かのこ

からりとした日陰

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からりとした日陰

最近の記事

入院記録

先日、卵巣腫瘍の摘出手術の為、5日間ほど入院していた。 こういうふうにしっかり手術&入院というのは初めてだったので、今回はそんな入院中に感じたこと、見たものについてまとめてみたいと思う。 ・病室  部屋は大部屋にした。一人部屋にするか迷ったが料金がとても高く、それに比べて大部屋は部屋代については無料だったので、迷わずそちらを選択した。  ひとりだと心細くも不安にもなりそうなところ、喋らずとも同じ部屋に人が居て、生活音が聞こえるのは思いのほか安心感があった。 ・麻酔  手術

    • 私たちの間には相手の境界線と自分の境界線の、二つの線があることを忘れてしまいがちだ。 思い出すと楽になるよ。

      • 傷をなぞる

        「他の人だったら、傷付かなかったかもしれない」 「恋人の方が辛い目に遭っているのに」 でも、そんなものは本当は関係ないのだと思う。 辛い過去をたくましく乗り越えてきたと語る彼らの顔には「手応え」というものを感じる。 また、それに伴う自信を。 眩しく感じる。 でも、私にはそういう感覚を持つ日は来ないんじゃないかと思う。 渦中に入らず、飲み込まれず、ただ見ている、という感覚がずっと付きまとう。 祖母が泣いているのを。 青年の、ずる剥けになった膝から白い骨が見えているのを。

        • 心づよい

          疲れからか、ふくらはぎの裏側がもやもやして脚を上げていないと眠れない、なんて時がある。 そういう時は大体、ストレッチポールを使ってふくらはぎをごりごりとほぐし、脚の付け根なんかもタオルを筒状に巻いたものを使って同様にほぐすなどすれば落ち着く。 そうやってほとんどの場合は自分で対処するのだが、どうしてもそれでは物足りない、という時がある。 その時である、恋人にマッサージをお願いするのは。 恋人は位置なんかは探り当てるのが苦手なようだが、私の方から「指ひとつ分右」というよう

        入院記録

          果物の話

          先日、散歩がてら近くのコンビニへ行き、コーヒーフロートをテイクアウトした。 店先に簡易なテーブルと椅子があり、そこに座りながらのんびり食べていると、隣のテーブルにパフェを持ったご婦人二人が座った。 聞き耳を立てるわけではないが距離が近いこともあり、ポツポツと彼女たちの会話の内容が聞こえてきた。 それは最近食べた果物の話だった。 「誰々から貰った桃がとても美味しかった」とか、 「あそこの果物屋のフルーツは美味しい。でも葉を早々に取ってしまうから熟れるのが早いので、そこが難点

          果物の話

          海を見に

          恋人の実家に帰った時は、海を見にいく。 いつも引き寄せられるように、自然と足を運ぶようになっていた。 今月帰った時は、いつも団地の部屋で出迎えてくれる彼のお母さんの姿はなかった。 体を悪くし施設に移ることになったのだ。 だから私たちは、突然人が居なくなってしまったようなその部屋を片付け、手続き諸々を済ませるなどしていた。 あくせく動いている間、雨予報が続いていたが、最終日になって突然雨がやんだ。 それで私たちはいつものように海へ向かった。 新潟のこの海はなんだろう。

          海を見に

          微睡み

          以前、友人と昼間からお酒を飲んでいる時 「気分が良くて眠くなってきた」と伝えると、こんな話をしてくれた。 「意外に思うかもしれないけど、能という演劇は眠気の心地よさを楽しむ、という意図もあった」とのこと。 能で眠くなるのには理由があって、能楽は一定のリズムを刻む。他の音楽のように、メロディが激しく変わるようなことはなく、曲が早くても遅くてもリズムは八拍子で進む。 それは心音のリズムから来ていると言われいる。 どんなに速い曲でも、等間隔にリズムが刻まれているとリラックスする

          痛み

          心の痛みに目を向けてみる。 ことに、人から言われたあまり気持ちの良くない言葉に傷付くこころに。 でもいちばん辛いのは、その傷を無理に一般化したり、大したことないと抑えつけてしまうことだ。 呪わないし、呪いも受けない。 否定は拒絶するので、物事に囚われることは少なくなったように思う。 でも、この見えない傷をイヤがるんじゃなくて、その存在と「いるね」と確認しながら、いつの間にか消えるまで、のんびりしていても いいんじゃないか…と思う。 それもまた、誰かの痛みなのだ。

          共感に関するトラブル

          会話の流れで「あ、それ分かります」「その本私も好きです」みたいな感じで、さらっと共感されるのはいいのだが、 なにやら異様なものを感じ取る時がある。 「分かるよ」の後に「もっとこうしたらいいんだよ」とか「あなたなら分かると思うけど」というようなことを続けてくる場合だ。 そこまで共感されるとすごく嫌だ。 それはよっぽど感覚を同じくしているという自信がなければ言えないことで、だってまずそれは不可能なのだ。 自己と他者を混同させすぎてはいないだろうか。 その心理やいかに!?となる

          共感に関するトラブル

          昔見た夢の話

          おそらく10歳になるより前に見て、ずっと憶えている夢がある。 真っ暗な夏の夜、アサガオ柄の浴衣を着た私は木製のリヤカーに乗ってどこかに向かっている。 所々に街灯があり、その灯に照らされて今進んでいる道が暗闇の中に少し浮かんで見えたりした。 途中、灯りに照らされた樹皮が反射し、とても大きな樹の真横を通り過ぎようとしていることに気付いた。 じっと見ていると、その樹の麓に人影がある。目を凝らすとそれは裸のまましゃがんでいる母と妹だった。肌はむらさき色にぬるりと光って いる。

          昔見た夢の話

          関係を取り払う試み(2)

          私は彼らの子どもの頃を知っている。 見たことはないのに見た気がする。 いじめられっ子で誰にも助けてもらえず、ただただ強くなろうと決心した他の子よりも小さな母の姿。 優秀な兄ばかり贔屓されて自分は兄のおまけだと感じ続けていた病弱な父の姿。 彼らはそういった傷を乗り越えられないまま、暗い執念を持ちながら大人になった。 そして子供の頃に得られなかったもの得たものを信じて自分の子に執拗に与えようとしていたのだと思う。 親であるという色眼鏡を外してみた彼らの寂しげな後ろ姿とはそういっ

          関係を取り払う試み(2)

          魔が差した

          気付いたら悪いことしかできなくなっていた人のことを考えていた。 たぶん初めは出来心だったのだろうな、とか。 人としてそれなりに良いところもあったのにね、とか。 学生の頃、人を雑に扱う人が周りにたくさんいてそれで私も気付いたら雑に扱う場面が増えていた。 周りの人もやっているし…と考えていたが、最終的に駄目になったのは自分の心だった。 嫌いな自分で生き続けることなどできない。 そのことを思い出していた。 人を傷つけるまではいかなくても丁寧に接することができなくなったら立ち止ま

          魔が差した

          4人以上の会話をとても苦手に感じていることが分かった。雰囲気に流されて笑う必要のないところで笑ったりいらない言葉を発してしまったり話題の変化についていけなくて一個前の話題がずっと気になってしまったり…そのうち頭が興奮してきて本当に思ってることとやっていることが大きくズレてしまう。

          4人以上の会話をとても苦手に感じていることが分かった。雰囲気に流されて笑う必要のないところで笑ったりいらない言葉を発してしまったり話題の変化についていけなくて一個前の話題がずっと気になってしまったり…そのうち頭が興奮してきて本当に思ってることとやっていることが大きくズレてしまう。

          関係を取り払う試み(1)

          今の今までずっと、両親との距離感に絵も言われぬ居心地の悪さを感じ続けていた。 そこで、どうにか距離を置こうと考えた私は彼らを「お父さん」「お母さん」と呼ぶのをやめることにした。 具体的には、心の中で彼らを「おじさん」「おばさん」と呼び、LINEの文章を敬語に変えるようにしてみたのだ。 そしてそれに伴い、今までは当たり前に「親」だと認識していたが、それもなくして単に同じ家に居合わせた他人と思うことにした。 これらの試みに伴って感じたことがある。 私の家庭は「自分の子だから

          関係を取り払う試み(1)

          ひとりの人としてみてほしいだけ

          昨日、父と恋人の顔合わせがあった。 父とは中学生の時以来ちゃんと話したことがなかったため、実に13年ぶりの、面と向かった会話で恋人より私の方が緊張していた気がする。 場が持たず、沈黙で気不味くなることはないだろうと予測はしていた。交際に反対することがないことも。 予想通り、父はたくさん話をして、それに応じて恋人も上手に相槌を打っていた。 だけれど、私はひとり身が硬くなっていくのを感じていた。 父が所々で「この子は俺の子どもだからこういう性格で〜云々」「俺に似て〜どうこう

          ひとりの人としてみてほしいだけ

          風の彼方へ

          友人が先月亡くなった。 美化せず私の目に映ったそのままを話すとしたら、彼女は余計なことを話さない人だった。 その沈黙は我慢したり意図して作っていた様子はなく、とても自然なものだった。 臆病で怒りっぽくて、気難しいところがあった。人を容易く近付かせない雰囲気が、周囲の誤解を招くこともあった。笑うこともほとんどなかった。 ただ、私といる時は少し表情がやわらかいという話を周囲から聞いた。 私は彼女から好かれていると感じたことはないけれど、彼女も私のことを好きだったらいいなとそれを

          風の彼方へ