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頭と体が手をつなぐ場所~家庭料理の新デザイン・調理実習編~

わたしたちの暮らしは、これから豊かになるのだろうか。もし、豊かになるとすればそれはどういう豊かさなのか。

…なんて、いきなり大それた話をしたが、家庭料理というものが人の暮らしの豊かさに直結すると信じている。だからこそ、家庭料理がきちんと今の、つまり自分たちの時代にぴったり合っている大切さをメッセージとして送り続けている。

家庭料理をアップデートするといううたい文句で始まった、Nサロンの「家庭料理の新デザイン」ゼミ。昨晩はその最終回、調理実習だった。内容は、スープ作りのワークショップ。

方程式でスープ作りは簡単になる

私の提唱している「スープの方程式」に沿って、3人一組で実際にスープを作ってもらう。その方程式とは

素材×だし×オイル×調味料=おいしいスープ

というもの。このワークシートに使いたい素材を書き込んでいけば、理論上はスープが無限にできる。

「一品でしっかりおかずとして成り立つスープ」がめざしたいところなので、今回は具材を2種類使ってやることにする。
(1)野菜
(2)肉、魚介、豆腐、卵などの、たんぱく質系食材
(3)だし(かつお、こんぶ、コンソメ、鶏ガラスープなど)
(4)油(サラダオイル、オリーブオイル、ごま油)
(5)調味料(塩、味噌、しょうゆ)
この5カテゴリーの中から一品ずつ選び、スープにする。こちらであらかじめ、何種類かの野菜と肉、だしなどをそろえておいた。

チームの3人で、どんなスープにするかを話し合う。それから、調理開始だ。

ワークショップ開始!

ワークショップは、ビールやハイボール飲みつつ、和気あいあいとスタートした。

どんな食材を組み合わせるか。

食材をどんな形に切るか。

味付けはみんなが一番悩むところ。

どのチームも15分前後で作るような、簡単なスープを作る。

スープの名前も3人で話し合って決定!

頭で考えたように素材が働いてくれるとは限らないし、逆に思いがけないおいしさが出たりすることもある。レシピのない料理は、まさに食材とのセッションだ。そしてどのチームも失敗なく、素晴らしくおいしいスープができた。

焦がす、蒸し煮する、炒める、ドライトマトやとろろ昆布などの副素材使い、切り方と火の入れ方…ポイントはいろいろあるように思えるけれど、基本的には素材の扱い方さえ間違えなければ、ほぼどんなものを組み合わせてもこのシンプルなスープはおいしくなる。

料理教室は決まったレシピで教わることが多いのだが、それでは普段の暮らしに戻ったときに応用がきかない。この方式なら、スーパーに行って、食べたい野菜を選び、それに合わせて肉か魚を選び、あとは家で料理するだけだ。

おいしいものをいっぱい食べている人のほうが、当然だが組み合わせを知っている。それでも、自分がひとつずつやってみることで確実に体験は増えていくはずだ。一年は365日もある。3日に1回の自炊でも、100個のバリエーションは作れる。

今回の調理実習のことへの感想がすでにnoteに上がっている。さらさんは、

「知識」はどこかめんどくさいものにカテゴライズしていたけど調理のバリエーションという楽しみを増やす重要ポイントだった。

と、表現してくれていた。そう、料理は見た目だけではなく、音、匂い、味わい、触感などをフル活用する極めてフィジカルなものだから、知識があるだけでは料理は絶対に上達しない。でもその反対に、手を動かすだけでも上手にはなれない。このゼミの1回目、2回目は頭ばかりを使う内容だったけれど、あの2回があったからこそ、今回のワークショップが響くものになるように、設計したつもりだ。

頭と体が手をつなぐことで完成する。それが、キッチンという場所なのだ。

簡単だからこそ豊かな食生活を

出来上がったスープや簡単な野菜のお惣菜を食べながら、食の話をした。

現代の働き盛りの人々は10年前に比べて家で料理にかけられる時間が少なくなっていて、それに伴い料理のスキルも下がっていることは仕方がないことかなと感じている。ただ、時間がない、スキルがないからといって、豊かな食が実現しないとなると、私たちの生活は先細ってしまう。

だから「シンプルでありながら豊かである食生活」を送れるような工夫を、みんなでもっと積極的にしていくことは重要だ。
話が飛ぶが、今、家のリノベーションをしている。建築士に聞いた話では、最近は増築ではなく減築が多くなってきているのだという。それは生活のシュリンクを意味するわけではなく、サイズ感の合った生活にすることで、より暮らしやすくなるという考え方なのだそうだ。

そういう意味で、やりたいことは「食の減築」に近いのかもしれない。今回は食材ふたつで作れますと伝えたが、みんな、作るうちに「これも入れたらおいしそう…」というように、ついついいろいろなものを加えていきたくなってしまうようで、かなりゴージャスなスープを作っていたチームは多かった。

でも、野菜とほんの少しの肉だけでもおいしいスープは作れることを知ると、世界は広くなる。その広さは幅ではない、奥行きだ。限定した食材と調味料で作ることが、楽を得る近道でもあり、また人のイマジネーションを広げる。その楽しさおもしろさが伝わるといいなと思う。

【おまけ】料理時短を考えるためのメモ

シンプルと豊かさの両立を考える。それは調理だけではなく、買い物、食器、食べるスタイル、様々な面でいえることだ。今回説明はあまりしなかったが、時短のためのヒントとなるようなことをプリントして配った。結論はなく、あくまで私が考えるときのメモ書き的なもの。

【鍋の時間考】鍋には、時短調理のポイントがたくさん隠されている。特に、空間の使い方で、全く調理の大変さが違うところに注目してほしい。また、調理の①~⑦のどの工程が一番大変なのかを知り、そこに改善策を集中させていくと、問題が解決しやすい。

【家庭の流通を考える】ライフスタイルによって買う場所は変わってくるが、ここは流通の発展をもう少しつついていきたいところ。サービスが細分化されていって、それぞれの分野で思わぬ面白いサービスが出ている。こうしたことはプラットフォーム上で情報交換できるといいなと思っている。

【新しい献立スタイル】後片付けのことを考え、食器をミニマルにして、どう食べるか。どんぶりやワンプレートが便利だが、栄養の偏りをどう補うか。こうしたことも、単発では結構提案されている。そこへの情報アクセスがうまくいくようになるといいな。

くらしのことは、誰か一人がどんなに素敵なアイデアを考えても、動かない。ごく普通の生活をしている人たちみんなが日々を考えながら手を動かしていくこと。今回のゼミでお役に立てたことがあれば幸いだけれど、ぜひそこにとどまらず、日々の食をアップデートし、さらに周囲にも伝えてほしいなと思っている。

そして、Nサロンの私のレポートはこれが最後ではありません。つづく。

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スープの方程式は、こちらに詳しく書いてありますので、ご興味ある方ぜひどうぞ。



読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。