She is awesome!- ナニーの言葉

ニューヨーカーはおしゃべり好きだと思います。少なくとも、私が渡米前に聞いていた、ニューヨークの人は冷たい、怖いというイメージを感じたことは全くなく、とてもカジュアルでフレンドリーです。通りすがりでも、地下鉄でも、一緒になったエレベーターの中でも、その服素敵だね、どこで買ったの?などと会話が始まります。

そしてニューヨークには移民がとても多く、それぞれがアクセントを持ちます。スペイン訛り、イタリア訛り、中国訛り。移民英語が市民権を得ているので、基本的にはヘンテコな英語にも寛容に対応してくれます。ネイティブからしたら聞きとりにくい、話が通じないと思っているのでしょうが、彼らがどう思おうと私の人生には関係ないので、どんどん話しかけ、貴重な英語学習の機会として利用させてもらっています。

ある日のこと、一緒のビルに住んでいる5歳の女の子のナニーとエレベーターで一緒になりました。ニューヨークではほとんどの家庭にナニーやベビーシッターがいて、母親が一人で子育てをすることは稀です。近くに住むか、住み込みでフルタイムのお世話をするのがナニー。パートタイムで一部を請け負うのがベビーシッター。ナニーは家族旅行についていくことや、逆に親が出張や旅行に行く際に子供とお留守番をすることもあり、もはや家族の一部という感じなのです。

彼女が面倒を見ている女の子は、口が達者で自己主張も強く、傍から見ても育てやすそうとは言えない子でした。彼女と私の息子は同じ学校に通っているので、学校の送り迎えやイベントで、やりとりを何度か目にしていました。そんなナニーと、子供たちを学校へ送った帰り道が一緒になったので、へたくそな英語でいつものように話しかけてみたのです。彼女はどう?-How is she?と。

私はこの時、学校に行きたがらない息子にイライラしていて、この年代の子供を育てるって大変だよね、って話をしようと思っていたんです。

でも、彼女から返ってきたのは―She is awesome!という言葉でした。
`She is awesome, she is healthy and that’s the best thing. Other than that, she can learn it later. Being healthy and having energy is number one.’ (-彼女は最高よ。だって健康だもの、それが何よりでしょう。それ以外のことは.大きくなったら学べばいいから。健康であること、元気であることが一番よ!-拙訳)

それを聞いて、私は ガツンと頭を殴られたような気になったのです。そう、健康に今を生きられていることが何より一番。それは当たり前だし、もちろん分かっていたはずなのに、私は今まで、そして今もなんて多くのことを息子に求めていたんだろうと。

私たち夫婦は子供を望んでから、授かるのに少し時間がかかりました。それなりのお金と時間を掛け出逢えた息子だったので、出産した後は無事に生まれてきてくれただけで十分、と感謝の気持ちでいっぱいでした。それなのに。いつからか、言葉をしゃべりだすのが遅い、食べ物の好き嫌いをする、甘えすぎ、などと悩みだし、思い通りにならない息子に苛立ったり、多くのことを求めるようになっていました。

私は自分の息子について聞かれたとき、「彼は最高よ!」とは中々言えませんし、これからも言えるようになるとは到底思いません。でも心の中だけでは彼女のナニーのようにいつでもそんなセリフを響かせておきたいのです。

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