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得意を伸ばすのが先か? 苦手を克服するほうが先か?

日本人の特性なのか何なのかはわかりませんが、
私は自分の長所より短所に目がいってしまいます。

その感覚が原因なのか中学校の教員の頃、

数学を教えるときには、生徒の苦手なところを何とかしてやりたい、
部活動で指導するときには、選手の弱点を補強したい

と考える傾向がありました。

しかし、脳科学的には

苦手を克服するために、苦手な部分を重点的に訓練するより
苦手を克服するために、得意分野を伸ばす

ほうが効率的なようです。

(要約)
脳はあるものごとを記憶するときには、
その対象自体を記憶するだけではなく、
同時に対象への「理解の仕方」もいっしょに記憶している。
そしてその理解の仕方を応用して
ほかの対象をより速く深く理解することができる。
ある科目のどこかの部分を十分に理解すると、
ほかの部分も理解しやすくなる。

池谷裕二,2011,『受験脳の作り方-脳科学で考える効率的学習法-』,新潮社

この現象のことを「学習の転移」というそうで、
このことを知った時点から考え方がガラッと変わりました。

確かに苦手を克服することは時間がかかるため、
直接的に改善に取り組むと
自分の得意分野を伸ばす時間までもが削られてしまうことになり、
結局どっちつかずになる可能性があります。
それならば

確実に成長が見込める得意分野から伸ばすほうが効果的

であると考えるようになりました。

生徒から苦手科目の相談を受けたとき、
今までの場合だと、
その科目の勉強法についていろいろアドバイスしていましたが、

得意科目、何かな?」

と聞いて、
まずその科目を重点的に取り組んで力を伸ばすことを
すすめるようになりました。

中には得意科目がないという生徒もいましたが、
成績表などのデータを振り返りながら、
その中でも一番理解しやすい科目や分野を自覚させ、
そこからスタートするようにアドバイスしました。

部活動(ソフトテニス部)の指導においては、
私が考えている
【理想的なフォームや技術はこれである】と
1つに決めて画一的な指導をせず、

生徒1人ひとりに理想的なフォームや技術があると考えて、
いろんな打ち方、球種、コース、戦術など、
生徒の意志で選択、判断できるように
練習メニューのバリエーションを増やすことを心がけました。

そんなときに廣戸聡一さんが提唱する「4スタンス理論」に出会い、
かなり参考にさせてもらいました。
「4スタンス理論」というのは簡単にいうと、
人の体の動きは大きく分けて4つのタイプがあり、
自分のタイプを理解してタイプ合った動きをすれば
パフォーマンスが向上するというもので、
まさに生徒の得意を伸ばすためにうってつけの理論だと思いました。

私が短所にクローズアップする考え方のままだったら、
この理論には気づかずにスルーしていたかもしれません。
タイミングってあるものですね。

それはさておき、
得意を伸ばす方針に転換すると
生徒たちが主体的に活動する場面が以前より増え、
苦手を克服させようと頭を悩ませていたのがウソのように、
苦手なプレーも克服したり、カバーしたりできるようになっていました。

ただし、部活動においては、
得意を伸ばすことで全体的に力が向上するということを実感できましたが、
学習面においては、
あまり効果が出せなかったように思います。

私が数学を教えている中で、
徐々に学力が向上し、
さらに既習の知識を論理的に新しい知識や課題に活用する数学的な考え方が身についてきたと評価できるようになった生徒でも、
その考え方を他教科に生かしている様子はあまり感じられず、
苦手教科を克服するまでには至らなかったように思います。

授業で問題を解いたときの考え方を、

他の教科でも生かしたらいいのではないか

とアドバイスしたこともありましたが、
数学と他教科を生徒自身の中でつなげることができず、
うまく納得させることができませんでした。

もう少し時間がかかるのか?
学習の転移に必要な力がまだ備わっていないのか?
私の評価がずれているのか?
身につけるべき力を誤ったのか?

など、様々な原因を考えました。
そこでもう一度、池谷裕二氏の著書を振り返ると

誰にも負けない得意科目を作ってから、ほかの科目の習得に挑む

池谷裕二,2011,『受験脳の作り方-脳科学で考える効率的学習法-』,新潮社

とあったので、
誰にも負けないほどの学力が身についてきたかといわれると
まだまだ不十分であったと言わざるを得ないため、
私は自分の指導力不足を痛感することになりました。

実際、得意科目を伸ばすことを優先するほうが、
心理的ハードルが低く、
勉強するときもやる気をもって取りかかれるので
学習習慣も身につきやすいはずです。

そうすると全体的な学習時間も増えることになり、
苦手科目にも良い影響を与えると考えられるので
その効果は疑っていません。

得意科目までレベルアップするには、
授業改善の余地がまだまだあるということでしょう。

全教科の教員がもともとできる生徒を除いて、平均的な生徒を
少しでも得意科目といえるまでに引き上げるための授業研究をすれば、
かなりの相乗効果が期待できると思いますが、
教科が違えば考え方も違うので、
教員の意思統一が大きな課題になりそうです。

私自身も、まじめに自分を見つめ直し
得意を伸ばして成長し続けることを目標にし、
駄文を書くのが得意なので、
これを伸ばせば名文が書けるようになるのだろうか
とくだらないことを考えてしまったことを反省しておきます。

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