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デジタルHRサービスの「食わず嫌い」が起こる本当の理由とは

採用・人事・離職防止のパーソナルトレーナーのカンヤケケンイチロウです。私の活動目標は、同年代経営者・人事担当者のデジタルHRサービスの「食わず嫌い」をなくすこと。
利用者側(私と同年代の経営者や人事担当者)がテクノロジーに慣れていないため、導入に二の足を踏んでしまう現状を自己紹介とわたしのやりたい事のところで記載しました。でも本当に利用者側の不慣れがすべての原因なのでしょうか?私は、そうではなく、デジタルHRサービスを提供をする側にも問題があると考えます。まあ、問題というか、気づいてないだけで悪気がないのでもっと厄介なんですが。

もともとリクルート時代に営業企画という「商品開発」と「利用クライアント」をつないでサービスを大衆化させる仕事を18年やり、札幌から鹿児島までの企業の現状を見てきたから気付いた一つの仮説をここでご紹介したいと思います。

※過去のお話を参照いただくのであればこちらより。


HRサービス提供事業者と利用者との間には「感覚の乖離」がある

「え?」と思うHRサービス提供者は多いと思います。これは、利用者の感覚を見誤っているからです。リクルートの営業企画時代に一番注力したのは、「サービス開発側と利用するクライアントの乖離」を埋める事でした。

求人サービスを例にとって考えてみましょう。
20年前、求人媒体が「ペーパーマガジン」から「ネットサービス」に進化したとき、一番問題になったのが応募受付システムの対応でした。
応募受付で一番もったいないのは応募の取りこぼし。求職者側が求人情報検索を行うのは空き時間や夜間が多く、その時間帯には企業側が営業しておらず、翌日の営業時間内に電話をしないといけない(電話がコミュニケーション手段の中心だった)。
また応募受付担当が不在だったり忙しい時には「(電話の)かけなおし」を余儀なくされ、再電話率が下がり応募を失う。これではお互いの利益にならない。

参考 お仕事探しや応募に使うツールや時間帯 エン派遣調査より

そこでウエブ求人情報上からボタン一つで即応募できるような仕組みを開発しました。求職者が必要事項を入力してボタンを押せば、企業のメールやFAXに応募情報が飛ぶ仕組み。開発時には利便性が上がり、企業の採用数も増えるだろうと意気揚々でした。

でもふたを開ければ、企業側の応募未読・応募未取り出しの多いこと。
求職者は非常に利便性が高かったのですが、メールを常に見るという習慣がない応募受付企業にとってはその行為が苦痛。FAXでの応募受信も個人情報を垂れ流さないために必ず「暗証番号」を入れない情報が出てこない仕掛けにしており、企業側がそれを忘れたり面倒くさがったりしてそのまま放置される。「求職者という利用者」にはすぐ応募ができて便利でしたが、「応募受付企業という利用者」は求人応募がその場で完結する電話の方が利便性が高く、この浸透をあたりまえにする「布教活動」が大変だった記憶があります。

求人サービスは「求職者という利用者」が応募してくれてビジネスが成り立つので、彼らの「不」を解消し利便性を上げることがサービスの品質向上となるので、求職者利便性を追求してどんどん進化します。

ただ、もうひとりの利用者である「応募受付企業という利用者」の行動やネットリテラシーを正しく理解できているかというと、そうではありません。これによって「乖離」がどんどん進んでおり、いまや「溝」を超え「分断」に近い状態になっているところもあります。

「デジタルHRサービス提供者」が「応募受付企業という利用者」の動向を正しく認識できていない

なぜデジタルHRサービス提供者が「応募受付企業という利用者」側の行動やリテラシーを正しく理解できないのでしょうか?もちろんデジタルHRサービス提供側もリテラシーに差があることは意識していて、そこを調節して手を講じてサービスを提供しています。

ネットに不慣れな人でも進め方がわかるようにサイトの入力画面を整える、上から順番に進めたら完成するようにフォームを簡素にしたり、作業するときのアクションボタンの位置をわかりやすくしたり、管理画面のUI・UXを研究し工夫をしています。

さらに親切なサービスは【チュートリアルをつくる】【botで質問できるようにする】【立ち上げ時にカスタマーサクセスがオンラインで伴走する】などの打ち手を入れています。でも、それでもすべての利用者に理解を深めるには足りないのです。

これは私がパーソナルトレーニングしている企業で実際にあった例です。

  • パソコンのOSがWindows7のままだった(サービス保証期間が終了していたがそのまま使っていた)。

  • パソコンを買って一度もシステムアップデートをかけたことがなかった

  • パソコンのメモリがいっぱいいっぱいだった。(データのクラウド保存をかけていなかった)

「え、それってシステムサポート以前の内容だから、われわれのメンテナンス領域外・・・」と思うかもしれませんが、システムを正しく使ってもらおうと思うなら、利用環境確認も必要です。利用者である中小企業側は問題なく日常がまわっています。情報システム部があるような会社は少なく、社内でちょっと詳しい人がサポートしているだけだったり、パソコンが壊れたら買い替えるけどそうでないと使い続ける。まさか5年や10年で使えないレベルになっているとは思わないんです。

「利用者はきっと最大限の便利さを求めているはずだ!」と信じてサービス提供側はできるレベルをアップデートしています。
でも実際の利用者(とくに年齢の高い利用者)の日常や環境はそこに追いついていない。サービス提供者ほど高いアンテナをもって自分の利用環境をアップデートしていない。ここに気づいていないHRサービス提供者が多いことが「乖離」を産んでいるのです。

近年のテクノロジーの進化スピードはサービス利用者世代の理解を超える速さになっている

そこ「乖離」はどれほどなのでしょうか?
「サービス利用者」を私と同じ世代(1968年生まれ)と置き、「HRサービス提供者」を今年30歳になる1996年生まれと置いて、そこに音楽や娯楽を楽しむポータブルテクノロジーの歴史を重ねると以下のような表になります。

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私が音楽と初めて接したのは高校の時、アルバイトして買ったミニコンポでLPレコードからカセットに音楽をダビングしてWALKMANで聴いていました。CDデッキは大学時代に購入。便利になったと思いました。
電話は基本家の黒電話か公衆電話で、会社に入ってポケットベルが支給され始めて個人に直接連絡できるようになり、携帯電話を手にしたのは20代後半。それをスマホに買い替えたのはほんの10年前、40歳を超えてからです。インターネットに接したのは1990年代後半で30歳過ぎ。Yahoo!BBのモデムが街角で配られ、接続料金が従量課金から定額になり、ようやく今の環境(いつでもインターネットを楽しめる環境)になりました。

それがサービス提供者にかわると、彼らは小学校時代から携帯どころかスマートフォンが基本で、インターネットも当たり前に完備、中学時代から連絡は電話を通り越してLINEからのInstagramのDM、初めての音楽視聴はCDどころかサブスクのSpotify、そんなレベルです。私の青春時代とインフラからしてぜんぜん違いますよね。でもこれが現実です。

そして私たちが「(環境の変化に)ついていけねー」と頭で考えながら進めていることも、彼らはこの環境が生まれたときからの基本なので考えなくとも感覚で使いこなせるレベル。「利用者」にあわせてサービスを提供しようと考えても、自分たちの周りの不得意な人に合わせるのが精いっぱい。どのくらいの差や、なぜ利用できないのか「つまづきポイント」自体がわからないのです。悪気がないから余計に厄介なのです。

テクノロジーの先生が「年下」という構造

そしてもうひとつ厄介なのは、利用者が自分たちより若い(ことが多い)世代のHRサービス提供者に「わかってない」と思われることが、あまり面白くない状態だという事。経験の長さが序列を決めている社会に永年慣れ親しんでいる世代にとって、この下剋上は面白くない。

面白くない上に彼らがつかう用語が鼻につく。やれ「SaaSが」「コンバージョンが」、やれ「IMPが」「APIが」と、わからない横文字やウイッシュの人みたいな三文字語には、理解のシャッターがガラガラ下りる心理状態になっているのです。

これではいつまでたっても「乖離」「距離」「溝」は埋まりません。だからこそ「食わず嫌い」の克服がなかなか困難なのです。

お互いの歩み寄りを「支援する存在」が必要

世の中は未曽有の人不足の真っただ中。いまや2社に1社が正社員の人不足を訴えています(下グラフ)。働き方改革の残業規制で、今までの「人海戦術」「100%人手依存」なやり方では全く職場が回りません。2040年には1,100万人の担い手不足がおこると言われています(リクルートworks研究所調べ 未来予測2040より)。就業人口(やとわれて働く人)が6,700万人ほどですから、約2割減の戦力で戦うことを意味しています。

帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」

職場はテクノロジーを入れて省力・省人化を進めようとしています。ただ、どんなHRサービスを導入すればいいか、このシステムが課題解決につながるのか?A社製とB社製の違いはコスト以外に何があるのか?説明を聞いても専門的なことを言われるので、決済者もどう判断していいのかがわからない。
だから前に進まないというのが正直なところではないでしょうか?

これを解決するためには、フラットな立場の「支援する存在」が必要不可欠なのだと思います。そしてこの答えのヒントは家電量販店にありました。

最近の家電量販店には、何を買ったらいいのか?をアドバイスしてくれるコンシュルジュがいます。多くはメーカーのロゴが入った「メーカーの販売員」ですが、中にはそうではない人もいます。

神奈川本社のノジマ電機は「メーカーの販売員」がいない量販店として有名です。相談されればスタッフがフラットに最適な商品や解決策を紹介してくれます。

掃除機を買い替えようと相談した時、まず聞かれたのは「なぜ掃除機を買おうと思ったのか?」「(掃除機が)壊れたわけではなく、ペットアレルギーを解消したいので買い替えたい」と購入背景を伝えると、「買い替える前にペット対応の空気清浄機を導入したほうがいいのではないか!」と、踏み込んでアドバイスをしてくれました。

メーカーのロゴが入ったコンシュルジュはサービスの比較アドバイスをしてくれるものの最終的には背中のロゴのメーカー製商品を推します。
でも彼は特定商品を推すどころか、別の解決手法も提供してきた。信頼できるなあと思ったものです。

デジタルHRサービスに関しても同じだと思います。「サービス利用者」側に立って課題を洗い出し、解決策を提示し、必要なサービスの目利きを行い、導入と自律自走を支援する、そういう「支援する存在」がこの先不可欠になると考えています。

最後に

デジタルHRサービスは言ってみれば「進化した文房具」みたいなものです。
初めはお店のレジのような大きさだった卓上計算機。当初は「大きい」「そろばんの方が計算が早い」などといわれたが、利用者が増えることで小型化し計算速度も速く、四則計算だけでなく様々な計算もできるようになり、いまは存在自体が機能としてスマートフォンに取り込まれ、なくてはならない当たり前の存在になりました。そうなる日も近いのではないでしょうか?

「ガチャン」と紙を機会に入れて印字するタイムカードも、カードをかざせば自動で勤務時間を計算して、法律違反の超過勤務になりそうなら警告までしてくれる便利なシステムに進化しています。
勤怠管理、給与計算、業績管理、のデータからAIが最適な組織図を提案してくれる仕組みや、モチベーションが下がって離職しそうな社員を特定してくれるシステムも、もう世の中に出てきています。

利用者の「食わず嫌い」がなくなれば、サービス提供者も潤い、Win-Winが成立します。デジタルHRサービス提供者はシステム開発にも投資ができ、サービス内容も進化していきます。そうすると利用者側もより使い勝手の良い良質なサービスを享受でき、人不足に悩むことも少なくなります。
「にわとり」「たまご」のどっちが先かの議論ではなく、いかにしてお互いが歩み寄るか?そこには歩み寄りを「支援する存在」が重要な役割を担うのです。

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