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【PP】DAOKO 3rdアルバム『私的旅行』の私的レビュー


 いやね、なんでモノカキが音楽アルバムのレビューをするのかといいますとですね、単純にとても好きなアーティストなので、是非とも推したい、というだけのことなんですよね。

 2017-18年は「打上花火」の大ヒットから紅白出場も決まり、飛躍の年となりましたけれども、まだまだ他の曲は聴いたことがない、という人も多かろうと思いますので、今後とも、当noteでは勝手にゴリゴリ推していく所存でございます。

■DAOKOさんについて簡単に

イノセンスな歌声と、象徴的な映像で様々なクリエイターを魅了し続ける、 ニコニコ動画出身の女性ラップシンガー。15 歳の時にニコニコ動画に投稿した楽曲で世界中から注目を集め、2015 年メジャーデビュー。 

トイズファクトリー公式サイトより抜粋>

 一応ですね、彼女には「女性ラップシンガー」という肩書があるのですが、メジャーデビュー以降はラップのない歌唱曲がメインになってきていますし、所謂B系、ストリート系と言われるようなラップカルチャーの内側にいるアーティストではないのですよね。ニコラップ出身(らっぷびととか懐かしいね)ですし、インディーズ時代に所属していた レーベル(LOW HIGH WHO?)も、ポエトリーリーディングをメインとするアーティストが多かったこともあって、今流行りのバトルMCみたいなタイプとはルーツが異なります。

 モノカキ的な見地から言いますと、ラップってすごく勉強になるのですよね。言葉のチョイスの仕方とか、韻の踏み方とか。リズムとか。僕は自分の作風的に既存作品のオマージュを小ネタとしてぶち込むのが好きだったりするんですけど、ラップも過去の名作のサンプリングをしたり、人のパンチラインを使いまわしたりと、そういうとこも含めてとても面白い。
 でも、陰キャ文科系のモノカキには、ちとone for da money的価値観のカルチャーは、近寄りがたい。なので、DAOKOさんのように、HIPHOPを直接のルーツとせず、ラップを「歌唱法」「表現の一形態」として取り入れたPOPアーティストが刺さるんですよねえ。

 さて、そんなDAOKOさんの武器は、まぎれもなくその声。

 カヒミカリィや、やくしまるえつこの系譜を感じさせるウィスパーボイスを主軸に、艶のあるボーカル、ときに陰のあるラップ。そしてキュートでフェミニンな声も使い分ける、ある意味「器用な」歌い手さん。そのせいか、コラボ作品も多く、作曲者の世界観に溶け込むこともできるんですけど、それでも必ず、ああ、これDAOKOだ、とわかる声がとても魅力的です。

 最近は、声だけではなく、ファッションアイコンとしても才能を発揮してきているように思いますが、僕が大ハマりしたのはtofubeatsの「水星」をカバーしたのがあまりにも素晴らしかったからなのですよね。その頃はまだ顔出しはしていなかったので、ほんとに、声に持って行かれた感じで。あれこう解釈すんのか、的な。
 
 はじめて彼女をライブで見たのは、2015/16のCDJでしたかねえ。当時はかちかちに緊張していたように見えましたけど、ここ最近はステージングもこなれてきてますし、どんどん成長してるなあと思います。なんか、ダンサーのようなキレはないんですけど、妙な色気のある振りは必見です。

 来年はきっと、もう少しデカい箱でやるんだろうなあ。今後、ステージ演出を作り込んでいくほど、ライブもどんどん世界観が反映されて面白くなっていくんじゃないかなと思っております。

■「私的旅行」全曲レビュー

 ということで、前置きが長くなりましたけれども、今回の本題。
 本日発売、メジャー3rdアルバム「私的旅行」。前作「THANK YOU BLUE」から約1年待ちましたよー。いや、もう1年経ったのかよ、、、おっかないわ、、、

 というのはさておき。

 今回も、執筆をしながら早速ループで聴き倒しておりますので、全曲レビューをしてまいりたいと思います。レビューについては完全に私見に基づいた自己満足でありますので、客観的評価をご希望の方は、音楽評論家の方のサイトでもご覧ください(丸投げ)。

01:終わらない世界で
 Cygamesのタイアップで、CMがんがん流してますので、きっと知らずに聴いているかたもいらっしゃるでしょう。
 前奏から聴くと、もう、僕の世代は一気に若かりし頃に引っ張り戻されるのではないかという、90年代後半から00年代のJ-POP感。それもそのはず、プロデューサーは小林武史。直接曲調が似てるわけではないですけど、MY LITTLE LOVERとか大流行してた時代の空気を思い出すんですよね。

 でも、ボーカルが入ると、急に今の空気に変わるところが不思議。

 サビはとても広がりのある印象的なメロディーで、新しい時代の「時かけ(原田知世)」、という感じが、おじさんにはいたします。僕と同世代の方にはドンズバなんじゃないかなあ。 

02:ぼくらのネットワーク
 こちらもタイアップ楽曲。作詞・作曲は、あの中田ヤスタカ。

 これはもう、どっちかっつうと、中田ヤスタカすげえな、と思った。DAOKOすらも「中田ヤスタカ」するんだな、と。徹底してます。でも、下手にしゃくったりせず、素直に声を出すタイプのボーカルなので、中田楽曲との親和性は高いのかもしれないですね。
 曲調的には、EDMサウンドをベースに、中田ヤスタカ節ともいうべき、エレクトロポップに仕上がっております。中田楽曲でいうと、きゃりーぱみゅぱみゅの「原宿いやほい」とか、perfumeの「love the world」が近いサウンドである気がしますねえ。 

03:オイデオイデ
 
ジャズアレンジから入り、ディスコアレンジのシティポップに発展する曲。この曲では、ウィスパーとは全く違う、非常に張り艶のあるボーカルを披露しております。
 作曲は、「shibuyaK」も手掛けた小島英也。さすが渋谷系。古(臭)い音をうまく組み合わせて、ちゃんと今のポップに仕上げております。
 

04: 24h (feat. 神山羊)
 オイデオイデに続き、シティポップっぽい大人のデュエット曲。こちらは結構ファンキーなアレンジ。ライブ前のBGMは本人が選曲してるんだそうですけど、最近はファンクっぽい曲が多かったので、ハマってるのかなあ。
 曲中では、とんでもないハイトーンを披露。既存曲でも高音を使う楽曲はあったのですが、従来のウィスパーボイスより、さらにメタリックな高音で歌いこなしております。

05:種も仕掛けもある魔法
 
まるで、古き良き遊園地を思わせるような、ファンタジックな曲。ピアノとストリングが印象的に盛り上げる中、DAOKOのルーツ的な、少し陰のあるラップが入ります。今回のアルバム中では、最もインディーズ時代の曲に近い雰囲気だなあ。

06:サニーボーイ・レイニーガール
 01、02とはまた異なるJ-POP曲。作曲はいきものがかりの水野良樹。

 転拍子を多用するくるくるしたメロディーラインは、イマドキ感のあるポップ。インディーズからメジャーデビュー後は、意識してこういったポップ曲を取り入れている気がします。かつては、思春期特有のひりひりした感覚を投影した楽曲が多かったのですけど、シンガーとして芽吹き、新しい世界に到達した証であるような、ハッピーチューンになっております。 

07:涙は雨粒
 タイトルはバラードっぽいんですけど、ライブでクラップも起こりそうな、アップテンポのテクノポップチューン。なんですが、メロディーラインは、意外と古き良きフォークソング的な要素も。

 なんか、今までにない空気感の曲かもしれない。

08:蝶々になって
 凛とした伸びのよいボーカルが、和音階(いわゆるヨナ抜き音階?)に映える一曲。
 24hではメタリックだった声が、もっと透き通って、液体的な質感をもたらしています。今までのウィスパーボイスと明らかに違うんだよなあ。一体何色の声をもっているのかと驚きますねえ。

 作曲は、ボカロPの羽生まゐご。打上花火の米津玄師もそうですけど、ニコニコ動画など、インターネットを活動場所としてきた「平成生まれINTERNET育ち」の新しいクリエイターと作る、「今」の世代の音楽となっております。

09:打上花火 (DAOKO SOLO ver.)
 DAOKO最大のヒット曲となった、打上花火。ライブでは披露しておりましたが、DAOKOソロバージョンの収録。
 この曲に関しては、もうあまり語るべきこともないんじゃないかと思いますけど、やっぱり今ノリノリの米津玄師楽曲ですから、ヒキがあるなあと思いました。今年の紅白はきっとこれでしょうね。米津玄師、声だけの出演あるかな。
 男声パートは、結構歌い回しにクセがある感じだったんですけど、見事に自分の世界に引っ張り込んで消化してますね。とても艶っぽくて素晴らしい曲になっております。

10:NICE TRIP
 作曲者とか、前情報無しで聴き始めたんですけど、開始15秒で泣きそうになりました。作曲はBOOM BOOM SATELLITESの中野雅之。これはすぐわかったなあ。
 どこまでも遠くまで行けそうな空間の広がりに、ゆっくりと浮き上がるような浮遊感は、故・川島道行の遺作となった「LAY YOUR HANDS ON ME」を彷彿とさせます。

 曲中では、ルーツの一つである、ポエトリーリーディングも。彼女が歩いてきた道、痛みや疑問を抱え続けた思春期からの脱却。かつての自分を振り返り見ながら、遠くのひかりを目指して踏み出す一歩。詞の内容は比較的ネガティブな言葉が並ぶのですが、どこまでも広がる未来へ向かうような、可能性と希望に満ち溢れた曲になっております。

■全体を通して

 アルバムタイトルである「私的旅行」とは何か?と考えた時、これは彼女が生まれてから今に至るまでの「人生の旅程」をあらわしているのではないかなあ、と思いました。

 彼女が生まれた90年代後半~00年代をルーツとするポップ(終わらない世界で・ぼくらのネットワーク)から始まり、思春期を過ごした渋谷をイメージさせるシティポップ(オイデオイデ・24h)。メジャーデビューを果たし、新しい時代のポップ(種も仕掛けもある魔法・サニーボーイ・レイニーガール・涙は雨粒)を取り込み、ボカロPという新時代のクリエイターとの新しい楽曲(蝶々になって・打上花火)を生み出す。そして、これからの未来に向かう決意のようなエンディング(NICE TRIP)を迎える。

 あくまで、僕の私的解釈ではありますが。

 小説を執筆するとき、僕は空気とか心情を作るためにBGMをかけたりするんですけど、DAOKOさん楽曲には非常にお世話になっておりまして。なんかこう、曲を作るクリエイターさんの感性もあるんでしょうけど、イマジネーションを授けてくれるありがたい存在です。

 若いながら、貪欲に過去の音楽も取り込もうとする彼女ですから、きっと、これからも温故知新的な観点は持ちつつ、新たに進化していくことでしょう。おっさんはそれを楽しみに、このアルバムも大切に聴かせて頂こうと思います。曲を聴きながら、また新しいお話が出来上がるかもしれないですし。創作の連鎖反応というやつですね。

 みなさんも、ぜひぜひ「私的旅行」聴いてみてください。


 ちなみに、DAOKOさん小説も出してますから、ある意味同業者です。



小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp