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My Own Private

3年間帰る場所だった所へ旅行に行った。

厳密に言うと、帰る場所だったのは駅から電車で10分、さらにバスで20分行ったところ。だけど都会だから、駅やその周辺の商業施設目当てで何回か家族と旅行へ来ていた。今回も。

前までは、来る度にちゃんと、懐かしかった。いつも駅は急いで通り過ぎたよなあ、電車降りて地上へ出る階段駆け上がって、空は真っ暗、これから帰るぞ!っておなじ寮の子といたよなあ、高速バス乗り場はいつも辛気臭い疲れた顔した人達が沢山いた、でも帰るのがすごく楽しくてうきうきしていたなあ、ここから見えるカフェは友達と行ったなあとか。思い出していた。

でも驚くべきことに、今回は全くそれが無かった。どんな思いで過ごしていたか、それをどんなに大切に今までしていたのか、忘れてしまった。何も思い出せなかった。何があったとかどんな話をしたのかは覚えていて、見知っている場所なのに何の感慨も湧かない、不思議な場所になってしまった。

思えばあの頃は、とても狭い世界で生きていた。学校。寮。たったそれだけ。学校も、クラスの子しか関わりがなく、あと部活で少し。
多分大人になってしまったんだと思う。
たくさんの人と関わる大学と、文字通り何から何まで全部やる一人暮らしの方がよっぽど大変だった。寮も特殊な環境で、頑張っていると思っていたけれど、実家へ帰るまでバスで1時間だ。今は電車を乗り継ぎ新幹線を使ってやっと辿り着く。

忘れたくないのになあ!あのころも頑張ってたのだ。どれだけ恵まれた環境だったとしても、あの時の苦しみや寂しさを忘れたくない。でももう、私の指の間からすり抜けてしまった。すくうことは出来ない。

今少し人間関係が上手くいかなくて、参っているからだろうか。大宮で一人暮らししてる時は全く思わないのだけれど、家族と仙台駅前をさ迷っていると「なんでもっと簡単に暮らさなかったのだろう。暮らせる道はいくらでもあったのに」とぐるぐる頭を回る。随分遠いところに来てしまったなあ、とも。意志を持って移動してきたはずだけど、この距離を行ったり来たりしていたことに目眩を覚える。家族は近くにいて、何も怖いことは無い状態だからこそ、なぜ辛い時家族のそばにいないのだろうと思う。

まあそれも運命だって知ってるからだ。私が高校生で寮ぐらしをしたことも、今ひとり暮らしをしていることも、変えようもない運命だった。それ以外の道はなかった。それが欠けたら、今の私はいないから。

あ、ひとつだけ。やっと思い出せた、あのころの感じがある。土日の昼ごはんや、ちょっとしたお菓子、飲み物を買うために寄っていた寮近くのスーパーに行ったとき。

時間潰しで、「懐かしの土地巡り~~」なんて言いながら寮付近を回ったのだ。スーパーの駐車場で車を降り、空を見上げる。実家は同じ東北なのに、空模様が全然違くて感動してしまった。ベットに寝転がって飽きるほど何度も見あげた空だった。彼氏と上手くいかなくて別れたり、受験前何も手につかなかったりして眺めた空だった。高森の空は、水彩画みたいだ。水をたっぷり含ませた刷毛でさっと履いたような、淡い綺麗な色でできた空。優しくて泣きそうになる。

2年前の記憶とだぶって、本気で自分がどこにいるか分からなくなりながらスーパーへ入る。ものがごちゃごちゃしているのに綺麗で明るい店内。有線で懐かしの洋楽みたいなのがかかり、ハスキーな女の人が歌い上げていた。広くないのでみんなテキパキとものをカゴに入れていく。ここにあるレモンスカッシュを、買いたいといつも思ってた。炭酸の群れ。カゴに入れられた缶詰たち。時間は4時半、まだ部活をやっている頃だ。きっと三連休でも毎日詰められていたはずだから。5時に終わって疲れた体を引きずりながらスーパーへ。本当は夕食がすぐなので間食しちゃまずいんだけど、我慢できないから、菓子パン少しと飲み物を買う。いつも家族のことを思っていた。1人でここにいることに、どうしようも無い気持ちだった。

真っ黒な制服でハーフアップの、赤いマフラーをしてイヤホンかけながら、死んだ顔してカゴを握る女の子を探したけれど、いなかった。2年前までは確かにここで暮らしていたんだけど。もっとちゃんと探せば会える気がした。曲がった角から、ちらりとひだスカートが見える気がした。会ったら教えてあげたい。ハグして、にっこり笑って、「苦しいことは終わるし、今は今しか生きれないから、楽しんで」って、言ってあげたい。人は本当にひとりぼっちでも生きられるし、冬になっても寂しさで死んだりしないから。

とぼとぼビニールを下げて歩く坂、赤い電話ボックス、ぼんやり明るくて綺麗で静かな寮
長い廊下、一番端の部屋
穏やかな舎監さん
決まった時間に流れる放送、暖かくて沢山ある整頓された食事、怖いことは何もない、守られた空間

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