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映画カモンカモンの個人的感想

映画館にて『カモンカモン』を鑑賞。

とある平凡な中年男性と9歳の甥の数日間の共同生活を描いたシンプルなストーリーの作品である。そのシンプルさは画面構成にも表れており、全編が白黒で撮影されている。

“怪優”ホアキンフェニックス

今回ホアキンが演じた役どころは、平凡な独身のラジオパーソナリティである。そこに私は少し驚いた。これまでイエスキリストから皇太子コモドゥス、ジョーカーまで多様で個性的なキャラクターを何でも演じきってきたカメレオン俳優だけに、今回のような『狂気』を全く覗かせない演技の彼は近年では新鮮に感じた。誰もが共感しやすい役どころを演じ、自分を出しすぎず、9歳の甥っ子役の子役ウディ・ノーマンの魅力を引き出す為に非常にバランスのとれた演技をしていたように思う。いつもいつも“怪演”を披露するだけではないのである。ホアキンの真の演技力の高さを観たような気がした。

作中に描かれるリアルな人間関係

前述したとおり本作は感情移入がしやすい作品である。これは俳優達の演技に加えて、登場人物達すべての、非常にリアルな人間模様にあると思う。
これは私に妹がいるからかもしれないが、兄妹の関係性というのは幼い頃はとても仲が良くても、数十年と年月を重ねると互いに心に溝や、ある種の気まずさが生まれるものだ。作中のホアキン演じるポールとその妹も、全ては語られないが過去に様々な物語があり、結果なんとも言えない微妙な距離感を埋められないまま話が進んでいく。
またジョニーの義弟ポールの偏執病の描写についても同様である。作中では"paranoia"と表現されていたが彼のメンタルヘルスにある問題も、その台詞から行動までとても現実にあり得る表現になっていると感じた。また終始ドラマチックな展開が無い、ある意味静かな日常を描いたストーリーである。いわゆるお涙頂戴な展開や演出にできなくなかっただろうが、そこを避けているところが逆に、観客である自分自身の実際に今おかれた状況とリンクさせる事ができ、自然な感動が生まれたと思う。そういった面で、監督マイクミルズは非常に真剣にこの作品に向き合って製作しているように感じた。

インタビューを受ける子供達について

また、本編の合間に子供達にインタビューする映像が挟まっているが、彼らが実に鋭い意見を連発している。
日本の子供達はこんなにはっきりと自分の意見を言えるだろうか。自分が彼らくらいの年齢だったら、まずこのインタビューがのちに全国で公開され、クラスメイトが見るであろうところまで考えるだろう。そして、いかに友達から茶化されず、マジになっていない風に答えられるかを考え、本心などは絶対に出さずに答えていたかもしれない。令和の日本の子供達は違うだろうか。

人との関わりについて考えさせられる

甥っ子役のウディ・ノーマンの演技力が素晴らしいことは言うまでもない。そんな彼とホアキンの会話で特に心に残っているシーンがある。
甥っ子が
“この数日の事は忘れないよ。”
と言った後、叔父のホアキンが
“大人になってしまったらほとんどを忘れるだろう。どこかに行ったなということしか覚えていないよ。”
と何でもないことのように返すシーンだ。
このシーンを観て、私はこれまで生きてきて幾つの思い出や、人生の重要な鍵となるような言葉を誰かから聞いていたにもかかわらず最初からなかったかのように忘れてしまっただろうかと考えた。日常を生きていていつそんな大事な場面に出くわすかは分からない。日々、忙しさを理由に周囲の人々との関わりをないがしろにしないように生きていきたいと思った。












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