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デザインアワード受賞も!売り場の実証実験にこめた未来への想い


〜量り売り堂〜

少しでも環境負荷を減らすため、花王が最初のつめかえ用製品を発売したのは1991年のこと。そして2021年、私たちはウエルシア様と協働で洗剤・柔軟剤の“中身だけ”を購入できるスポット「量り売り堂」の実証実験を行いました。利用者の心理的ハードルを下げる工夫や、親しみやすいグラフィック表現への評価は高く、複数のアワードも受賞しています。
今回はその中心メンバーとして活躍した2人に、プロジェクトにこめた想いを語ってもらいました。

「量り売り堂」専用ボトル

まるで昔からあったみたい。町に、くらしに、すっとなじむ仕掛けを

志村:この取り組みは、プラスチック資源を削減する第一歩として、株式会社ウエルシア様と花王のハイジーン&リビングケア事業部門(F&HC)が協働で行ったものでした。

畠山:海外を見ると、このような取り組みは多く行われていて「ゼロ・ウェイスト」「レフィルステーション(Refill Station)」「SDGs」「サステナビリティ(Sustainability)」といった言葉がよく使われています。でも、こうした言葉を聞くと、あたかも海外からやってきた新しい文化のように聞こえるんですが、実は日本では昔から、「量り売り」やお酒の「通徳利(かよいどっくり)」のような文化があって、もともと親しまれてきたものでした。このプロジェクトに関わった当初、チームでは、そんな日本がもっていた文化を大切にして、海外風のテイストに引っ張られすぎることのないようにしようとチームで話し合いました。レフィルステーションやサステナブルと聞いても町の人にはピンとこない方も多いと思うので、「量り売り堂」という言葉を使うことで、町にくらすお客さまにすっとなじむものにしたいと考えたんです。


自然とコミュニケーションが生まれる「空間」をまるごとデザイン

志村:畠山さんは、デザインチームの主担当として、名前を考えるところから、売り場全体の雰囲気づくりや、どこにどんな情報を配置するか等の情報編集的な部分まで、全般のアートディレクションの担当でしたよね。今でもよく覚えているんですが、空間のあり方を議論していたときに、「来た人に何を持ち帰ってもらえるかを大事に考えたい」と話していましたよね。「量り売り堂」が、ただ洗剤を入れて持ち帰るだけの場ではなくて、そこでどんな会話がなされて、どのような知識が得られるのかを随分皆で話し合った記憶があります。たとえば、孫を連れてきたおばあちゃんが昔のことを語ったり、若い人たちがSDGsの観点で考え合ったり、とか。「量り売り堂」という言葉が、いわば寺子屋的な場や、コミュニケーションが湧き起こる場としての共通言語になるといいと話しましたよね。お店の壁にプラスチックの削減量を表示したのも、そのきっかけになればと考えたからでした。

畠山:そうでしたね。暖簾をつけたのも、コミュニケーションできそうな空気感を出すための仕掛けで、デザインでも皆さんが気軽に立ち寄れる雰囲気にすることをめざしました。その暖簾で、量り売りする所であることがシンプルに伝わるようにして、全体を見たときに、昔から日本で親しまれてきた習慣や文化を体験できることがひと目で分かるように、日本的で手づくり感のあるデザインにしたんです。とはいえ、あまり和を再現しすぎると、それはそれで距離感を感じたり、かえってなじめなかったりする人もいると思うので、現代的でマイルドな和の表現にまとめました。

「もったいない精神」を直感的に感じてもらう演出に

 ボトルのデザインは、できるだけ多くの方に自分の生活に取り入れてみようと思っていただけるように、極力シンプルであることを重要視しました。従来品のボトルに使われている色の中からそれぞれ一色ずつを選んで、商品ごとに色分けをして識別しやすくし、モチーフには、ものを包んで運ぶ風呂敷の文様風のイメージをあしらうことで、軽やかでやさしい雰囲気を感じるものにしています。

ボトルサイズが違ってもそそぎやすい工夫

あたりまえを見直す大切さ。実証実験が教えてくれたこと

志村:「量り売り堂」には、かなりのリピーターがついてくれましたよね。「こういうのがずっとあってくれたらいいのに」というお年寄りの声や、「花王さん、これからも続けてよ」というお店の声も多く聞いて、皆さんと一緒に体験の場をつくることができていると感じました。

畠山:この取り組みは、くり返し足を運んでもらうことに意味があります。でもそんなくり返しのなかで、地域の方々が継続的にコミュニケーションを育んでいく場になる可能性を感じることができました。お客さまに、なぜここを利用したのかを聞いたところ、「取り組みに賛同したから」とか、「こうした取り組みがもっと広がってほしいから」といった回答が多くありました。また「IPM POPクリエイティブ・アワード」で経済産業大臣賞をいただくなど、業界の中の反応の大きさも実感しました。そうした反響からは、花王のようにずっと信頼ありきでやってきた大きな会社が、ついに量り売りに踏み出したという社会的なインパクトの強さや、今後の期待の大きさも身に受けた気がして、プレッシャーも感じましたね。私はふだんプロダクトデザイナーとして仕事をしていますが、このプロジェクトでその枠をはみ出して、新たな売り場のコンセプトづくりから一貫して挑戦することができたことは本当に良い経験でした。自分を取り巻く環境のあたりまえを見直したり、花王という会社にいることの責任や期待の大きさを感じることができた貴重な機会になったと思います。