僕の下の名前は　さどる　なので、「尻に敷かれてる」って言ったらウケます。

実際は別に尻に敷かれてないんですけど、やはり周囲の期待に「尻に敷かれてる」と言ってしまいます。

妻からは「私の印象が悪くなるから、尻に敷かれてるって言うのやめて」と言われます。

さっき実際は別に尻に敷かれてないとは言ったんですけど、僕は天命なのか神の悪ふざけなのかで顔の形がサドルです。

なので厳密には尻に敷かれている状態のこともありますよ？

妻からは「それマジで絶対に言うなよ」って言われました。

もう何回もいろんなところで言ってるけど「言うわけ中目黒」と言ったりしています。

出前の配達で生計を立てているので、飽きたら自転車のサドルと自分の顔を入れ替えて移動しています。

案外、気付かれないもんです。

大人はスマホに夢中だし、子どもとか犬がじーーーっと見てくるくらい。

昼間はしませんよ目立つから。

真っ暗になったらたまにやります。

色も黒よりの紺なので視界の端っこくらいじゃ気付かないんです。

「お待たせいたしました」

「ギャャーーーーー！！」

おっと、元に戻すのを忘れていた。

ドアを閉められたので、松屋を玄関前に置いて退散。

おい　さどる　よ。

おい　さどる　よと。

前が見えないじゃないか。

サドルには目がついてないじゃないか。

そうです。

サドルには目がついてないんです。

でもじゃあなぜあなたは考え、思い、恋をし、世の理不尽を嘆くのですか？

その説明ができない限り、あなたに「サドルには目がついてないから前が見えない」なんて言う資格はありません。

実際、前は見えていますよ。

理由や構造は僕にも分からないです。

エレベーターで8階から下に降りて、自転車に差しておいた僕の顔が無かった。

街灯もない夜中だったので犯人はサドルを盗んだつもりだったんでしょうけど。

そういうわけで、3日もすると、電信柱や壁やらに僕の顔写真が貼ってあります。

妻も僕を探していますし、僕も僕を探しています。

押して歩くか、立ち漕ぎかの2択で、夜な夜な僕を探しているのです。