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コワーキングツアー Vol.22 〜まちと自分を再編集する旅、新潟編〜

去る6月24日〜30日の7日間、久しぶりのコワーキングツアーで新潟におじゃましてきたので、そのことをツラツラと記しておきます。(と言いながら、14,500字を超えてしまった。すみません、お時間ある時にどうぞ)


コワーキングツアーとは

コワーキングツアーとは、全国のコワーキングを訪ねてつながりを持つカツドウで、2016年からはじめて、これまでに115ヶ所を訪問している。(で、今回で、120ヶ所になった)

原則、現地集合・現地解散、途中参加・途中離脱OK。行った先で仕事もするけれど、人と会ってつながり、コワーキング同士もつながり、お互い自分のコミュニティを広げる。それが目的。

一応、スケジュールは決まっているけれども、参加者の行動を縛るものでない。「途中参加・途中離脱OK」を原則に移動の途中で、例えば「あ、ついでにあそこに行ってみたい」「興味があるからこっち、ちょっと行ってくる」とコースから離脱しても全然構わないし、そこからまた帰ってきて再合流してもOK。

あるいは、当初の予定と違う情報が入って、皆が「いいね」となれば、そっちに変更することもあるかもしれない。予定取りにスケジュールをこなすことに汲々とせず、流れに乗って行動する。そういう「余白」を持つこともまた、リモートワーカーにとっては大切な行動様式だし。

そもそもリモートワーカーは自律的に動かないといけないし、そうすることで自分の領域を広げられる。ツアーはあくまでその下敷きであって、その上にどんな絵を描こうが参加者の自由。この「自由である」ということを忘れないようにしたいと思っている。

要するに、各自が自発的に行動する旅とコワーキング、つまり「移働」のイベントだ。居場所を変えて、自分を再編集する機会とするという意味で、誰かに指示されて移動し、ただ消費するだけのワーケーションとは違う体験になるはず。

あ、ここまでですでに770字を超えてしまった。。

今回の新潟編では、5軒のコワーキングに加えて、以前から訪れてみたかったところとイベントをあいだに挟んで進行した。では、参ります。

しごと・まなび場 with ブックカフェ「風舟」(阿賀町)

24日、最初の訪問先は、NPO法人かわみなとさんが運営する、阿賀町の「風舟」さんへ。ちなみに、神戸からここまで7時間かかった(日本、広い!)。

ここは以前、物産展などを開催していた建物をリノベーションして開設されたんだそうで、ウッディな佇まいでリラックスできる。ブックカフェとコワーキングが合体したスタイルで、2階の本棚とテーブル、1階の小上がりスペースがとてもいいアクセントになっている。

「本とコワーキング」をテーマとしているぼくとしては、本というものをコミュニティの媒介役として活用しているコワーキングが日本中で生まれていることに注目しているけれど、その方法論もまちまちで、それぞれにお手本になるところがある。ここもその一つと考えてアポを取らせていただいた。

例えば、地域の人たちがそれぞれ本を持ち寄って開催する「一箱古本市」も開催しているが、ただ本を売買するだけではなく、タロット占いやコースターの焼き印ワークショップ、手作りお菓子やレモネードの販売など、参加者が共にイベントを作り、また楽しめるメニューが盛り込まれている。つまり、「共創」だ。

で、注目すべきはそこで活躍しているのが高校生だということ。会場のステージ設営やあるいは撤収、カフェのサポートなどに、地元高校生が率先して協力している

そういえば、ここは高校生の出入りがやたらと多い。

実は、阿賀町では「阿賀黎明高校魅力化プロジェクト」の一環として、「阿賀黎明高校に通う高校生のために、阿賀町教育委員会の支援を受けて運営している公営塾」として「黎明学舎」が設立されている。

「阿賀黎明高校魅力化プロジェクト」は、生徒数が減少することで高校が廃校となり、ひいては人口減が加速することに危機感を抱いた町教育委員会が2016年に起ち上げた。

その後、「黎明学舎」を設置し、2021年には温泉の宿泊施設を改修した学生寮「緑泉寮」を開設、同時に教育留学制度も開始している。次いで、2022年にオープンしたのがここ、「しごと・まなび場withブックカフェ風舟(かざふね)」さんだ。

つまり、阿賀町では高校生と地域住民、旅行者との結節点をつくり、学校以外でも高校生の学びや暮らしをサポートしている。従って、「風舟」さんを語る上でのキーワードも「教育」といえる。

よく見ると、「風舟」さんでは過去2回、『「学校じゃない教育」への関わり方  ~高校魅力化の現場から~』というテーマでオンラインイベントを開催している。

これは、教育現場の抱える課題の共有から、トークセッションやディスカッションを経て、参加者が相互に理解を深め、教育の関係人口を増やす取り組みの一環とされている。

今回、7月8〜9日に、今度はリアルに相まみえて阿賀町内の現地ツアーが開催される(ちょうどこれを書いている今日)。

聞けば、愛媛や富山の高校で同様の「魅力化」に取り組んでいる方々も参加されるらしい。どのローカルでも課題は同じ。遠路はるばるやってきて、解決に取り組む人同士がつながる意義は大きいと思う。

ちなみに阿賀町でも地域おこし協力隊が活動しているが、特に教育関係の募集が多く、公営塾5人、高校寮5人の計10人が教育分野で活動している。ローカルの持つ課題を明確に示してピンポイントで募集するところに本気度を感じる。

小川さん、有難うございました!

なお、NPO法人かわみなとさんはワーケーション推進事業のモデル実証事業にも取り組んでおり、「教育」の次に「農業」をテーマに取り上げる予定らしい。「農」はツアーで各地のコワーキングを回っていると必ず出てくる話題だが、これもまた、日本中のローカルの共通課題だ。

いろいろお話を伺って、帰りに向かいの保養所施設で温泉に浸かってきた。肌がスベスベ、ツルツルになり、7時間の移動の疲れもほぐれて宿に向かった。

パクチーハウス十日町(ちいさな洋食屋 イル カトラ グリル)(十日町)

翌25日は、コワーキングではなく、十日町で開催される「パクチーハウス十日町」に参加した。

パクチーハウスと聞いてピンと来た人もいると思うが、東京世田谷で世界初のパクチー専門料理店である「パクチーハウス東京」をオープンして日本にパクチーブームを引き起こした佐谷さんは、実は東京で最初にコワーキングを開設した人でもある。ぼくと同じ2010年で、それ以来の盟友だ。

左が佐谷さん、右はイベント主催者のBabさん

その佐谷さんは、数年前に「パクチーハウス東京」をクローズし、「次のこと」として全国各地でパクチー料理の数々を振る舞うイベントを開催している。いわば、無店舗展開、いや、間借り展開か、ま、どっちでもいいけれど、どこであろうが料理を供して人をつなぐという、その自由な発想がいい。(コワーキングも人をつなぐところだからね)

で、ぼくも久しぶりに彼の料理を楽しんだが、もう、何もかもめちゃくちゃ美味い。パクチーの根っこの素揚げ、これがまたイケる。

ここで、ツアー参加の池田さんと荒木さんが合流。池田さんとは記事制作の仕事で過去に何度もご一緒しているが、リアルで会うのはこれまた久しぶり。荒木さんとは5月に尾道のONOMICHISHAREでご一緒して以来。しかし、オモシロイね、こうして新潟で会うなんて。

ギルドハウス十日町(十日町)

その晩は、同じ十日町の「ギルドハウス十日町」に宿泊。

ここは築100年以上の古民家をリノベーションして開設、全国からこれまでに延べ9,400人以上が訪問したという住み開きの施設。宿泊施設ではなく、あくまでここのギルドマスターである西村治久さんの自宅。それを、「住みたい」と希望する人に「開いて」いる。ちなみに、ぼくは9427人目の訪問者だそうだ。

西村さんは、17年勤めたサラリーマンを辞めて日本放浪の旅に出て各地のコワーキングを訪れている途中、2012年にカフーツにも寄っていただき、「新潟から全国をつなぐ旅のなか 自分で考えて行動へ」と題してプレゼンしていただいた。(懐かしい!)

その後、2013年11月に高松で開催された「四国コワーキングフォーラム」にも一緒に参加したいわば旧友。なのに、それ以来、リアルにお会いしてなかった!

その西村さんってどんな人か、あんまりオモシロイので書き出したら日が暮れるなぁ、と思ってたら、タイミングよく、彼のインタビュー動画が公開された。もう、これを観てもらったほうが速い。

はい、観ました?どれだけオモシロイ人か判ったでしょ?

こうして各地から自分の行く道を模索している人たちがワラワラとやってきては、しばらく滞在し、そしてまた旅立っていく。いわば、そのとまり木として、しかし、場所ではない精神的な拠り所としてギルドハウス十日町はある。

この日は久しぶりに会って、これまでのこと、これからのこと、いろいろ積もる話をしつつ、これまた食べて飲んで楽しい時間を過ごした。しかし、50歳を超えて就職するとは本人も思いもしなかったらしい。彼はそっち(会社のほう)を複業と言ってるけれども。

ところで、今、西村さんはカブ(ホンダのバイク)にハマってるらしく、その行動範囲が飛躍的に広がってる模様。その愛車がいかに自分の生活にマッチしているかを自慢そうに、あ、いや、詳細に解説いただいた。勉強になった。

西村さん、有難うございました!

さて、荒木さんは急用ができたのでここでご帰還。お忙しいところ参加いただき有難うございました。

asto|シェアオフィス&アーティストインレジデンス (十日町)

翌26日は、同じ十日町にあるastoさんへ。ギルドハウスの住人の石井さんがクルマで送ってくれた。有り難い。

入口でウロウロしてたら、上からメンバーさんが顔を出して対応してくれた。こういう、黙っててもメンバーが動く、ということができてるコワーキングは間違いない。

astoさんは、アーティストやクラフト作家、フリーランス、起業家など、「何かをつくり出したい人」が集まる場所として、そして「共創」の場として、創業107年の企業が倉庫と社員寮をリノベーションして2018年にオープンした。現在の代表である滝沢梢さんは4代目になる。

実はastoさんの起ち上げに際しては、前出ギルドハウス十日町の住人であった方が関わった経緯があるんだそう。こうして地域内でニーズを共有し、実現のために協力し合う人間関係ができている点は大いに参考にすべきだと思う。

ものづくりの拠点としては、コワーキングスペースの提供だけにとどまらず、アートグッズの制作や展示会の企画などもサポートするなど、コワーカーへもしっかりコミットされている。

また、astoさんは「にいがた創業支援プラットフォーム」に登録されている9ヶ所の創業支援相談拠点の一つとして、新潟県のスタートアップ支援・起業創業支援・事業開発支援にも取り組んでいる。(ちなみに、さっき書き忘れたがギルドハウス十日町の西村さんは、起業家育成のプログラム「Startup Weekend Niigata」のファシリテーター&オーガナイザーでもある)

これには、業務効率化や販売促進の他、資金調達のための補助金・助成金の申請やクラウドファンディングの実施まで含まれる。しかも、十日町市に限らず、魚沼・上越・下越エリア、および新潟県で事業を興したい県外在住者へのサポートも行っているというから心強い。

さらに、astoさんは人材募集、育成、派遣を行う事業協同組合の設立にも関わっている。

曰く、

組合として労働者を正規雇用することで、通年で安定した労働環境を確保。繁閑期や季節ごとに複数の企業へ人材を派遣することで、地域の人手不足を緩和させるだけではなく、労働者にとっても自分に合った企業を見つける機会をつくっています。

労働環境を整備し、人材を確保することは、まちづくりにも直結する。その根幹部分でコワーキングが役割を担っていると言っていいと思う。そのために、事業協同組合という組織形態を取ったところはなるほどと思った。

ややもすると、(特に都市圏のコワーキングしか知らない人は)コワーキングをただの作業場だと思いがちだが(まあ、そう言われても仕方ないスペースもあるが)、そもそもコワーキングとは人と人をつないでコトを起こし、新しい価値を生むための仕組みのことだから、まちづくりの文脈においても大いに活用すべきだ。

ちなみに、ぼくが代表を務めているコワーキング協同組合も、組合法上、事業協同組合に分類される。

ただ、ここに属する組合員は、コワーキングという働き方をするワーカーと、そのワーカーをサポートする立場であるコワーキングスペースの主宰運営者であって、各自が自分の事業、仕事、ビジネスを持って活動しているので、事業者の共同体と言ったほうが正しい。その意味では、同じ事業協同組合でもTOMOWORKさんとは目的を異にする。

前列左から石井さん、滝沢さん、池田さん、後列左が伊藤、右が佐谷さん
滝沢さん、石井さん、有難うございました!

さて、ここで一行は二手に別れて行動することに。オンラインの打ち合わせがある池田さんは、しばらくastoさんに残って仕事。ぼくと佐谷さんは先に十日町から直江津へ移動し、フェリーで佐渡へ渡った。

やっと来ました、佐渡ヶ島

夕刻に小木港に到着し、すぐ宿に移動。ここは元々、明治の文豪 尾崎紅葉が『金色夜叉』執筆の最中に逗留した宿として有名な旅館だったが(読んでないけど)、数年前に廃業。それを東京から移住してきて10数年経った代表がリノベーションしてゲストハウスにしたらしい。

移住者がローカルに変化を起こす、という町おこしのよくあるパターンかと思ったが、宿から歩いていける温泉に行く途中に立ち寄った酒屋のお母さんに話を聞くと、「うーん、どうなんだろうねぇ?」とちょっと微妙な反応だった。

まあ、地元の人はネイティブなだけにいろんな感情が沸き起こるのは当然だ。ぼくはローカルの住民と話すのが好きだけど、自治体や業者は地方創生の文脈で町おこしを熱く語る一方で、地域住民のこういう本音がポロッと漏れる場面にはどこででも遭遇する。

お母さんに「こっから歩いて温泉行くの?帰りには、また汗かくよ」と送り出されて、湯に浸かってきた。サウナもあるというので、別にサウナーでもないが10分間我慢してきた。帰りにはやっぱり汗かいた。

その夜、宿にオススメされた居酒屋さんで佐谷さんと一献傾けた。ここが当たりだった。

聞けば、佐渡ヶ島も南の方は、昔の北前船の交易の歴史もあり、言葉遣いといい食べ物の味といい、関西と相通ずるものがあるんだそうで、そういえば、隣のおじさんや後ろの小上がりの家族連れも関西弁に似ている。

途端に親近感が湧いたのは言うまでもない。馴れ馴れしく話しかけても(←関西人特有、ご容赦あれ)、違和感なく受け答えしてくれる。旅先でリラックスできる瞬間だ。

宿に帰ってからも、1階で勝手にテーブルを設えて、遅くまで佐谷さんと話した。今日もまた、よく食べよく飲んだ。

さて、明日は個人的には今回のツアーのメインイベントだ。

佐渡国小木民俗博物館(佐渡市)

27日の朝、いったん別行動した池田さんと、長野県から途中参加で馳せ参じた江原さんが同じフェリーで小木港に到着、併せて、アテンド役を買って出てくれてくれた佐渡在住の兼平さんとも合流した。

兼平さんはもと東京の人だが、ぼくらが日本でコワーキングをはじめた2010年頃からの友人で、数年前に親御さんの里である佐渡に移住した。なので、コワーキングについての知見もあり、かつ、佐渡の地理、情勢にも詳しい、まさに鬼に金棒の助っ人。

江原さんは、長野県佐久市のコワーキング「ワークテラス佐久」の運営者として起ち上げからコミュニティづくりに携わり、スペースと並行して地元の農家とコラボしてコミュニティ農園をはじめ、その後米作りにも手を染め、その会員も80名近くの規模にまで成長させた当事者。ツアーには何年も前からちょいちょい参加してもらっている。

この5人でまず訪れたのがここ。我が敬愛する宮本常一氏がその開設に尽力した民族博物館、ここを訪れるのがぼくの佐渡に来た目的の一つだった。

民俗学の世界では、独特のアプローチと表現で名を馳せる宮本氏の仕事に、個人的には大きなシンパシーを感じていて、このコワーキングツアーも、全国各地を歩き通した彼の軌跡を辿ることにもなるかも、と思いはじめている。

今回、旅の道連れに持ってきたのはこの本。宮本氏自身の著作は山のようにあるが、これはそのカツドウの履歴を概覧できるものとしてとても参考になる。

佐渡には以前から行きたいと思っていたが、なぜかタイミングが合わなかった。そんな中、愛読している氏の本に、何度も佐渡ヶ島が出てくる。彼は日本中の島に上陸して歩き回っているが、その中でも佐渡ヶ島が一番多かったそうだ。

今回、まさに「知の巨人」と言われる宮本氏の片鱗に触れるいい機会となったのは言うまでもない。で、考えた。

ぼくが2010年から運営者でもあり、コワーカーでもある立場としてコワーキングに関わるようになって、ここ数年、都市圏ではなく、むしろローカル(地方)にこそあるべき仕組みとして、そのローカルでコワーキングを説く機会が多くなってきている。もちろん、それは自分が望んでいることでもある。

ローカルにはローカルのカルチャーがあり、社会がある。それを基盤もしくは背景にして、人と人をつなぐスキームとしてのコワーキングが地方には必要。

その意味では、宮本氏が各地の農村を巡って農業指導する傍ら、そのローカルに根付いたカルチャーを後世に伝えたことと、ぼくの中では絶妙にシンクロしている。

もちろん規模といい質といいまるで比べ物にはならないけれども、いずれこれをカタチにして世に問いたいと思っていて、実はその目的に役立つ情報を得るための訪問先もこのツアーに組み込んでいる(後述のSANJO PUBLISHING)。

民族博物館では、実物大の北前船にまず圧倒された。船大工と宮大工の技術の粋がここに結集されているといえ、よくもまあ、こんな巨大な舟を木造で、しかもほとんど釘を使わずに建造したものだ。しばし、呆然。

舟の中にも入ってあちこち見たが、これが日本海を行き来していたのかと思うと、人間ってすごいなぁと極めてシンプルな感想が口をつく。

そこから、かつては小学校だった館内に所狭しと所蔵されたいわゆる「民具」を見て回った。その展示数に圧倒されながらも、かつての人々の生活シーンが匂い立ってくるようで、「モノ」の持つ磁力のようなものを感じた。

途中、この額が飾られていた。

「心を起こそうと思わば まず身を起こせ」(宮本常一)

今回のツアーのタイトルを「自分を再編集する」としたが、まさにそのことだと思った。この写真の右の人が、その宮本常一氏。

さて、博物館を後にして、次に宿根木の街歩きへと向かった。古い町並みを市民の協力で保存されていて、自由に散歩できる。これがまた、郷愁を誘う。

古いものを壊して新しくするのではなく、いかにして保存するかに知恵を絞り、行動するのも大事だと思う。こんなこともできるし。

上から見るとこんな感じ。

さて、このあと強烈に美味しい海鮮丼をいただいて、いったんチェックイン。その後、向かったのは、お決まりのコースだが、佐渡金山。北沢選鉱場跡を見た後、江戸時代の初期に開削された手掘り坑道にも入ってみた。

ここでもまた、人間ってすごいなぁ、と嘆息することしきり。ずっと感心している。

さて、このあと、チェックインしたperchさんに戻った。

HOSTEL perch (佐渡市)

ここは築約70年の古旅館をリノベーションして2018年7月にオープンしたゲストハウスだが、併設のサウナが評判を呼んでいる(と聞いて楽しみにしてたけれど、あいにく火曜日はお休みだった (泣))。「サウナX宿泊」があり、そこに「仕事」そして「コワーキング」がうまく絡んでるところは、ローカルコワーキングにとって理想的。

代表の伊藤さん(ぼくじゃないよ)は、かつて東京で寿司職人として働いた後、2003年にUターンし、外貨を稼ぐためには宿泊だ、と考えて開業された。

2階にコワーキングがあり、宿泊者は無料で使える。オモシロイのは「サウナ & コワーキング」の場合で、通常1,500円+900円が2,000円に割引される(サウナは1時間半)。ひと仕事片付けた後に整いたい人にはウレシイ。

伊藤さんは、コロナ禍真っ最中の2020年4月ごろ、宿泊だけではない何か付加価値のあるものが必要と考えサウナを導入したんだそうだが、それは利用料金だけではビジネスとしてはなかなか厳しいコワーキングに合わせることでも有効であることは間違いない。要は、組み合わせだ。

ところで、この4月から佐渡市では、親子世代の関係人口拡大と移住促進を目的として、親子ワーケーションを推進すべく、保育園留学をスタートした。

保育園からクルマで5分ほどのところにある3DKの一軒家に、1〜2週間、家族で滞在し、子どもには心身ともにのびのび育つ環境を提供するとしている。

また佐渡市では、農村ワーキングホリデーの受入れもしているんだそうで、perchさんにもドイツからやって来た若者3人が滞在していた。

こうした、外からの来訪者を迎え入れる機会が多くなってきたことを受けて、伊藤さんはperchを、普段の生活とのあいだに良くも悪くも生じるギャップを埋めるための、「町のエントランスにしたい」と言う。そして、いずれそれが着地点になることも構想しているとも。

左が伊藤さん。有難うございました!

「エントランス」という発想には大いに共感する。そして、そこにコワーキングが、単なる添え物ではなく、地元のコミュニティとの接合のための必要不可欠な機能としてあることが望ましい。

さて、この日も兼平さんのアテンドでperchに近い焼き鳥屋さんで美味しいものをいただいた。(こんな写真ばっかり上げてると顰蹙買うかもしれないが、一応旅の記録として一部だけアップしておく)

佐渡は魚も肉も野菜もフルーツもみんな美味い。というか、このあとあらためて思い知るのだが、新潟は何でも美味い。とりわけ、米の旨さは図抜けている。ずるいと思う。

明日は、両津港から9:15のフェリーに乗って新潟に渡る。池田さんは、またしてもオンライン打ち合わせで、別の便で後から新潟へ。仕事をしながら移動するから、そこは自由に。

Sea Point NIIGATA シーポイント ニイガタ(新潟市)

さて、28日、新潟港からクルマで10分ほど、眼の前がビーチという絶好のロケーションにあるコワーキングがここ。というか、海の家にコワーキングやカフェが併設されている、という方が正しいかも。

ここを運営する鈴木さんは、元々、東京の金融関係の企業に勤めていたが、交流をメインテーマにした海の家で地方活性化に貢献したいという想いでUターンし開業した。

鈴木さんはUターン前に、関東圏の何ヶ所かのコワーキングで運営のノウハウを学ぶために、いわゆる押しかけインターンも経験している。もちろん、無償。まさに実践派。で、佐谷さんが運営していた世田谷のPAXCoworkingもそのひとつで、今回、久しぶりの再会だった。(人が再会する、というシーンはいいですよね)

ここで、「あ、やっぱり」と感心したのは、到着した我々がキョロキョロしてたら、スタッフではない、「Sea Point NIIGATA」さんのメンバーさんが「あ、あのね」とエスコートしてくれたことだ。

いつも言うことだけれど、コワーキングはそこを利用するコワーカーが自主的にその環境を維持することに加勢(協力)するようになるのが理想。自分はお客さんではなく、このコミュニティの一員だという意識が芽生え、その意識を共有する者が共同体を成すことで、より健全なコワーキングが実現する。その一端が、こうした不慣れな外来者に対する応接に現れる。自然に。

とか思ってたら、今日、我々が来るということをシェアしてくださった方がいて、それに反応して参加してくれた方が3人もおられた。これはウレシカッた。

しかも、そのうち一人は、昨年、コワーキング協同組合の受託案件を手伝ってもらったエンジニアさんで、オンラインでは話していたけれどリアルで会うのはこれがはじめて。まさか、その人が来てくれるとは全然知らなかった。このフットワークの軽さが、「Sea Point NIIGATA」さんのユーザー層を間接的に物語っていると思う。

前列左からつるまきさん、鈴木さん、卯田さん、後列左から佐谷さん、江原さん、伊藤
鈴木さん、つるまきさん、卯田さん、有難うございました!

海の家にコワーキングをミックスするというのは、なかなか魅力的なアイデアだ。まず、その環境。眼の前に広がる海がいやが上にも開放感を煽る。

シャワーもロッカーもあり、SUPも貸してくれる。カフェもあるから食事もできるし、手ぶらでBBQもできる。ランチ付ドロップイン1日利用というメニューもあって、ぼくらはこれをいただいた。こういうセットメニューがコワーキングの収益性にプラスとなる。

カフェスペースは貸し切りでセミナーやイベントに利用できる。2階には、プレミアムメンバーのための専用フロアもある。もう、何でもありだ。ちなみに、学生は学習、ミーティングに限り利用無料だ。ウレシイね。こうなってくると、宿泊も、と考えるが、それはまだ白紙らしい。

なお、1月~4月中旬は冬季休業する。ま、海の家だから当然といえば当然かも。そういえば、随分前に、(神戸の)須磨の海の家でもコワーキングやろうか、という話があったのを思い出したが、あれはどうなったんだろう。

ここで、佐谷さんは東京へご帰還。この夜、また別のイベントに参加するらしい。まったく忙しい人です。で、我々3人は鈴木さんにご紹介いただいたお店で、またしても美味しいものをいただいた。これもその一部を記録として上げておこう。

まあ、しかし、なんでもホントに美味い。

さて、翌日は、ぼくが目下の目標としている「本とコワーキング」を実践するためのお手本になると思ってアポを取ったところへ。

SANJOPUBLISHING (三条市)

「まちを編集する本屋さん」、このコピーにはシビれた。今回、このツアーのサブタイトルを「まちと自分を再編集する旅、新潟編」としたのは、このコピーに触発されている。

ここを運営している水澤さんとも4年ぶりぐらいの再会だ。それは、コワーキングツアーVol.17で沖縄に行ったとき、当時、水澤さんが那覇で運営されていたコワーキング「おきなわダイアログ」でのこと。その後、「おきなわダイアログ」がビルの老朽化でクローズとなり、水澤さんは新潟にUターンした。

Uターンされてから、ここ三条の商店街の中で拠点を設け、書店と出版を軸にカツドウしている。

そのスローガンが奮ってる。

『SANJO PUBLISHING』は、“編集するまち” をコンセプトに、
ものづくりのまちに必要な力、 知識を得ること、想像すること、
問いを立てること、 アイデアを出すこと、自分でつくること、
改善すること、鍛錬すること、続けること、を育むことができる、
三条という地域ならではの本屋さんをつくりたいと思います。

この、ものづくりを前提に本屋さんを作り、地元に価値を生むことを目的としているというコンセプトは注目に値するし、ぼくとしては大いに共感する。

水澤さんと話してて「あー、わかる」と思ったのは、「講演に呼ばれてお話するんですけど、なんだか虚しい気持ちになるんですよね。こちらがどれだけ長い時間をかけて準備して話しても、聴衆の皆さんには果たしてどれほどのものが残るのだろうか、と」というところ。

それよりも、同じ時間がかかっても、ちゃんと残るもののほうが意義があるんじゃないか、だから、「アーカイブという意味で、紙にはまだまだ可能性がある」と水澤さんは言う。「本のほうが残りやすいという感覚値があるからやってみようかなと。まあ、実験ですね」と。

ネットの進化、とりわけSNSの浸透によって誰もが自由に発信できるようになった。それはそれで良かったけれども、一方でそれが行き過ぎて、たいして価値のない情報が溢れかえって溺れかかっているのも事実だ。結果、ほとんど残らない。

価値があるかどうかは送り手と受け手の価値観が一致しないと判らない。ただ、ネット上で無料で大量生産されているものに価値を感じることは、もうあまりなくなっているのではないか、と思う。これはウェブメディアに関わる身であることも踏まえて、そう思う。

そこは、だから、手作りでいいから手元に残るものをきちんと値段をつけて世に送り出す、その価値があると判断した人がそれを買う、そういう当たり前の営為が、小さなスケールで構わないから復活するのがいいと思う。そのひとつの方法論として本という選択肢がある。

ぼくは今、コワーキングを軸にリモートワークをテーマにしたマガジンの発刊を計画している。そのことはこちらにも書いてるが、

その趣旨は、

コワーキングを中核に置きつつも、もっと視野を広げて、いまどきのワークスタイルとしての「リモートワーク」を軸に、「コワーキング曼荼羅」の8つのテーマを深掘りしつつ、これからの働き方=生き方を共に考え行動することをテーマにしたマガジンを発刊する

というもの。コワーキング曼荼羅についてはこちらを。

三条市という町はものづくりでつとに有名だが、本もものづくりのひとつだ。現代ではそう大きな設備投資がなくても、チームを組んでいわば分業化することで紙に印刷したものは世に出せる、つまり出版できる時代になった。ここ数年、「ひとり出版社」が各地で起ち上がっているのはその証左だ。

その本を作るというプロジェクトをチームで実行する際、コワーキングのスキームが発動される。ま、考えれば本に限らない、モノでもサービスでも、何にせよ、コワーキングの考え方でコトは進められる、そういう時代だ。

「チームでやる、というのが醍醐味でもある。それは楽しいことだし、楽しくなければ仕事じゃない。それが手に取る人に伝播できる、という面白みとしてはあるかな、と思う」。判る。

皆で作る、共創する楽しみを共有できる、まさにコワーキングの理念に一致する話だが、ぼくがいま構想している年4回発行のマガジン(的なもの)は、このプロジェクトに共感してくれる各地のコワーカー、クリエイター、ライター、etc.に参加してもらおうと思っている。

水澤さんの話でいろいろ再確認することができた。来た甲斐があったというものだ。そろそろ、創刊号の企画内容を詰めていこう。

ところで、「SANJO PUBLISHING」さんではZINEの制作発行にも力を入れている。いわゆるリトルマガジンとも言うらしいが、リソグラフという印刷機で印刷してホチキスで留める手作りの数ページの小冊子風出版物のこと。この写真の左側にあるのがそれ(たぶん)。

で、そのリソグラフは3階にデンとある。実はぼくも、「本とコワーキング」カツドウのひとつとして、ゆくゆくは個人がZINEを制作することをサポートしたいと思っている。個人がブログでネット配信するように、紙のZINEを手作りで出していく。そういうリアル感のあるカツドウを支援したい(し、自分もしたい)。

ちなみに、この3階でいずれコワーキングを開設するプランもあるそうで、それまた楽しみだ。

なお、この7月28日に、水澤さんが企画から、執筆、編集その他すべてを担当した本が出版される。そんな着実に歩を進めている姿に刺激を受けたことは言うまでもない。

左から江原さん、町田さん、水澤さん、伊藤
水澤さん、町田さん、有難うございました!

ということで、ここで江原さんは離脱して佐久へとお帰り。おつかれさまでした〜。入れ替わりに池田さんと燕駅で再合流し、明日はいよいよ今回のツアーの最終地へ。

ゆるり屋 (長岡市)

長岡駅のほど近いところの一軒家に、2022年 4月5日に開設されたコワーキングがここ。

一軒家というと、最近古民家をリノベーションしたコワーキングが各地にできているが、ここはそうではない。比較的新しい普通の一軒家で1階はオープンスペース、2階には個室とミーティングルームが用意されている。

こういう、あまりビジネスライクでないアットファミリーな設えも、利用者によっては好感されるけれど、長岡駅から近いこともあって、会社員の方が出張時に利用されることが多く、70〜80%が会社員らしい。

運営されている村山さんは、もともと旅行業界で長年仕事していたが、早期退職の制度を利用してUターンされたんだそう。

と、ここで実に興味深い話を聞いた。

村山さんはいま長岡市の委託を受けて、8月の花火大会に海外からの200人のインバウンド受け入れのサポートをされている。旅行業界での経験がここへ来て大いに活かされている格好だ。正直、大勢の外国人に対応するのに地元自治体では手に余るはずで、そこに専門家がサポートに入ったカタチ。実にいいポジション。

ぼくは、かねがねローカルのコワーキングがワーケーションを企画して、地元の観光協会なり、自治体なりに提案し、コラボを組んで実行することで、コワーキングの収益モデルの一つにすることを提案しているが、まさにそれを長岡名物の花火大会というコンテンツにおいて(市からの委託というカタチにせよ)実践されている。スバラシイ。

これを成功事例として、以後、デジタルノマドを含むリモートワーカーの受け入れ態勢を整えて、内外からのワーケーションのパートナーとしてゆるり屋さんが役割を担うようになることを(勝手に)期待している。

もうひとつ記録しておきたいことがある。ゆるり屋さんの1階では、不登校のこども達とその保護者、支援者のためのイベントが月に2~3回開催されている。

これは、生きづらさを感じている人やその家族の居場所づくりと、不登校や行きしぶりの家族交流会や相談支援を行っている団体「トモニ―ながおか」とのコラボによるもの。こうした課題も全国いたるところであるわけで、そこにコワーキングが役立てられているのは喜ばしい。

ちなみに、保護猫も飼っておられて、ぼくらが行った時もお目にかかった。猫てのは気ままでいいですね。

左から伊藤、村山さん、池田さん

ここで池田さんは一足先にお帰りになり、ぼくも少し後の便で新神戸へ向かった。帰りは4時間47分だった。

ということで、「コワーキングツアー Vol.22 〜まちと自分を再編集する旅、新潟編〜」、これにてつつがなく終了と相成りました。

してみるに、どこにおじゃましてお話を伺っても、必ずコワーキング曼荼羅の8つのテーマのどれかにピタッとハマる。もちろん、皆さん、そんなことはご存知ない。けれども、ローカルでコワーキングを運営するということは、これらのテーマが自然に関わることになるということ。そのことをあらためて思った。

しつこいけれど、また貼っておこう。

ご参加いただいた皆さん、おじゃましたコワーキングの皆さん、たまたま居合わせたコワーカーの皆さん、誠に有難うございました。

また、有給を取ってまで佐渡でアテンドいただいた兼平さん、あらためてお礼申し上げます。有難うございました。

次回はどこへ参るか、候補はありますが、詳細は決まっておりません。決まり次第、告知しますので、ぜひご参加ください。

よろしくお願いします!

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