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【PP】DAOKO「enlightening trip 2019」@ダンスホール新世紀に行ってきた話

 ということで、9/14に鶯谷のダンスホール新世紀で行われた、DAOKOさんのワンマンライブに行ってまいったわけですよ。結論的感想をここで述べるとするならば、僕が見て来たDAOKOさんのライブの中では、間違いなく最高傑作だったと思います。いやちょっと、ほんと何度か震えたもんね。

■イベント三連発

 今回は、9/14のライブの話ではあるんですけど、実はその前に行われた、7/18の「“気づき”LIVE – Enlightening my world- 」@WWW X、8/10の「チャープポイント-all night ver.-」@club Asiaにも行ってまいりました。"気づき"は、ギター&キーボード(マニュピレート)とのリズム隊なし・アコースティック形態のライブ、チャームポイントは昨年もやったDAOKOさん主催の対バンイベントですが、今年はクラブイベント形式。まさに、あの子は朝までクラブイベ(@水星)、ですね。

 どれも楽しかったですけど、共通しているのは、DAOKOさん自身の世界観をどう表現するか、という模索のようなイベントであったところ。本来なら、昨年末に発売されたフルアルバム「私的旅行」や、映画『DINER』の主題歌である「千客万来」、映画『かぐや様は告らせたい 』の挿入歌になった新曲「はじめましての気持ちを」といったリリース物のプロモーションを兼ねたライブになるのが普通だと思うんですけど、どのライブでも、アルバム収録のタイアップ曲はおろかニューシングルすらド無視、という硬派なセットリストになっておりました。「打ち上げ花火」から入って、Mステとか観たイメージでライブに来た人は、きょとん、唖然、だったかもしれない。なんかもう、一般の人が受動的に目にするであろうDAOKOさんと、今年の一連のライブにおけるDAOKOさんは、もはや世界線が違うのではないかというほどスタイルが違いますね。

 そして、今回の「enlightening trip 2019」ですけれども、DAOKOさんのライブとしては初の5ピース生バンド形式。楽曲は、ロック・ファンク・ジャズを基調としたバンドアレンジになっていて、今までのデジタルフィーチャーなライブとは一線を画すものに仕上がっておりました。
 ツアータイトルにもなった「enlightening」は「啓発」を意味する言葉。たぶん、光を当ててよく見えるようにすること、が語源ですね。つまり、今回のツアーを含む一連のイベントは、自分のやりたいことをはっきりとファンに提示する、より深いDAOKOワールドを啓発・啓蒙する、という目的であったのかなと思います。

■印象深かった曲ピックアップ

 オープニングの一曲目は、「NICE TRIP」。アルバム「私的旅行」最後の一曲ですけども、まさか最初に持ってくるとは思わなかったなあ。BOOM BOOM SATELLITESをずっと聴いていた身としては、なんか無条件で泣きたくなる曲です。バンドアレンジもエモーショナルでよかった。

 中盤で印象深かったのは、「蝶々になって」。もしかしたら、この曲を出発点に、バンドメンバーやセットリスト、衣装や会場といった今回のライブ全部が広がって言ったんじゃないかな、という完成度でした。伸びがあって、胸に刺さる高音。和音階やテルミン、SEをごった煮にしつつもシンプルで外連味のあるアレンジ。どこか昭和の香りの漂う空気感。平成生まれヒップホップ育ちの彼女が、昭和のサウンドを再生産してくれるというのは、昭和生まれのおじさんには嬉しい限りです。
 あ、そういえば、お隣、キネマ倶楽部ではキノコホテルがライブしてた。昭和のショービズが残したものってのは大きいですね。

 「BOY」「高い壁~」「水星」といったライブ定番曲、ローハイフー時代の「7日間創造」「真夏のサイダー」「UTUTU」などを経て辿り着いた本編最終曲は、これもライブでは定番の「Fog」。けれど、もう別物に生まれ変わっておりました、、、、。
 アンニュイで繊細でヒリヒリした空気の原曲から、バキバキのドラムにランニングベースというドライブ感全開のロックチューンになっていて、完全に度肝を抜かれましたよね。下手したら、みんながヘドバンしだして、何人かサーフで転がってきてももおかしくない。そんなサウンド感。でも、変にポジティブになることもなく、原曲の魂も残っていて、素晴らしいアレンジだったなあと思います。次回アルバムで、このバージョンの音源入れてくんないかな。

 特に、バンドメンバーのドラム・大井一彌氏のプレイはすごかったね、、、! 菊地哲みたいなアタックでぶっ叩きながら、あんなタイトにリズム刻めるもんなんだ、ってびっくりしましたよ。今回のツアバンにおいては、間違いなく彼がサウンドの軸じゃないですかね。今後もサポートしてくれるといいなあと思いました。

 アンコールは「流星都市」と「Cinderella step」。Cinderella step終わりは二回目かな? 両曲とも、本編より凝った衣装(w)を身にまとって、「てふてふ」のようにひらひらと舞い踊るDAOKOさんが印象的でした。

■今年の進化は”シンガー化”

 彼女は決して「歌姫」「天才」タイプのアーティストではないんですよね。ライブをしている姿を見て勝手に想像していることですけど、たぶんステージ上でもめちゃくちゃいろいろ考えるタイプで、音楽がかかると人格が豹変するとか、ビートに乗って脳のリミッターが外れてしまうとか、そういう本能で生きている主観タイプの人ではないような気がします。

 その上、たぶんある程度完璧主義というか、失敗もご愛敬、みたいなライブ感を出すというよりは、カッチリした自分の世界観を表現したい、という人じゃないかなと思うんですよね。文章から見る彼女の視点は結構斜め目線で客観的ですし、抑制的で自分に対しても他者に対しても少しアイロニックなところがあります。ミュージシャンというよりは、小説家の感性に近いんじゃないかなあ、と思いますね。僕もそうなんだよなあ、という変なシンパシーを感じたりするわけですけれども。

 自分の中で渦巻いている外に出したいもの、というのがあるけれど、考え無しにそれを吐き出すことは良しとしない。彼女は歌も歌うし、ラップもやるし、絵も描くし、小説も書くし、服のデザインもする。自己を表現する手段を無数に持っているけど、どうやったら他の人に受け入れてもらえるだろうか? と常に探りを入れながら、ここまで来たように見えます。

 そのせいか、今までのDAOKOというミュージシャンは、「楽曲を構成する音の一つ」であったのかな、とも思いますね。彼女は非常に「器用」な歌い手で、ハイトーンで艶のあるパワーボーカル、繊細なミックスボイス、吐息のようなウィスパーボイス、そしてガーリーなアニメーションボイスという、少なくとも四つの声を駆使し、さらにメロディーを歌うこともできるし、ラップもできる。なおかつ、そのすべての声色を一曲の中で使い分ける(へたすると、ワンフレーズで)ということもやってのけるので、クリエイターとしては使ってみたくて仕方ない「素材」だったんじゃないかな、と思うんですよね。いろんなアーティストとのコラボや、楽曲参加がめちゃくちゃ多かったのも頷けます。 

 反面、「シンガー」というイメージには乏しかったかもしれません。

 でも、今回のライブでは、歌い手としてのパワフルさ、強さを前面に出そうとしていたような気がします。ライブセクションごとにメインの声を切り替えながらも、時にボーカルを食ってしまいそうなほどの音を出すバンドと声量で真っ向勝負。以前のライブではスクリーンの影でミステリアスさを持ちながら歌っていましたが、今回は観客の前にすべてをさらけ出し、力いっぱい歌っていました。
 普通、声を使い分けたり、ライブのアレンジによって歌い方を変えたりすると、「なんか〇〇の歌い方っぽい」みたいなのが出ちゃうもんじゃないかと思うんですけど、すべてちゃんと「あ、DAOKOさんだね」と思えるのはすごいな、とシンプルに感動してしまいました。

 最後、「自分が音楽と一つになれた気がした」というようなことを言っていたと思うんですが、生きた人間として、そしてバンドを構成する一人のシンガー、ボーカリスト、表現者として、生きた音楽の中に身を投じる、ということが、今回の一連のイベントで彼女がやりたかったことじゃないかなあ、と思いました。

 今年はもう、ワンマンはないのかなー。年後半、あればまた見に行きたいなー、と思っております。原稿が差し迫っていなければ、、、!


小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp