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私が大好きなスープ本3冊

主婦と生活社がやっている「料理本リレー」という企画があります。昨年春の緊急事態宣言のときに始まったものが再びはじまっていたらしく、友人でもある食エディター&ライターの柿本礼子さんから回ってきました。

前回のときはちょっとかっこつけてエッセイ風の読み物を紹介しましたが、今回は私がスープを学ぶにあたって、とても参考になった、またはインスパイアされた本を3冊チョイスしてみました。スープ作家の好きなスープ本なので、すみません、あまり普通の人のスープづくりには役立たないです。

①『あなたのために』辰巳芳子 文化出版局(2002年刊)

料理界隈の方には説明の必要のない、スープ本の金字塔的な一冊です。スープの大家・辰巳さんの哲学とメソッドが詰まっています。サブタイトル「命を支えるスープ」ですよ。すごいです。でもこれは、辰巳さんが病気になったお父様の介護食としてスープをはじめた、というところからきていると思います。
今私がお伝えしている「炒めたり蒸し煮してから煮る」という手法は、辰巳さんの本で知ったものです。汗をかかせるように野菜を炒める技は、あとからフレンチのシュエという手法であると知りました。

辰巳さん独特のスープ体系があり、どちらも和とフレンチの基本の体系に似ているようで、ちょっとオリジナルなんです。どれを作ってもおいしくできます。ただ、材料から道具から指定があってなかなか真似しづらい(笑)。手間抜き時短レシピ全盛には考えられない手間暇ですが、料理を仕事にするうえではこういうレシピを作ってみることで学ぶところは大きかったです。

キッチンの哲学者と呼ばれる所以である辰巳節というか、文章もキレッキレです。辰巳さんって怖い、厳しいというイメージがあるのがちょっと残念で、実はすごく台所の合理化や主婦の大変さを軽減する方法を編み出している方なんです。ですので辰巳さんをリスペクトしている私は、隠れ翻訳者として彼女の本に書かれている大事なことをお伝えしたりしています。
あと、本とは関係ないですが、ミングルの構想は辰巳さんの作った朝食用キッチンワゴンにもインスピレーションをもらいました。

②『スープの本』鈴木博・村上信夫共著(婦人画報社)昭和35年刊

びっしり文字だらけで、200前後のレシピが載っています。家庭向けと書かれていますが、要するに分量が家庭向けなだけで実際に当時の家庭の主婦がこれを読み片端からつくるみたいなことは、なかったと思います。帝国ホテルの総料理長だった村上信夫さんがレシピを担当していて、全体は正統なフレンチのスープ体系をもとに分類され、コンソメ、クレーム・ブルーテ・ピュレと、順番どおりにレシピが掲載されます。スープとは何かという頭のまとめ、だしの基本などももちろんバシッと押さえられていて、フレンチのスープについて学ぶのにとても役立ちました。私が持っているのは41年版で15刷。
話がそれますが、明治期にはスープ(ソップ)と牛乳が治療や健康に効果あるとされ、鶏や牛で煮出したスープが家庭に配達されていた記録もあります。スープ好きな日本人、慣れない洋食もスープだと取り入れやすかったんじゃないでしょうか。

この中に「クレーム・ジャポネーズ」というスープがありまして、何と材料にちょろぎ(お正月の黒豆の上に載っている、赤いねじねじの小さいやつ。赤いのは着色ですが)が使われているんですね。私最近までは、村上シェフがオリジナルで日本の食材を使ったポタージュを作ったのかと思っていたんですが、実はフランスではちょろぎが割と使われる食材のようで、なぜかちょろぎが使われるとジャポネーズ、と呼ばれるらしいんです。面白いですよね。

巻末についているスープ物語っていうコラム集も楽しいです。コンソメにはシェリー酒が合うそうです。

③『ヨーロッパのスープ料理』誠文堂新光社編 2012年刊

ヨーロッパの伝統的なスープが見渡せるだけでなく、一流シェフの料理でそれらが再現されていて、見て楽しく読んでためになり、美しい!作れない!憧れるぞ!みたいなスープ本です。

フランス、イタリア、ロシア、スウェーデン・北欧、ドイツ、アイルランド、オーストリア、ハンガリー、ルーマニア、トルコ、スペインがあり、それぞれ有名レストランのシェフが調理を担当しています。私ごときが言うのもなんですが、押さえるべきヨーロッパのスープはほぼ入っています。かなり解釈を加えたガストロノミーなものも多いのですが、テキストでベースのスープの説明もあるので難解ではないし、むしろ伝統的なスープの要素をシェフがどう取り出すのかという考察にもなるところが面白い。

あと何気に挟まっているコラムがすごくお役立ちで、これだけ読むとかなりスープに強くなれます。スープをちゃんと学びたいなら最初に読んでもいいぐらいの一冊です。

好きな本なので熱く語ってしまい、長くなりました。無人島に3冊だけスープ本を持って行けるとするなら、これかな…という私の3冊でした。

私のスープ本もよろしくお願いします。

#料理本リレー #料理本リレーおかわり

読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。