるだけやなーって思ってたけどお前の推理みたいなやつ」

 「すみません出しゃばって」

「おでこに松田のハンコを押してターゲットを松田にするってどういう意味?」

 「適当に喋ってただけでした」

「ほんまやで」

 「…ん? 先輩?」

「なんや?」

 「先輩ってそんな、関西弁でしたっけ?」

「え」

 「さてはお前、松田だな」

「なんでやねん」

 「松田なんて苗字、関西以外で聞いたことがない」

「あるって全然」

 「じゃあなんで最初は標準語だったのに途中から関西弁になったんだ」

「関西出身で標準語に直したパターンの人によくあるやつ」

 「そうなんですか?」

「そう」

 「んー、殺し屋の松田、ハンコ…、ハンコ…、!、ハンコ屋!そうですよ!くそ!なんで気が付かなかったんだこんな簡単なことに!このハンコの印形からハンコのメーカを特定して、それを販売している店を徹底的に調べましょう!」

「それはもうとっくにやってるよ」

 「え!この印形を調べるのもうやっ」

「あとインケイって言うのやめて、印形って言葉あんの?聞いたことないけど」

 「ちょっと待ってください、…えーっと、…あっ、インケイと書いて、インギョウって読むらしいです」

「インギョウ?どういう意味?」

 「えーっと、はいはい、印鑑の意味もあるし、文書などの上に押した印のあと、らしいです」

「へー、じゃあ意味は合ってるのか、読み方が違うだけで」

 「そうすね、印形(インギョウ)もう調べてるんですね」

「でも聞き馴染みないからあんまよそで使わん方がええね」

 「会話のノイズになりますもんね…」

「うん」

 「松田が伝えたかったことって、こういうことなんですかね…」

「いや、松田が伝えたかったことって、印形の読み方ちゃうで」

 「え!」

「なんでもかんでも真相に近付いたみたいにすんのやめろ」

 「指し図ですか」

「指し図ちゃうよこれ、お前なんやねん」

 「すみません」

「で、結局あれや、松田の印形(インギョウ)はな、特定のハンコじゃなくてその都度ちがうから、購入した店も絞れへんねん」

 「なるほど」

「なんやったら芋版のときもあるし」

 「芋版!懐かしいですね!」

「せやねん、ちょっとほっこりすんねん現場が」

 「芋版 彫ってると思ったらカワイイですね松田」

「でもバラバラ殺人で腕版つくってたときは引いたなぁ」

 「ウデバン?」

「まぁ、芋版の腕版、腕版って言ったらややこいけど(笑)」

 「うわぁグロすぎますね」

「そういうのちゃうねん」

 「ファンだったらフェードアウトしますね」

「松田の周りにそういうのちゃうぞって言ってくれるやつおらんのかな」

 「孤独なんでしょうね」

「そうやなぁ」

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