戦場のマザー・グース(強すぎる数え歌)【#毎週ショートショートnote】
ひとつ、ひとりでねむらない
ふたつ、ふりかえらない
みっつ、みつからないように
よっつ、よるまでかくれて
いつつ、いきをひそめて
私が歌ったのを、隣の子が聞いていた。眠っていると思っていたのに。充分小さな声だと思っていたのに。
「なあに、その歌。ちょっと不気味ね」
不気味なのはあなたの顔だ。幾重にも巻かれた包帯で、目しか見えない。
「お兄ちゃんが教えてくれた。お化けを追い払う歌だって。でも、最後まで歌っちゃいけないの」
「どうして?」
「お化けが来るから」
扉が開いた。
銃を構えた男たちが入ってくる。
「三十八番。出なさい」
私は立ち上がる。隣の子にさよならを言う。彼女の包帯が涙で濡れる。
男たちは私を連れ出し、壁の前に立たせた。私は壁の方を向いた。
後ろから声が聞こえる。
「まだ子どもです」
「子どもでも敵だ。しっかり狙え」
私は歌う。お兄ちゃんが教えてくれた、数え歌。最後はこう終わる。
とお、とおくへにげなさい
(本文407文字)
こちらの企画に参加させていただきました。
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