改姓のこと

 結婚後の姓は篠原です。
理由は、96%の女性が姓を変えているからです。
私が結婚するまでの間に選択的夫婦別姓を強く支持した友人たちが結婚していきました。
最後まで事実婚と迷った友人は夫の姓を名乗っています。
別の友人は、未だに改姓したことに納得がいっていないと口にしました。
改姓が嫌で大喧嘩になったというバービーさんのインタビューも読みました。
結婚を報告した友人は私の名前が変わることを寂しがっていました。

 私は自分の姓に強い頓着がない上に夫も同じくらいの熱量だったので、途中までは結婚式の余興で姓争奪デスマッチクイズをやってもいいなあと本気で考えていたのですが、二人の実力がちょうど拮抗する問題ジャンルが「洒落怖」くらいしか思いつかなかったので「きさらぎ駅!!!!!!」みたいなウィニングアンサーで姓が決まったという思い出ができるのは避けたいと思い断念しました。
強く自分の姓を変えたくないという意思を持っていた友人の多くが夫の姓になったことに漠然と違和感を持っていたので「篠原」にしようと話し合い、結婚を進めることにしました。

 本当はなんでも譲りたいくらいと思っています。食べ物の一番美味しいところは夫が食べてほしいし、少しでもよく見える座席には夫が座ってほしいし、将来、子供を育てることがあるならば、最初の言葉はパパであってほしいと願うくらいに全てを譲りたいと思っています。
でも、姓は譲ってもらいました。
両親に篠原姓にしたいと思っていることを告げたとき、「名字なんてどうでもいいことだからね。あんまりわがままを通すようなところじゃないからね。」と念を押されました。きっと私の強情さのせいでもっと大きな幸せを逃してしまい、私が悲しむ結果になることが不安だったのだと思います。
多分、私の両親は弟が女性の姓になることを見咎めるようなことはしません。でも、結婚するのが弟だったら篠原姓にすることに不安を覚えることもなかったとも思います。
ちなみに弟は「現代的だね。じゃあ、逆に俺は相手の名字にしようかな〜」と言っていました。

 私にとって姓はなんでもいいことでした。
しかし、そのなんでもいいことに大きな偏りがあることをなんでもいいとは思えません。
選択的夫婦別姓について議論がなされる時、現行の法律でも、夫と妻どちらの姓も選べる仕組みになっていることが指摘されます。
一見、平等な仕組みに見えて実際には96%の夫婦が男性の姓になっています。
何故、それだけの偏りが生じるのかを考えてみると、実体のない漠然とした「普通」が存在しているからだと思います。「普通」はただ大多数の意味しか持たないのに、正しさにすり替わってしまう時があります。

 私は今、人前に出る仕事をしています。
この仕事しかできなかった結果辿り着いたといえば、そうなのですが、今はいくつか目標を持って頑張っています。その一つは女の子に夢を見せられる人であることです。
だから些細なことでも女性の体に生まれるとできないことや難しくなることを見せたくないと思っています。
例えば、特に女性は容姿が綺麗であるという足切りを通らずにメディアに出ることは難しいことだと感じています。嫌なことは沢山言われたし、今も少し言われますが、そういう人こそ刮目せよと思って笑っていることにしました。

 私には応援してくれる小さな女の子や若い女性たちがいます。
みんなあまりに強く聡明で、推しや憧れという言葉を賜るのが毎回恐れ多いのですが、私にとって何より尊い励みです。
そんな素敵な女の子たちがこれから歩む道の先にあるものが、「普通はこうあるべき」という正体のない壁であって欲しくないという祈りに近い願いを持っています。
男性であれば、そんな理由必要なかったかもしれないけれど、私は著書や論文、家業といった一般的に変えない方が便利とされる理由を沢山持っています。
私を見てくれている女の子たちに私でさえ女性は結婚すると苗字が変わるという姿を見せたくないという気持ちを夫が尊重してくれたのが今の私たちの新しい苗字です。

 いつか歪な割合は変わってほしいと思うし、何よりも選択的夫婦別姓の実現を望んでいます。私にとって、今のところ夫の認識はずっと河村拓哉のままだし、これから苦手な事務手続きを山のようにこなす姿を想像すると胸がキュッとなります。

 年間五十万件ある結婚のうち、たった一組が少ない方の選択をすることが直接的に何かを変えることはできません。
この世界で一番愛すると決めた人に不便な思いをさせることは本意ではありません。結婚に際し、改姓に伴う労力を全て担ってくれたのは、他ならぬ夫です。事務手続き以外にも選ぶ人の少ない選択をする時固有の負荷もあると思います。
私の考えを伝えられるだけ信頼している人、そしてそれを理解してくれる人と出会うことの有り難さをいつまでも大切に思いたいです。

 「結婚」が自分の人生に形を持って現れる前、私は結婚の中に自由を失うことを見出していて、結婚するには人生が楽しすぎるなと感じていたのですが、結婚して、夫といると一人でいるよりも自由であると感じられます。それは絶対的な安心感ゆえだと思います。

 そして、夫が改姓してくれたおかげで私は明日からの海外ロケに本名のパスポートとクレジットカードを持っていくことができます。これは実利的な安心感です。

ありがとう!!!!!!!!


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