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作家の「収容所」を描く桐野夏生の傑作「日没」

エンタメ作家がもしその才能を国家から危険視され、「健全な社会のためにより善い作品を作りましょう」と断崖絶壁にある収容所に押し込まれたら……?

思わず背筋がぞくりとする作品「日没」は、「OUT」「グロテスク」などで知られる、桐野夏生先生によるもの。

2020年頃に刊行された作品で、取り扱われている話題も新しいです。

ポリコレ、ネット中傷、出版不況……これらの要素だけでも気が重くなるのに、桐野先生はそこにさらに黒い幕を被せます。

作家の自由な発想よりも、社会のための作品づくりを優先する国家権力が横行。
それだけでも震えが来る設定ですが、桐野先生は、冷徹とも言えるほどの観察力と、個性にあふれたキャラクターを通してわたしたちを息苦しい収容所に送り込み、これでもかと不自由な生活を強いてきます。

我慢していればいつかここを出られる。

切実な願いを押し潰すかのように、圧倒的な筆致で孤独かつ、絶望的な収容所生活が描かれます。

人として当たり前にある闘争心と自由な心に火をつける本作は、不味そうな食事シーンも必見。
こんなに食欲が失せる小説もなかなかありません。

ラストシーンはまぶたの裏に思い描けるほどの鮮やかさに満ちています。
読んで間違いなしの一冊です!

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